第73話 お姉ちゃんウィーク 急
一日空いてしまいすいません。
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20日・21日は投稿をお休みさせていただきます。よろしくお願いします。
その後、お姉ちゃんウィークは平和に過ぎていき、今日は最終日の金曜日である。土日はしっかり甘えられた気がするが、平日はそんな時間は取れない。基本的に一緒に寝るとかの落ち着いたものが多かった。
今日も大丈夫だろうと高を括り、教科書の音読のような歴史の授業を右耳から左耳へと垂れ流す。
ただ教科書を抑揚のない平坦な声で読まれても内容が入ってくるわけもなく、大半の生徒は何とか寝まいと眠気と戦っていた。早々に諦めて熟睡する体勢に移った奴らもいる。それを先生が注意するわけでもないのだから、寝ようと思うのも当然だろう。
授業も半分を過ぎ、何分経ったか確認して全然時計が進んでいないと落胆することを幾度か繰り返した。俺もそろそろ寝てしまおうかと思い始めたとき、教室の後ろの扉が勢いよく音を立てて開かれる。
これには寝ていた生徒や先生、眠気と戦っていた生徒の全員が後ろを振り向く。勿論、俺もその一人だ。
後ろから入ってきた美少女はきょろきょろと教室を見渡し、早歩きで俺の席の横まで来る。
「優希、行くわよ」
「……どこに?」
授業中に突然三年生で一番の美少女であり「氷の玉砕姫」が入ってきたとなれば、男子は震えながら見惚れ、女子は目を輝かせて見つめる。唯一先生だけは目を丸くして姉ちゃんを見つめていた。
姉ちゃんは有無を言わさず俺の手を取り立ち上がらせると、一度先生の方を向き、
「授業中すいません、ちょっと優希を借りていきます」
「あ、あぁ。分かった」
先生は訳も分からず姉ちゃんの問いに頷き、その答えを聞くや否や姉ちゃんは俺を連れて勢いよく教室を飛び出していく。突然の出来事で、すっかり目が覚めてしまった。
競歩選手かと思うような速さで姉ちゃんは廊下を早歩きで進み、俺は小走りでそのあとをついていく。
「ねえ、どこ行くの」
「場所は決めてあるわ。駅の近くに猫カフェがあったのよね」
「学校抜け出すの?」
思っていたのとは違う回答に、俺の口から思わず疑問が飛び出す。もっと保健室とか、体育倉庫とかいう場所かと思っていた。姉ちゃんが学校で授業を抜け出して行くとしたら、真っ先にそこが思いついた。
授業どころか学校を抜け出し、学校をサボるというのは驚いた。
「一度はやってみたいでしょ? 今までは真面目に授業受けてたからね。こういうことできなかったのよ」
「今真面目に受けてないの?」
「だって教科書の内容は全部頭に入ってるし、授業聞いててもつまらないのよ」
「あ、そう……」
三年生の十一月ごろと言ったら既に受験モードなのに、抜け出せた理由はそういうことだったのかと納得する。同時に格の違いを見せつけられ、姉ちゃんの凄さを改めて思い知った。
既に校門を出て駅に向かって歩いていくところで、俺は荷物を全て教室に置いてきていたことに気付く。それまで姉ちゃんについていくことにしか気が向いていなかったので、荷物を忘れていたことに気付かなかった。姉ちゃんもほとんど何も持っていないようだった。
「姉ちゃん、荷物……」
「それなら大丈夫よ。那月にお願いしといたから。私は大切なものは全部持ってきたから」
那月が教室に入ってきて俺の荷物を持っていく時の様子を想像する。一日に二度も三大美女に入るような美少女が入ってきたら教室の中の驚き具合は半端じゃないだろう。具体的な様子を思い浮かべて苦笑し、あとで石崎に聞いてみようと思いながら、俺は駅方面へと向かった。
☆
「わぁー! 可愛いー!」
姉ちゃんが小さな声でそう言いながら、猫じゃらしで猫と戯れている。なんというか、尊い。
駅から徒歩五分ほどに位置するこの猫カフェは、こじんまりとしていて穏やかな雰囲気がある。平日ということもあり店内に他のお客さんはいなかったため、貸し切り状態である。
そのせいもあってか姉ちゃんの周りにどんどん猫が寄ってきていて、姉ちゃんの周りがどんどんもふもふになっていった。俺の周りはというと所謂ブサカワ猫が一匹俺の隣に座っていて、おじさん座りをしていた。
可愛いので満足だが、何気にここでも差があったことに少しショックを受ける。昔から動物に懐かれるのは姉ちゃんか莉子で、俺はその様子を大抵眺めていた。
やはり猫カフェの猫は人になれていて大人しく、一匹の猫が姉ちゃんの膝の上に乗ろうとしていた。姉ちゃんは幸せそうに頬を緩めていて、その幸せがこっちまで伝わってきて、俺も口元が緩む。
「姉ちゃん懐かれてるね」
「えぇ、そうね。もふもふでいい匂いもして最高よ」
「こっちも来ないかなぁ」
「あっ、優希。隣の子来たわよ」
姉ちゃんの膝の上の猫が毛繕いをしだしたとき、俺の方では例のブサカワ猫が俺の膝の上へのそのそと登りだした。と思ったらすぐに俺の腿の間に入り、俺を背もたれにしておじさん座りを始める。
「……なんかその子面白いわね」
「おじさん座り好きだなぁ、こいつ。名前は……きなこって言うのか。見た目は確かにそんな感じだな」
「黄土色だものね」
きなこは気付くと寝ていて、そのふてぶてしい感じも猫っぽくていい。暫くそうしていると、写真OKと書かれた張り紙を見つけた。
それならということで、お互いに写真を撮ることにする。ちゃんとフラッシュはオフにした。
「姉ちゃん大丈夫? いくよー。はい、チーズ」
「後で送ってね?」
「分かってる分かってる」
姉ちゃんに俺の写真も撮ってもらった後、俺は姉ちゃんの写真を確認する。どこを見ても可愛いが溢れていて、とても貴重な一枚なのではと思った。
写真を交換すると、姉ちゃんが猫と遊び始めた。貴重なシャッターチャンスなので、俺はこっそり何枚か写真を撮る。こっちの方が、さっきの写真よりも自然でいい気がした。
☆
昼前に猫カフェを出て近くのデパートへ行き、昼食を食べたり買い物をしたりして、俺たちは帰路につく。いつもならこのくらいの時間はまだ学校で六限をやっていて、悪いことをしているときの興奮を少し感じる。
「今日でお姉ちゃんウィークも終わりなのね……」
「別にそんな寂しそうに言わなくても」
「だって、自由に優希に甘えられなくなっちゃうじゃない。寂しくもなるわよ」
姉ちゃんが道に転がっていた小石を蹴りながらそう言う。「甘えられなくなる」という言葉に違和感を感じ、俺は少し掘り下げようとする。
「なんで甘えられなくなると思うの?」
「だって、私は優希の彼女であるのと同時に『お姉ちゃん』で、優希よりも年上よ。そう思うとあまり甘えられないじゃない」
「……なんで?」
姉ちゃんがそういうことを気にするのを意外に感じながら、表面的なことを気にする必要があるのかを考え、その結論を姉ちゃんに伝える。
「あのさ、詩織。年齢差なんて気にしなくていいと思うし、二歳差なんて全然大したことないと思う。学生なら大きな差かもだけど、例えば60歳と62歳ってそんなに変わんないでしょ?」
「そ、そうね」
「俺が姉ちゃんって呼んでたせいで姉っていう意識が強まってたらごめん。これからは遠慮なく詩織って呼ぶようにする」
「う、うん」
「俺とか那月や莉子の前で姉を演じる必要は無いし、自由な詩織でいいんじゃないかな」
俺が勢いでそう言うと、姉ちゃんは少し考え込む。自分で言っておきながら、まだ俺の中で姉ちゃんは姉ちゃんだった。
姉ちゃんは肩の力を抜くと、自然な笑顔で俺の方を向き、
「私が肩書に囚われてただけみたい。常に完璧を演じて肩肘張って生きる必要は無いし、素を遠慮なく曝け出せるっていいことよね」
「そうだね」
「だから少しだけ」
姉ちゃんはそう言うと俺の胸に頭を当て、「こうしていさせて」と小さく呟く。俺には到底分からないことだが、完璧や一番を維持するということは、二番以上に大変で、プレッシャーのかかることだと思う。
姉ちゃんはずっとそんな生き方をしてきて、今回初めてそれを緩めたのだろう。人に正面から甘えることも、悪いことをするのも、堂々としたことはないのではないか。
だからこそこの一週間が終わることを寂しく思ったのだろう。
俺は姉ちゃんの背中をさすりながら、自分が姉ちゃんの居場所になれるようにしなければと思った。
余談だが、家に着くと那月と莉子が待ち構えていて、土曜日の朝から日曜日の晩まで俺は引っ張りだこだった。
次話、二学期終了です。猫カフェの話はあまり関係無かったですかね。
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