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決意の夜

「ってことで、私たちの出会いにかんぱーい!!」

酒の匂いと笑い声が入り混じる店内に、アイの音頭が響く。

テーブルには様々な料理が置かれている。

どれも美味しそうな見た目と香りがしていた。


「よう、アイ!この前はありがとうな!」

突然、ガタイのいいおじさんが声をかける。


「うっさい、こっちの苦労を考えろ!

もう怪我なんてするんじゃないわよ!」


「まぁ、硬いこと言うなよ!」


そう言って、おじさん達は笑いながら奥の席についた。


「全く…」


でも、アイも満更嫌そうではなかった。


「アイは慕われてるんだな。」


「ええ、この街一の聖女よ。その気になれば王国入りもできるわよ。」


「やめてよ、お世辞を言うのは…

それに、あんなとこ行くか。」


「そんなに嫌なのか?」


「…いろいろあるのよ。」


シアも、どこか困ったように笑っている。


「アイちゃん、ティアちゃんこんばんわー。元気にしてた?」


誰かがアイの後ろから首に腕を回し、肩口からひょこっと顔を覗かせる。

赤い髪のツインテール、褐色の肌の女性。

青くて大きな瞳が目を引く。

白のノースリーブにジーンズのホットパンツ、靴はブーツというかなり軽装。

腰にはポーチを携え、左右に剣を装備している。


「おや?ベクターの子犬ちゃんも一緒なのね。って、え!?男!!

私のアイちゃんに男!!そんな!私に隠れて浮気!?

酷いよ!訴えてやる!」


「うるさいローラ!だれもあんたの女になった覚えはないわよ!

ほら離れて!」


「そんなつれないこと言わないでー。

あ、これもらうね。」


「あ、コラ!これは私の酒!」


プハー、っとグラスを飲み干した後、

僕を見つめる。


「で?あんたは誰?」


「この人はユス。私の友人よ。」


僕よりも先に、シアが答える。

つっけんどうで必要最低限の回答だった。


「ふーん、あんたに友人がいたなんてね。」


嫌味そうにローラが返す。


「ねぇねぇ、ユス君?

もしかして、君、勇者だったりして?」


「その話をどこで!?箝口令を出していたはず!」


シアが激しく反応する。


「ちょ!シア!」


「え?あ!」



「その反応だけで十分だよ。それに街では結構噂になってる。

気にしないで大丈夫よ、バレるのも時間の問題だったしね。

それにしても、団長としては、迂闊すぎない?」


ローラはにやけながら、言葉を綴る。

シアは顔を赤くしながら睨みつける。


「よろしくユス君。私のことはローラって呼んで。」


「よろしく、ローラ。」


差し伸べられた手を取る。


「ふーん…」


青い瞳が僕を見つめる。


「ほら、もういいでしょ。行った行った。」


「えー、もうちょっといいでしょー」


どうしたものか、とアイが呆れていたとき、


「何をしているローラ。他人に迷惑をかけるのはやめろと言っているだろう。」


フルアーマー装備の大柄な人が近づいてくる。

声からして男性だろうか。装備で顔は見えないが、背中に大きな斧を背負っている。

鎧も武器も傷がついており、いかにもベテランという様相をまとっていた。


「ちょうど良かった、カイン。こいつを早く連れて帰って。」


「迷惑をかけて悪かったな、ほら行くぞ。」


カインと呼ばれた男は軽く頭を下げ、出口へと向かう。


「はいはい、それじゃみなさん。ご機嫌よーってことで。」


ローラはカインには逆らえないのか、不満そうだがその後ろをついていく。


「今の人たちは…」


「ローラとカイン。冒険者よ」

「冒険者……」

「この国では有名なパーティーよ。特にカインなんて――」


冒険者。

その言葉が、妙に胸に引っかかった。

昔、憧れていたような――


「……あれ?」

どうして、そんなことを思ったんだ?


「ッまた!!あいつらにしてやられた!!くそ!」

シアが顔を真っ赤にしながら地団駄を踏む。


「まぁ、今のはシアが悪いわ。

あんなカマに引っかかるとは。」


「うるさいうるさい!!

もういい!今日は飲む!やけ酒よ!

ユス、あなたも付き合ってもらうわよ!」


「えぇ!僕も!?」


「そうこなくっちゃ!

店長、酒追加で!!」


笑い声と酒の匂いに包まれながら、

その夜はゆっくりと更けていった。



「ユスもお疲れ様。今日は楽しかったよ。」


「ううん、こちらこそ楽しかったよ。」


アイは寝てしまったティアを、僕は酔って潰れてしまったシアをおんぶしながら帰路につく。


「まさかシアがお酒にこんな弱かったとは。想像できなかったよ。」


意気込んでいたシアだったが、二杯目で潰れてしまった。


「シアと飲む時はいつもこう…

少しはこっちの身にもなってほしいわ。」


呟きながら、帰路に着く。

夜は更け、街灯が道を明るく照らす。

静かな街並みを並んで歩く。


「ねぇ、ユスはシアのことをどれだけ知ってる?」


アイが口を開く。


「え?知ってることは、ビクター家の騎士団長で、あと、すごい優しい人ってとこかな?」


「…そう、シアは本当に優しい子で正義感も強い子。

こんな私にも付き合ってくれるしね…

…1つ聞かせて。この前の任務、シアはちゃんと戦えてた?」


「もちろん。しっかりと……」

そう答えかけて、言葉が止まった。

――いや。あの時、シアは確かに震えていた。


「ねぇ、シアは前に何かあったの?」


「…ごめん。私からは何も言えないわ。」


「そうか…」


二人の足音がだけが聞こえる。

その時、アイがその場に立ち止まる。


「ユス、一つお願いしていい?」


「え? 僕にできることなら……」


アイはすぐには答えなかった。

夜風が吹き抜ける。背中のティアを背負い直してから、ようやく口を開いた。


「……シアを守ってあげて」

「シアを?」

「あの子、強そうに見えるでしょ」


僕の背中で眠るシアを見る。


「でもね。そんなに強い子じゃないの」


アイはそれ以上、何も説明しなかった。


「あなたと少ししか過ごしてないけど……ユスなら信じられる」


そして、まっすぐ僕を見る。


「お願い。私の大切な友人を守って」



アイの表情は、いつもと変わらないように見えた。けれど――

ほんのわずかに、声が震えていた。

強く言い切るその言葉とは裏腹に、何かを押し殺しているのが分かる。

それでも彼女は、目を逸らさなかった。


「…うん。守るよ。

できるかわからないけど。

それでも、彼女を守ってみせるよ。」


彼女の目を見て伝える。


「ありがとう。その言葉を聞けて嬉しいわ。」


そして、いつもの口調に戻って、彼女は先に進む。


「それじゃ私はここで。

あ!あと、ちゃんと家に帰りなさいよ!

シアに何かあったら勇者様でも容赦しないからね!」


そう言い残し、足早に去っていく。


「う〜ん、あれ?ユス?アイは?あれ?ここは?」

朧げながら彼女が目を覚ました。


「おはようシア。もう少し休んでていいよ。家まであと少しだ。」

「うーん、そうする。」

そうして、すぐに眠ってしまった。


「必ず守ってみせる。」

小さな声でつぶやく。


誰かを守りたいと思うと、胸の奥が少しだけ熱くなる。

懐かしいような。苦しいような。

その理由を、僕はまだ知らない。


店を出た、ローラとカインは帰路についていた。

いつもの裏路地を通る。

2人が横に並んで歩ける程度の道。

薄暗く、人目にもつかない。


「お嬢、先程は失礼しました。」

前を歩いていた、カインが振り向き頭を下げる。


「ん?いやいや、気にしないでいいよ。

それに、あれが最善だったと思うよ。」

手の振りながら、カインの横を通りすぎた。


「そう言っていただけるとありがたいです。」

カインは頭を上げてローラの後ろをついていく。


「お嬢、その、いいですか?」

「ん?なんだい?」

「邪魔した自分が聞くのもあれなんですけど、あいつどうでした?

やっぱり勇者でした?」


「まぁ、シアの反応を見る限りそうなんだけど。

触れた感じ、身体能力、魔力ともに並以下。

そこら辺の冒険者の方が頼りになるって感じかな。」


「そうでしたか。じゃああの噂は…」


「しかし、嘘とは言い切れない。なんせ堅物の騎士団団長が後ろについている。

それだけで信憑性は十分だ。

まぁ、うちらとしては目的を邪魔しないのであれば問題なし。

できれば恩でも売って味方につけたいところだね。」


「では、一応見張りをつけ、何かあれば連絡いたします。」


「うん、そうしてくれると、助かるよ。」

そうして2人は闇に溶けていった。


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