目覚めと出会い
またここか。
白い空間。
目の前には黒い何か。
今回は、なぜか椅子が用意されていた。
「お疲れ様。
だいぶ派手にやったね。」
派手に?僕は何をしたんだ?
…そうだ、力が溢れてきて、ナビに反抗して、
ガルムを撃破して、シアを助けて…
あの時の戦闘がフラッシュバックする。
「そっか、君のおかげなんだよね。
ありがと、力を貸してくれて。
やっと勇者らしいことができたよ。」
「お礼はいいよ。
いつでも助けてあげるよ。」
「おかげで体はボロボロだけどね。
耐えれるほど強くならないと…」
「大丈夫、君はまだまだ強くなれる。
嘘じゃないよ。」
「ありがとう」
「それじゃもう時間のようだ。
彼女が君を待ってる。」
前と同じように扉がある。
扉の前に立つ。
前よりも簡単に開く。
「じゃあ、またね。」
振り向いて挨拶をする。
でもどうしてだろう。
彼が笑っている。その姿に、不気味さを抱いてしまった。
--まるで、なにかを待ってるみたいに…
◇
目が覚める。
ベッドの上、見知らぬ天井。
「お目覚めですか?勇者様」
綺麗な女性。思わず見惚れてしまう。
額に彼女の手が添えられる。
「体温には問題はないようですね。
私の祈りが通じたみたいで、よかったわ。
他に体に問題はありませんか。」
と言いながら、僕の体に手を伸ばしてくる。
…なんか近くない?
顔が熱くなる。
彼女から少し離れようとした時、
腕に痛みが走る。
巻いていた包帯が赤く染まる。
「いけません!傷が開いています。
すぐに処置します。」
彼女は装飾の施された杖を取り出し、呪文を唱える。
暖かな光が出てきて、僕の腕を包み込む。
「処置が終わりましたので、巻き直しますね。」
痛みが和らいだ、もしかして…
「あなたは聖女なんですか?」
彼女は僕と目を合わせる。優しい瞳だった。
「申し訳ありません。
私のこと名乗っていませんでしたね。
私の名前はアリア、この国の代表する聖女です。
お会いできて光栄です、勇者様」
僕の手を取り、まっすぐな瞳で僕をみる。
思わず顔を逸らしてしまった。
すると視線の先にシアがいた。
かなり不機嫌そうな顔をしている。
「ずいぶん打ち解けたようで、アリア様。」
「これはこれは、ビクター家騎士団長シア様。
お元気そうで何よりです。」
「…今日の治療は終わったのでしょう。
多忙である聖女様が、ここで時間を無駄にするのは問題では。」
「いいえ、大丈夫です。
今は勇者の治療に専念しろと国王様より指示をいただいておりますので。」
「そう。でも、今日でその任務は終わりよ。
今日はアイのところに連れていく予定だから。」
「ああ、アイ様ですね。
彼女も素晴らしい聖女です。
治療に関しては私以上の能力がありますからね。」
「だから、来ていただいたところ申し訳ないのだけど、
ユスのことはもう大丈夫です。」
「いえいえ、数百年に一度の勇者様。
できるだけ多くの人で支えるべきではないでしょうか。」
「支える?監視の間違いじゃなくて?」
「さて、なんのことでしょうか?」
二人の間に、見えない刃があるようだった。
あまりの空気に言葉が出ない。
「ですが、今日はお暇させていただきましょう。
それでは勇者様。お元気で。シア様も。」
アリアがシアの横を通る。
すれ違いざまに、アリアが話す。
「シア様。アイ様には十分お気をつけて。
それに、彼女に頼らなくても、
私が勇者様をお助けいたしますわ。」
「ご忠告どうも。」
アリアは優雅に一礼すると、静かに部屋を出ていった。
「ユス、傷の方は大丈夫?」
「え、あ、うん。彼女のおかげでだいぶ良くなったよ。まだちょっと痛むけど。」
「そう、良かった。」
少しの沈黙。
「「あのさ」」
2人の声が被る。
「あ、ごめん、先にどうぞ…」
「いえ、ユスが先に…」
また、沈黙。
気まずい空気が漂う。
「おやおや、初々しいじゃないか。」
いつの間にか、扉のところに男が立っていた。
男というより、子供?
顔も幼さが残り、背も低い。
それでも、立派な服を着ていて、オーラも感じる。
「ビクター様!」
「え?この人が?」
「この人呼ばわりとは心外だな〜。
こんにちはユス君。
敬称なんていらない。そのままビクターと呼んでくれたまえ。」
手を差し伸べられる。
「ユスです。よろしくお願いします。」
その手を握った、次の瞬間――!
「伝説の勇者様が我が国に来てくれるなんて!」
「しかも、大活躍だったみたいじゃないか!」
「絶望的な状況に颯爽と現れ、敵を撃破!」
「まさに、勇者!悪から世界を守る正義の味方!」
「生きてる間に会えるなんてほんと光栄だよ!」
火を切ったように話し出す。
力強く手を握られ、そのまま遠慮なく上下に振られる。
後ろでシアが呆れたように頭を抱えている。
「あ、ありがとうございます。」
思ったより、ずっと勢いのある人だ。
「ほら、そんな敬語なんていいから、タメ口でいいよ。」
「そういえば傷の方はどうだい?」
「完治するまで我が屋敷を使ってもいいからね。」
「なんなら完治した後でもここに住んでくれても構わない!」
「おっと、君もまだ疲れているだろう。ゆっくりと休んでくれ。」
「食事も気にしないでくれ。時間になったらメイドに運ばせるよ。」
「そうだ、リクエストはあるかい?好きなものを作らせよう。」
「と言っても記憶がないんだったな。それなら我が国の郷土料理を持ってこよう。」
「絶品だよ。きっと気にいると思う。」
まずい、このままじゃ流される!
「あ、あの!!」
「ん、どうしたんだい?」
彼は動きを止め、僕を見つめる。
頭を抱えていたシアも僕をみている。
「その、ありがとうございます。
傷の手当てや、ベッドまで…
本当にありがとうございます。」
「なんだそんなことか。」
彼は優しい笑顔を浮かべる。
シアも笑顔になっている。
「礼を言うのはこちらの方だ。
君は騎士団を救ってくれた。
報告は受けているよ。
改めて、礼を言わせてもらう。
ユス君、我が騎士団、家族を救ってくれてありがとう。」
彼は深々と頭を下げる。
「あ、いや、勇者として当然のことをしたまでで…」
あまりの態度の変わりように、戸惑ってしまう。
すると彼が顔を上げた。
「じゃあ、これでおあいこということで。
気兼ねなく使ってくれたまえ。
何かあったらメイドに行ってくれたまえ。
それじゃユス君。ゆっくり休んでくれ。
あと、シアちゃんを少し借りるね。」
ビクターは軽く手を振ると、そのまま部屋を出ていった。
シアは一瞬だけユスの方を見てから、静かに後を追った。
小さな嵐が去り、静かな部屋が残った。
さっきまでの騒がしさが、嘘みたいだった。




