親友・楠坂の考察~そして伝説へ~
出来過ぎている。
ゴールデンウイーク最終日。聖生とのゲーム合宿を終えて帰ってきた楠坂は、聖生の異世界冒険譚をざっくりとまとめ上げてから、そう思った。
(出来過ぎてるんだよなぁ、何もかもが)
時間軸のずれについてはまぁよしとしよう。魔法があるのなら、ある程度の融通は利くものと判断した方が話が早い。
しかし、
(“パッシブスキル”とか“諦めたらそこで試合終了”とか――明らかに同年代の奴なんだよなぁ、初代国王。隠し扉のギミックが『ハコニワ・ガンオイル』とまったく一緒とかあからさますぎるし、聖生に優しすぎる。それに漢字。ちゃんと聖の字を“セイ”と“ヒジリ”の二種類で読むとか、教育がかなり行き届いてる。漢字辞典でも持ち込んだのか?)
そう思いながら、何の気なしに手元の漢字辞典をぺらぺらとめくる。
(そもそもどうして聖生が――いや、聖生なのはわからなくもない。あんな善良なやつそういないし――問題はそこじゃない。なぜ、男が召喚されたんだ? それも二度も失敗して……)
そういえば。
自分が魔王によって召喚された時も、落雷が二度あってそれから現れた、と聞かされた。
(魔王も二度失敗した? そんな都合の良いこと――いや待て、そういえば、魔王の台詞……確か、“親しき女の一人もいないとは”とかって言ってたんだったな。っていうことは……)
つまりそれは、女神も魔王も女性を召喚しようとして失敗して、後がなくなり、「誰でもいいから適切な人材よ、来い」と命じたということではないのだろうか。
(え、ってことは……召喚を失敗させる呪い? みたいなのがあったってことだよな。女性は絶対に呼べない、みたいな……初代国王がそこまで仕込んだ、ってことか?)
いったい何のために……。
辞書を持って、いたずらにぺらぺらとめくりながら、楠坂は思考の海に沈んでいく。
その彼の目の前で、ふいにパソコンがブラックアウトした。
「……は?」
突然釣り上げられた深海魚のように、楠坂は目を剥いた。
「おっ……おい、ちょ……待って……」
せっかく作った十万字越えの物語(※なぜかほぼノンフィクションのファンタジー)のプロットが消えたかもしれない、という現実に、楠坂の頭までブラックアウトしそうになる。それを寸前で押しとどめた。落ち着け、バックアップはしてあるはず、大丈夫だ落ち着け、と言い聞かせながらゆっくりと立ち上がり、現状を確認しようと――
――して、再び硬直する。
真っ暗になったパソコンの画面が、徐々に金色になってきたのだ。
その色は、あの異世界から帰ってきた時に見たものと同じ――
「……え?」
『――勇者よ』
「おわぁっ?!」
どこからともなく声が聞こえて、楠坂は反射的に辞書を盾のごとく持ち上げた。
『この世界の行く末を知るものよ――』
『汝、召喚に応じ、我らのために道を拓け――』
「え? はぁ? なに、を……っ!」
パソコンからの光が急に強くなって、楠坂の視界は真っ白になった。
そして――
――目を開ける。
「こ、こは……」
神殿だった。山頂のふきっさらしの神殿。四隅に石柱が立ち並んでいて、石畳もどこか新しげである。
楠坂は、あの時半分崩れていた祭壇の上に立っていた。呆然と立ちすくんだ楠坂の手の中から、漢字辞典が滑り落ちてどさりと重たい音を立てた。
目の前には、真っ白いワンピースに身を包んだ若い女性がひざまずいている。
その女性は顔を上げて、楠坂を見上げると――
「――あなた様が、女神様の遣わした勇者様、ですか?」
潤んだ瞳でそう言った。
瞬間、楠坂はすべてを察して、頭を抱え込んだ。
(なるほどちくしょうそういうことか――っ!!)
突然声もなくうずくまった楠坂を見て、思わず聖女は近寄ると、
「あ、あの、勇者様? 大丈夫ですか?」
そっと彼の手に触れた。
おしまい
ここまでお付き合いくださったすべての方々に、心からのお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました!
井ノ下功




