月不知のセレネー26
どうやら鍵山さんたちのサークル『インビジブルムーン』はかなり相性の良い二人組のようだ。彼らが作り出す音と言葉。その二つが混ざり合って最高の音楽を奏でているように思う。
素材を生み出すのが鍵山さん、それを調理するのが遠藤さん。きっとそんな関係なのだろう。その関係性は否が応にも私と兄の関係を想起させた。私たちも同じだったのだ。物語のストーリーとキャラクター作りをする私とそれを人に見せられるように仕上げる兄……。これでもかと言うくらい私たちは似ていると思う。
「遠藤さんってとてもロマンチストなんですね」
気がつくと私はそんなことを口走っていた。
『え!? 何で分かるんですか?』
「あ、ああ。すいません。歌詞を聴かせていただいた印象でそう感じました。なんて言うか……。言葉選びがとても情熱的なんですよね。それでいて儚い……。と思います。きっと遠藤さんは作家向きなんだと思います」
『ふへぇー! そうなんだ……。やっぱり海音ちゃんってすごい』
電話越しに鍵山さんのそんな悶絶するみたい声が聞こえる。
「そうですね……。私も作家の端くれなので思うのですがきっと彼はとても優しい方なんだと思います。……失礼を承知で言わさせていただければ」
私はそこで一旦言葉を句切った。そして続ける。
「優しすぎるんですよね。もうガラスみたいに。彼の言葉選びにはそんな雰囲気がある気がします」
『……そう、ですね。確かに海音ちゃんは優しすぎるかも……』
鍵山さんはそう言うと嬉しそうにため息を吐いた。
「ごめんなさいね。ちょっと変な言い方してしまって」
『いえいえ! 悪口とかじゃないですもん! 大丈夫です。うん! 大丈夫』
鍵山さんは自分に言い聞かせるみたいに言うともう一度『大丈夫だよね』と呟く。
それから私たちは互いのこれまでのことを色々と話した。どうやってクリエイターになったかだとか、視覚障害ならではのあるある話だとか。そんな話だ。
『冬木さんお辛かったですよね……。お兄さんのことは本当に残念でした……』
「ああ、もう大丈夫ですよ。兄が亡くなった当時は落ち込みましたけどね。もうすっかり元気になりました。まぁ……。なかなか作家業に完全復帰ってわけにもいかないんですけどね」
『そうですか……。半井さんとは付き合い長いんですか?』
「半井先生とは……。そうですね。もうかれこれ四年近くなりますね。あの人にもすっかり助けて貰っちゃって」
私はそう答えながらこの四年のことを思い返した。半井先生と私。それはきっと運命的な出会いだったのだと思う。彼女がいなければとっくに作家なんて廃業していたし、こうして鍵山さんと話す機会も持てなかったはずだ。そう考えると縁の不思議さに感じる。
鍵山さんと話していると不思議と優しい気持ちになれた。妹なんて持ったことないけれど、本物の妹のように思えた。鍵山さんの歳は半井先生と大して変わらないのにそう感じるのだ。もしかしたら鍵山さんとの出会いも運命かも知れない。私は殊勝にそんなことを思った。




