第67話 気づき
俺が那月と莉子にもぬいぐるみを渡すと、2人が「私もゲーセン行きたい!」と言ったため、今日は姉ちゃんも含めた4人でゲーセンに来ていた。
「ねえねえ、どれやってもいいの?」
「別にいいぞ。流石に全部使い切ることは無いだろうし」
3人ともあまりゲームセンターに来たことがないのか、物珍しそうに店内を見渡していた。最近は持ち上げるのだけではなく、様々なタイプのクレーンゲームがあるため、見ていてもやっていても飽きないだろう。
待ち切れないといった様子で那月が一台の台に向かっていく。その台には、何とも言えない姿をした何かの動物、のぬいぐるみがあった。
「それ欲しいのか?」
「うん、可愛くない?」
「まあいいけど……」
那月は早速百円を入れてボタンを押す。
位置はそんなに悪くないのだが、基本的にクレーンゲームはずらして落とすものだ(確率機の場合運要素もある)。那月は何度か挑戦していたが、全部アームから滑り落ちていた。中にはより遠ざかるのもあり、少し悔しそうだった。
それを見て莉子が「私がやるから代わって」と言い、莉子が操作し始める。姉ちゃんはその様子を観察していて、那月はできるわけがないとでも言いたげに見つめていた。
「多分、こうすればいいんだよね」
「えっ! なんでできるの?」
「なんでって、何となく?」
莉子は一回目から大分大きく動かし、それに対して那月が驚きの声を上げる。莉子と姉ちゃんは何でもできるタイプなので、クレーンゲームもそれに含まれるのだろう。
莉子はさっきまでの那月の苦戦が嘘のように軽々とぬいぐるみを動かしていき、数回でぬいぐるみを落としてしまった。
「なんで……」
那月はがっくりと肩を落とす。
「まあまあ、那月もそのうち出来るようになるわよ」
「むっ、じゃあ詩織先輩もやってみてくださいよ」
「まあいいけど。それじゃあ、あれにしようかしら」
姉ちゃんが選んだのは、所謂「橋渡し」と呼ばれるもので、二本の棒を跨ぐように景品が置かれていて、かなりテクニックが必要なものだった。ちゃんと考えて動かさないと取りずらいため、初心者向けではない。
「姉ちゃん、ほんとにこれやるの?」
「もちろん。寧ろこれじゃないと駄目かもしれないわ」
「まあ、頑張ってね」
景品は今流行りのアニメのフィギュアで、姉ちゃんがそれを見ているところは見たことがなかった。何故この台じゃなければいけないのか不思議に思ったが、姉ちゃんが既に動かし始めていたため、大人しくそれを見守ることにする。
この系統のやつは最初が肝心だ。初手でミスすると後に響く。
姉ちゃんがそれを知っているのかは分からないが、初手は結構上手くいっていた。しかし、そこで姉ちゃんの手が止まる。
「どうかした?」
「優希、ここからはどうすればいいの? なんか難しそうじゃない」
「ああ、ここからは……」
止まるタイミングが早いなとは思ったものの、俺は姉ちゃんに覆いかぶさるような体制でアームを動かしていく。
すると、後ろから『ずるい……』という二人の声が聞こえてくる。
「ずるいって何が?」
俺は姉ちゃんに教えながら聞く。
「何でもないよ、優希兄」
「莉子ちゃん、後でやろうね」
「……? まあ、それならいいんだけど」
2人が何に対してずるいと言ったのかは分からなかったが、その間にも俺はアームを操作していき、姉ちゃんに手本を見せる。
姉ちゃんの顔は見えないが、ちゃんと見ているようなので後は分かるだろう。そう思い、俺は姉ちゃんから離れる。
「姉ちゃんなら後はできると思う」
「そう? ……まあいいわ、やってみる」
少し残念そうにも見えたが、姉ちゃんの手捌きは大したもので、取りずらい位置に動かすことなく順調に動かせていた。
あと一歩で落ちるというところで、後ろから名前を呼ばれる。
「優希兄、これは?」
「あぁ、それはーー」
その後、立て続けに莉子、姉ちゃん、那月、莉子…といった具合で「教えてほしい」と頼まれ、結局俺は誰かが落とす瞬間を目にすることはほとんどできなかった。
☆
最後に全員でプリクラ(各自俺とのツーショットも)を撮り、帰路につく。
「まったく、悪い虫が寄ってきて困るわね。優希をナンパするだなんて」
「そうだね、優希くんはかっこいいけど、ナンパは駄目」
「うーん……?」
その時のことを思い出し、俺は苦笑する。
トイレに行くために皆から離れ、そのあと皆のところへ戻ろうとしたとき、確かに俺はナンパされた。結果的に言えばどうにかしてそのことを嗅ぎつけた三人が駆けつけ、ナンパしてきた人たちは逃げるように去っていった。
それもその筈、三人からの威圧感は凄まじく、直接その威圧感を向けられていないにも関わらず背筋にゾクッと寒気が走った。
まあ、可哀想だったというか、運が悪かったというか。とにかくその人たちは大分萎縮して半泣きの状態で去っていった。
「それを言うなら、皆もナンパされてたけどね」
「迷惑よね。あの時は優希が来てくれたからよかったけど」
「優希兄ありがとう」
姉ちゃんが心底迷惑そうな顔でそう言い、莉子と那月はそれに頷きながら返事をしたり相槌をうつ。
俺の時の三倍くらいの人数が集まっていて、一瞬有名人でもいたのかと勘違いしたほどだ。しかし、俺が何事かと様子を覗くと、三人が何やら困っているようだったので、俺はそこに割り込んで姉ちゃんたちを連れてそこから逃げたのだ。
他人事のようだが、顔がいいというのも大変そうである。
「でも、今日は楽しかったから、また皆で遊ぼうね!」
「うん、皆でね」
那月の言葉に、俺は少し考え込む。
「皆で」遊ぶ。最近は、石崎や瀬川を含めて誰かと二人で遊ぶということをしていないかもしれない。大体の場合三人(石崎と瀬川を含めたら五人)で居ることが多く、俺はそれを心地よいと感じている。
そうなってくるとやはり、姉ちゃんの言う「三人と付き合う」というのがいいのだろか。
まだ悩んではいるものの、俺の中で姉ちゃんの意見へとだんだん傾いて行っているような気がした。
次話、選択です。
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