サイドストーリー:橋本大輔の上司の視点
橋本の問題が発覚したとき、俺は正直、驚かなかった。
あいつはできる奴だった。営業成績もよかった。口が回って、場の空気を読むのが上手かった。でも、どこかに「ズレ」があった。細かい数字に甘くなるときがある。プライベートと仕事の線引きが曖昧なときがある。いつかひっかかるだろうと、なんとなく思っていた。
経費の使い込みが出たとき、他にも問題が出てきた。詳しくは言えないが、「そういうやつだったか」という感想だった。
その後の橋本は、見る影もなかった。以前の自信はどこに行ったのか。俯いて、言い訳ばかりした。謝罪の言葉は滑らかだったが、本気でどう立て直すかを考えているようには見えなかった。
ちょうどその頃、スケーリルというサービスが大手に買収されたというニュースをITの業界誌で読んだ。個人開発者、北山誠司という名前があった。
橋本の昔の知人ではないか、と思ったのは後日のことだ。橋本が落ち込んでいる頃、「昔の友達がすごいことになってる」とぽつりと言ったことがあった。
なるほど、と思った。同じ年齢で、同じスタートに近いところにいた人間が、こんなに違う場所にいる。
人生というのは、静かに分かれていくものだ。橋本が会社を去る日、俺は特に引き止めなかった。それだけのことだった、というだけの話だ。




