第二話 好感度不足
「あー……。眠いのに、眠れねえ」
アパートに帰宅し、寝ようと思ったが、あの画面の残像が頭から離れなかった。
同じ大学の女の子。
名前も知っている。
それが、ただのゲームキャラとして表示されていた。
「モデルでもやってるのかな?
……まあ、可愛いもんな」
ベッドに寝転びながら、アプリを開くと、そこには彼女がいた。
ホーム画面で、こちらを無表情に見ている。
編成。
装備。
強化。
よくある項目だ。
装備を選ぶ。
武器欄に並んでいるのは、カッターナイフ、包丁、バット、竹箒、チェーン。
「まともなのはねーのかよ……。」
とりあえず、一番攻撃力がありそうな包丁を選ぶ。
彼女の右手が画面の端に一瞬だけ見切れ、次の瞬間には包丁を握っていた。
続いて、防具欄を開くと、高校ジャージ、春秋コーデ、夏コーデ、冬コーデが並んでいた。
「防具じゃねーよ! 服じゃねえか!」
思わずツッコミながら、冬コーデを選ぶ。
生地が厚い分だけ、防御力も高いはずだと考えた。
「……えっ!?」
彼女の動きが、画面の中で変わった。
着ているネイビー色のパーティドレスの裾に手をかけると、そのままゆっくりと脱ぎ始める。
それは、あまりに現実的だった。
ドレスを首から抜こうと、両手を上げた瞬間など、一瞬だけ肋骨が浮き出た。
やがて彼女は下着姿になり、冬コーデへと着替えていく。
「もしかして……。」
それを眺めながら、ふと考えが浮かんだ。
冬コーデを外せば、彼女は下着姿のままになるのではないか、と。
スマホを持つ左手に、思わず力が入る。
「……良し!」
彼女は、動いた。
冬コーデを脱ぐと、そのまま下着姿になり、何も隠さず立っていた。
スワイプすると、わずかに遅れてカメラが左右に動く。
ピンチアウトすると、画面の中の距離が縮まる。
「だったら……。」
やや斜めからアップにした胸を眺めながら、欲が出た。
さらに、下着も外せるのではないか。
彼女の着けている下着に指を置き、そのまま防具欄へとドラッグする。
『該当装備は倫理制限対象です』
『解除には好感度が足りません』
駄目だった。
赤い文字が点滅し、操作は拒否された。
なるほど、と納得した。
だが、すぐにわけが分からなくなった。
キャラクターの好感度を上げて、コンテンツが解放される。
よくあるシステムだ。
しかし、ガチャには老若男女がいた。
おっさんや婆さんの好感度を上げて、何が楽しいのだろうか。
「そう考えると……。俺、すげー運がいいんじゃね?」
いいな、と思っていた彼女。
明るく、友達も多く、俺とは真逆の存在だった。
話しかける勇気は持てず、ただ遠くから見ているだけだった。
画面の中の彼女は、精巧なコラ映像だと頭では分かっていた。
だが、それで十分すぎた。
いつの間にか、息は荒くなっていた。
「朝だけど……。まあ、いいか」
俺は、寝るために寝る努力をすることにした。
******
「あーーー……。牛丼でも食べに行こうかな」
結局、午後の講義はサボった。
なかなか寝付けず、起きたのは夕方だった。
気づけば、夜の十一時。
ノートPCで、だらだらと動画を見ていた。
「うおっ!?」
ふと、スマホがバイブした。
テーブルの上で小さく跳ね、かたかたと音を立てた。
「……もしかして、地震警報?」
こんな時間に電話をかけてくるような友達はいない。
スマホに手を伸ばした、その瞬間だった。
画面が暗転し、強制的にアプリが起動する。
そこには、彼女がいた。
今朝、アプリを閉じたときと同じ姿。
薄いピンク色の下着を身につけたまま、そこに立っている。
その手には、包丁が握られていた。
『対戦相手が決まりました。投票を開始してください』
機械的な音声が流れた。
「えっ!? ……投票?」
視線が、まっすぐこちらを貫いている。
大学では見たことのない、鋭く覚悟を決めた目だった。
『バトルまで、00:58:47』
減っていくカウントダウン。
時折、彼女の頭上にある万円表示の数字だけが増えていく
「……何なん?」
スマホは、アプリどころか端末の操作すら受け付けなかった。
俺は、ただ画面を眺めることしかできない。




