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月不知のセレネー19

 喫茶店の店内はさっきより幾分混み合ってきたようだ。スーツ姿の男女が多い。おそらくニンヒアの社員以外にとってもここは居心地の良い場所なのだろう。

「来月からの出張の予定を調整したいんですよね」

 遠藤さんはそう言うとスケジュール帳を取り出した。

「月音だけなら問題ないのですが僕の仕事も立て込んでまして……。最終週だけはどうしてもこちらに出向出来ないんです」

「そうでしたか……。分かりました、どうにかしましょう。では……。こちらも京極と話して調整してみますね」

 私はそう応えると自身のスケジュール帳に『六月二〇日 京極さんとスケジュール打ち合わせ』と殴り書きした。明日は京極さんも本社に来るしちょうど良いだろう。

「ありがとうございます。本当に助かります」

 彼はそう行ってペコリと頭を下げた。私は「いえいえ」と笑顔を作って応える。

「あとですね……。こちらを見ていただきたくて」

 遠藤さんはそう言ってA4サイズで厚みのある茶封筒をバッグから取り出した。

「これは?」

「それは僕たち……。『インビジブルムーン』の今までの楽曲と未発表の曲。あとは月音が書いた歌詞をまとめたものです。何かの参考になればと思いまして」

「ありがとうございます。大切な資料としてお預かりさせていただきますね」

 私はそう言って茶封筒の中身を取り出した。中身は数十枚の楽譜と歌詞。あとCDも何枚か入っている。

「すごい! こんなにたくさんの曲を作ったんですね」

「ええ、自分で言うのもおこがましいですが僕らは本当にたくさんの曲を作ってきました。……まぁ、実際に曲と歌詞を作ったのは月音で僕はただそれを清書しただけなんですけどね」

 遠藤さんはそう言って自嘲ぎみに笑った。『もし月音の目が見えているなら僕は用なしです』。そんな自嘲が含まれた言い方に聞こえる。

 私が彼らの楽譜に目を通していると横から柏木くんが数枚の楽譜を抜き取った。どうやら彼も『インビジブルムーン』の楽曲には興味があるらしい。

「……見るのはいいけどバラバラにしないでね」

「はい。気を付けます」

 柏木くんは私と二人きりのときとは違ってかなり丁寧な口調で応えた。そのとき気づいた。ああ、この男は私を舐めているだな。だから二人きりだとあんなタルそうなんだな。と。

 そんな私の気持ちなど意に介さないといった感じで柏木くんは真剣に楽譜を読みふけっていた。これじゃやる気があるのかないのか分からない。

 それから私たちは軽い昼食を食べてそこで解散した。

「では……。来月からよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」

 さて……。午前中の部はこれで終了だ。少し休んだら高井戸に行こう。


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