第11話 テンションの夜と、老人の予言
王の言葉に打ちのめされたまま、紫の霧に包まれた宮殿を飛び出した三人は、テンションの森のほとりでキャンプを張った。
焚き火の火は、Cメジャー王国では見たこともない、少し青みがかった色をしていた。この旅で最初に手に入れた「7th」の炎。
それは、三人がこの旅で初めて掴んだ「自由」の色でもあった。複雑な気持ちのまま、三人はしばらく、その揺れる炎を見つめ続けていた。
「……どうぞ」
沈黙を破ったのは、真面目な庶務官ディマだった。彼は、森で拾った「9thのハーブ」を煮出した鍋を差し出す。
「9thの雫を少々。隠し味に、11thのスパイスも入れてみました。……毒味はしてあります」
照れくさそうに、彼は付け足した。
一口飲んだアマが、うっとりと目を細める。
「……不思議。口の中で、味が『解決』しないで、ずっと漂っているわ。でも、嫌じゃない。むしろ、もっとこの余韻に浸っていたい……」
「9度や11度の音は、解決を急がない『豊かな余韻』をもたらすんだそうです」
ディマが、9の老人から聞いた話を思い出しながら呟く。
「あの老人が、いつかこの閉じた世界が息苦しくなったとき、この音が空気を入れ替える窓になる――そう言っていたのを、今なら少しわかる気がします」
焚き火を囲む三人の間に、しばらく静かな時間が流れた。
「……俺も」
ぽつりと、ビマが口を開いた。
「その『窓』の一部だったのかもしれないな」
「ビマさん……」
「忌み名を持たされ、国境の外に追いやられた俺の響きも……誰かにとっては、外の空気を吸うための窓だったのかもしれない」
アマが、そっとビマの隣に腰を下ろした。
「……ええ」
彼女は、静かに頷いた。
「あなたのあの複雑な響きがあったから、私は影武者としての役割を忘れて、一人の女として空を見上げることができたのよ」
「まさか、国王自ら紫の宮殿で二重生活を送るようになるとは……」
つぶやきながら、ディマがふと気づく。
焚き火の炎が消えた跡が、地面に完璧な正三角形の形を刻んでいることに。
それは、魔術師オーギュメントが予告していた「宇宙の真理」が、すぐそこまで迫っている合図だった。
**♪ 今日の音楽理論ひとくちメモ**
9thに続く「11th」も、コードに重ねられるテンションノートの一つ。9thよりもさらに浮遊感が強く、明確な結論を避けたいときに使われます。複数のテンションを重ねるほど、響きは複雑で「大人びた」ものになります。




