第9話 衝撃の真実
滝の裏側に開いた通路を抜けると、そこは鏡のように透き通った、見たこともない世界だった。
「みんな、見て……」
アマが、震える声で呟く。
「地図の上では最も遠いはずの場所が、今、目の前にある」
ビマたちが「新大陸への冒険」だと思って歩き続けてきた道は、実は一本の直線ではなく、巨大な円環の上だった。
その最果ての地こそが、王宮から最も遠く――音楽の理論でいう「増4度」の距離にありながら、物理的には最も「裏側」に隣接している、特異点だったのだ。
通路の先には、豪華絢爛でありながら、どこか退廃的な、紫の霧に包まれた宮殿が広がっていた。
三人は、息を潜めてその中へ足を踏み入れる。
そして、見た。
行方不明だった国王トニックの傍らに、あのジャジー海岸で出会った、圧倒的な色気を放つ女が――馴れ馴れしく座っている姿を。
「……あれは」
ディマの声が、掠れた。
「サブスティテュート……?」
彼女こそ、裏の魔女。
宰相ドミナントのような「正しい解決」は決して教えない、王がかつて禁じた「4つ目の音」を宝石のように身にまとい、「半音」でヌルリと王の懐に滑り込む夜の女。
王宮の窮屈な正論に飽き飽きしていた国王に、禁断の快楽を与え続けていたのは――他ならぬ、彼女だった。
国王は、驚愕するビマたちをゆっくりと見下ろした。
サブスティテュートの腰に手を回しながら、彼は静かに口を開いた。
「ああ、来たか」
国王トニックの声には、驚きも動揺もなかった。
「紹介しよう。彼女はサブスティテュート。あのアナクロな宰相では決して辿り着けない悦楽を、私に教えてくれた、『裏の宰相』だ。最高の響きを捧げてくれる、真の理解者だよ」
「陛下……」
ディマの唇が震える。
「あの古臭い宰相ドミナントはどうしている?」
国王は、面倒臭そうに続けた。
「あいつの『解決せよ』という説教には、もう飽き飽きしていたのだ。私は今、このサブスティテュートが奏でる、甘く危険な響きに夢中でね。本国のことなど、どうでもいいのだよ」
自分を必死に守り続けてきた宰相を、「古臭い、使い古された道具」として――国王は、そう吐き捨てた。
「バカな……!」
ディマが、叫んだ。
「陛下、あなたはあんなに清廉潔白で、秩序を重んじる方だったはずだ!」
「白鍵だけの世界など、すぐに飽きてしまうのだよ」
国王は、冷ややかに答えた。
「私は昼間は王として君臨し、夜はこの場所でサブスティテュートと一緒に、お前たちが忌み嫌う毒にまみれて遊んでいた。……お前たちの『忠誠』も『苦しみ』も、私の余興を彩るスパイスに過ぎなかったのだ」
「俺の♭5の呪いさえ、あんたの暇つぶしだったというのか……!」
ビマの拳が、握りしめられる。
「じゃあ、私の身代わりとしての涙も」
アマの声が、かすかに震えた。
「あなたの筋書き通りだったの……?」
誰も、答えなかった。
国王は、ただ静かに微笑んでいるだけだった。
その微笑みが、三人の中で何かを、決定的に壊した。
**♪ 今日の音楽理論ひとくちメモ**
王宮から最も遠い「増4度」の距離は、かつて「悪魔の音」と恐れられた不安定な音程。ビマの呪いと同じ名を持つこの距離に、裏の宮殿があったのは、決して偶然ではないのかもしれません。




