第62話 夢
俺は那月と一緒に家に入り、先にリビングへ向かう。
「ごめん、ちょっと疲れたから寝る」
「うん、分かった。体調悪いの?」
「いや、そうじゃないけど。頭が痛くて」
「そう。それじゃあ、私は他の事してるから、ゆっくり休んで」
那月の言葉に甘えて、俺は少し休むことにする。
疲労感と眠気が凄く、とてもじゃないが起きている気になれなかった。
那月に好きにしていいと伝え、俺は自分の部屋に入りベッドに倒れ込む。
俺はそのまますぐ夢に入り、とある夢を見た。
☆☆☆
それが夢だということは、直ぐに気が付いた。
上空から俯瞰するような視点に俺はいて、下には幼い俺と神楽坂がいた。
「どうしたの? なんで泣いてるの?」
あの公園の、俺が振られた公園のブランコに座って泣いている神楽坂に向けて、俺はそう問う。
すると、神楽坂は顔を上げて、俺の目を真っ直ぐ見つめる。
「男子が意地悪してくるの。物を盗られたり、髪を引っ張ったりしてくるの」
「……酷い」
俺は顔を顰めながらそう呟く。
今思えば、その意地悪をした男子たちは、神楽坂に構って欲しかっただけなのかもしれない。小学生くらいまでは、好きな子に意地悪をしてしまう事はあるだろう。
「私、怖い。私が何もしてなくても意地悪してくるの」
「大丈夫! 俺がついてるから。そういう時は俺に言ってよ!」
俺は神楽坂の隣のブランコを勢いよく漕ぎながら、神楽坂に向かって自信満々にそう言う。
今でこそ神楽坂は強くなったが、昔はそうでは無かった。だから俺の役目は神楽坂を守る事だと思っていた。
俺もそれなりに力はあったし、男子たちもやりたくてやっていなかったため、直ぐに意地悪をやめてくれたのを覚えている。
「優希、ありがとう。ちょっと元気出た」
「それは良かった」
赤く腫れた目でにっこりと眩しい笑みを浮かべて俺を見る神楽坂に、俺はブランコを漕ぎながら同じく笑みを返す。
余所見したのがいけなかったのか、俺は手が滑ってそのまま前に投げ出される。そして顔面から着地する。
「大丈夫? 凄い音したけど」
「だ、大丈夫だよ。うん」
俺は泣きそうになるのを堪えながら、服に着いた砂を払ってそう言う。
確かにこんな事もあった気がする。恥ずかしかったので思い出さないようにしていたのだろう。
その後俺は「何して遊ぶ?」と神楽坂に聞き、そのまま神楽坂と遊び出した。
そして、視点の視界は捻れ、また別の時間へと飛ぶ。
☆☆☆
視点は中学生のときに飛び、さっきと同じように上空から俯瞰するような視点に俺はいた。
俺の下では、体育祭をやっていた。俺のつけている鉢巻の色からして、これは中学2年生の時の体育祭だろう。
陸上競技場を借りて行うタイプの体育祭で、トラックではクラス対抗のリレーが行われようとしていた。俺はそれをベンチに座りながら眺めていて、その中の1人の男子を見つめていた。
中学に上がりどんどん格好良くなっていった鳳は、スポーツ面でも才能を発揮していき、今回のリレーでは注目されている1人だった。
スタンドからは女子が身を乗り出して鳳に黄色い声援を送っていて、鳳はそれに照れながらも手を振り返す。
その女子の中には神楽坂や神坂もいて、当時の俺は複雑な心境になる。
俺がモヤモヤとしているうちに、ピストルの乾いた音が競技場に鳴り響き、一走の選手が走り出す。
男女4人が交互に走り、1人100メートルを走る。
あっという間にアンカーになり、鳳のクラスは3番手で鳳にバトンを渡す。
1位までの差は10メートル程で、スタンドの声援が更に大きくなる。
鳳はそんな声援の中、前との差をグングン詰めていき、陸上部顔負けの走りで1位を抜き去り、ガッツポーズをしてゴールした。
「すげぇな……」
ゴールしてクラスメイトとハイタッチをしている鳳を見ながら、俺はそう呟く。
この頃には、鳳と神楽坂、神坂の3人と俺との間にハッキリと差を感じるようになり、俺は劣等感を抱くようになっていた。
そして同時に、3人との間に謎の距離が出来たように感じていた。
この頃には既に、俺の事を下に見始めていたのかもしれない。
そしてまた視点の視界が捻れ、別の時間へと飛ぶ。
☆☆☆
次に飛んだのは何かが吹っ切れたあの日、俺が裏切られた日だった。
ベンチに座る神楽坂に向けて告白し、振られ、神坂と鳳が後ろから出てくる。
一通り悪口を言われて突き飛ばされ、3人から蹴られる。
近くの民家の窓を見ると、那月らしき人物がこちらを覗いている。
3人が立ち去り、俺は一人取り残されている。
……一体何故、こんな事になってしまったのだろうか。どこが間違っていたのだろうか。
今更後悔する事は無い。アイツらへの未練も無い。今の現状に不満は無い。
それでも、何故こんな事になってしまったのかと考えざるを得なかった。俺は間違ったことをしたとは思っていない。
だが何故か、胸にぽっかりと穴が開いてしまったような気がした。
次話、戻ってきた優希です。
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