第68話 選択
今日は、姉ちゃんに呼び出されて那月と莉子、そして俺が姉ちゃんの部屋に呼び出されている。
少し遅れて那月が部屋にやってきて、何故か俺だけがベッドに座らされ、三人はテーブルを囲うように並んで俺の方を向いている。
「あのー、これどういう状況?」
「別に気にしないでいいよ、優希くん。結果次第で分かると思うから」
「……? あ、そう」
「さて、本題に入るわよ」
姉ちゃんが軽い調子で、しかし真剣な顔つきでそう言う。俺は少し居住まいを正して三人のほうを向き、姉ちゃんが話し出すのを待つ。
姉ちゃんは一呼吸おいてから口を開く。
「今日聞きたいのは、こないだ私が優希に言ったことへの返事よ。だから皆を集めたの。ちなみに、逃げるのは駄目よ。今日ここで返事をもらうから」
「そういうことね、理解した」
この雰囲気と状況からして「三人と付き合う」という提案についての答えを聞くために集めたのだろう。今日は親も帰ってこないし、ドアから逃げ出すこともできなそうだし、俺になんとしてでも答えさせようとしているのだろう。
正直言って、まだ俺の中で明確な答えは出ていなかった。こんな状況じゃなければ逃げ出していたかもしれない。本当に逃げ出せるのかは置いておいて。
俺からしても、この状況は助かるのかもしれない。こうでもされていなきゃ、俺はいつまでも答えが出せなかったかもしれない。
ずっとだらだらと回答を先延ばしにしていても、結局後悔するのは俺になる。
「イエスかノーで返事をしてちょうだい。ノーならここで誰か一人を選んで」
「ここで?」
「ここで、よ」
早く決めなければいけない雰囲気なので、俺はどっちの未来のほうが幸せなのかを考える。
三人と付き合った未来と、誰か一人を選んだ未来。俺は、どっちの未来を過ごしたいのか。
今の関係がもう少し進化して、恋人という肩書がついたが全員で過ごすのか、誰か一人との愛を育むのか。
暫く悩んだ末、俺は一つの結論を出す。
「……イエス」
「え?」
「イエスだ。俺は、いや俺も、姉ちゃんと同じようにこの四人で一緒に居たいと思った」
「三人と付き合う」という提案に惹かれつつあったというのも確かだし、現状維持を望んだというのもある。
客観的に見て正しい選択だと胸を張って言えることではないのは分かっている。でも、俺は怖かったのだ。一人を選ぶということは、二人を選ばないということ。つまり、二人を切り離すことになるのではないか、と。
俺にとって大切な人のうち二人が、いや、二人も離れて行ってしまったらどうしよう。そういった不安が、一種のトラウマのようなものが俺の中にあり、誰かと疎遠になる可能性はできるだけ無くしたかった。
こんな理由で選んでいいのかと申し訳なくなるが、俺にはこの選択を選ぶのが一番理想的だった。
「二人は、それでいいのか?」
俺は莉子と那月を見て言う。
「私はいいよ。あわよくば私を選んでほしいっていうのもあったけどね」
莉子がそういいつつも少し嬉しそうな顔でそう言う。
「私は、優希くんの気持ちを尊重したいかな。……詩織先輩、そろそろ」
那月がうずうずとしながらそう言い、姉ちゃんを見つめる。俺もそれに合わせて姉ちゃんのほうを見る。姉ちゃんは何か考え込んでいるようで、少しの間微動だにしなかった。
姉ちゃんは話し出すのと同時に、じりじりと俺の方に歩み寄ってくる。ちなみに、他二人も同様に。
「優希、私もそれでいいわ。私たちはようやく、優希と恋人になったってことでいいのよね」
「そうだね、ねぇ、なんで近づいてくるの?」
「恋人ってことは、いいよね? 優希くん」
いつの間にかすぐそこまで近づいてきていた那月に、俺はベッドに押し倒される。
「優希兄、今日は寝かさないよ?」
莉子が小悪魔のような笑みを浮かべてそう言う。姉ちゃんが俺の頭の方、莉子が足の方へと移動する。
俺はここでようやく、今日あった違和感について納得がいった。親がいないのも、ベッドに座らされたのも、莉子が嬉しそうだったのも、那月がうずうずとしていたのも……全て今日ここで俺をこうして押し倒すためだったのだ。
逃れられそうにないし、恋人なら当然あって然るべきことだが、大分色々と飛ばしているような気がする。割といつもそうだった節はあるが。
莉子の宣言通り俺は一睡もすることができず夜を過ごした。何故か少し手慣れていた三人に違和感を覚えたが、後半は疲労感でそれどころではなくなった。
個人的には長時間ぶっ続けでやるのはやめてほしいですと思いながら、俺は学校へ行くための支度をしようと動き出すのだった。
次話、お手伝いです。
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