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忌子物語  作者: あむ
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【60話】野外訓練

ルナとラークの訓練は続く。


初めての野営と生存は、ラークがいたからこそ比較的安全ではあったが、それでも疲労感を与えるには十分であった。


最初の野外訓練は二泊で終わった。


帰ると真っ先に整備をし、次の日から訓練場での訓練をする。

そして休憩。


二日くらい休んでまた野外訓練。


野外訓練は日が増す度に、その日にちを伸ばしていく。


生存のための全ての知識が叩き込まれる。

もちろん野外訓練でも抜刀術の訓練は欠かさない。


野外訓練で、朝一番に真っ先にやることは、ストレッチと瞑想、抜刀術の訓練だ。

それらを二時間ほどやると、撤収の準備をする。

朝ご飯の用意も同時にし、済ますと出発する。

目的地は予め野外訓練の前にラークが設定していた。

最初は隠居地の近くだったが、次第にティアレン森の中心部に入る。


ルナにとっては初めての経験ばかりだ。


──初めての野営。

──初めて見る動植物の実物。

──初めての火起こし。

──初めての水の入手。


──初めての命の刈り取り。


ルナは困った様子もなく難なくこなす。


ルナの初めての獲物は子山羊であった。

先日の罠にかかって足から大量の血を出しながら倒れている。

罠に足の革と肉が削がれ、骨が見えた。

関節も変に曲がっている。

親である成体の山羊は逃げたのだろう。

見当たらない。

魔物化は進んでない。


初めて狩った魔物の素材を剥ぎ取っているルナ。

それをラークは見ている。


内心驚きながら。


うまくやっているからではない。

むしろ初めてらしく、不器用だ。

繊月の鋭利さのお陰で素材の損傷は少ない。

だが、その剥ぎ取りで傷めている。

故にあれこれ指示している。


ラークが驚いたのはこれではない。

命を刈り取る際の冷酷さだ。


相手は子山羊だ。

しかも親に見捨てられ、苦痛や恐怖に涙を流しながらか弱い鳴き声をしている。

ただルナとラークを見ると逃げようと必死にバタバタと体を動かしていた。

足からの出血量からすると、もう手遅れだ。


動物だろうが魔物だろうが大抵の幼いものは、それ相応の外見をする。

何故かはわからないが、共通して、同情心や可愛さをアピールする。

それゆえに大抵の子供のみならず、切迫さに欠ける人間の場合は、それを見逃すケースも多々あった。

こういう命のやり取りに慣れている狩人や冒険家も例外ではない。


だが、ルナは、何の躊躇もなく斬った。

ラークが狩りの対象と指示した瞬間にだ。


これにラークは内心驚きつつも、思うところがあった。

だが、今はそれが重要ではないと、黙認してしまう。


結局、初の剥ぎ取りの成果は、肉を少量。

その他の素材は到底使うことも、売ることもできない駄作となった。


この日を機に、ルナの野外訓練の熟練度は目に見えて増した。

野営の準備からして、罠の張り方、動物や魔物に出会った時の俊敏な対処など。

特に狩りに関しては刮目する部分があった。

ティアレン森の魔物は他の魔物より強い。

特に平凡な兎の魔物でも、他の地域のそれとは格が違う力と素早さを見せている。


最初は慣れずに苦戦するルナ。

いくつもの傷を作る。

それも最初の頃だ。

約一ヶ月が過ぎた今となっては安定した一撃必殺の抜刀術を見せてくれた。


だが、その成果とは裏腹に、本来の抜刀術の進捗はあまり見られない。

抜刀自体は慣れている。

しかし、どうしても鞘と刃がぶつかってしまう。

長期的には刃を傷めてしまうため、その度にラークは指摘するのだが、なかなかうまくいかない。

結局は刃の先端が少し刃毀れしてしまう。

研いでその部分が突出しないようにしたものの、よく見るとその痕跡が残っていた。


気分が悪くなったルナとは対照的にラークはしょうがないと思う。

何せこれは達人の領域なのだ。

また、ラークにも達していない境地であるのだ。

いくら才能がある人でも、たかが一、二ヶ月でできるものではない。


──そう二ヶ月が過ぎたある日、隠居地。


ラークの部屋に灯りが灯っている。

装備を整備している二人。


──ガチャガチャッ

──スッ


「──次は三週だな。」

「...三週ですか。」

ただの返事か、不満かよくわからない。


「おう、そうだ。本来なら家にすら帰れねえ人たちだって多いんだぞ。」

「なるほどです。僕は楽しいからよかったです。」


──ガチャッ


「ルナ、ちょっと話そう。」

ヴォルグを床に置いて、ルナの目を見ながら話す。


「はい?」

「うーん、どう話せばいいんだろうか。」

低く唸りながら悩むラーク。


「何を今更?いつも通り話してください。」

表情にはないが、まるで苦笑しているようなルナ。

視線は繊月の方に向いていて、布を持っている手は忙しい。


「そうだな...うーむ...俺はお前を冒険者として育てているつもりだ。」

「はい。わかっています。」

ルナも拭いていた繊月を置きラークを見る。

真っ直ぐに自分を見ているラークの目が見えた。


「お前もティアレン森で実戦済みだ。

動物はともかく、魔物の討伐までやってのけている。

俺がこの森で、それなりに安全だと思われるところだけを行ったのもある。

だが、お前ももうわかるように、魔物だ。

弱くてもあの強さだ。

それだけじゃねえ。

俺はかなり強い。

つまり、お前は相当な実力者と組んでいるんだ。」

かなりナルシシズムのような発言だが、決して虚勢ではない。

ルナは軽薄なラークの発言の中に込められた重さを受け止める。


「──そこでだ。今更だが、お前の人生だ。冒険者でいいのか?」

質問をするラーク。


「お前は冒険者の入口に立っている。

いや、半ば入っていると言っても過言ではない。

だが、まだ引き返すこともできる。

もし、違うのなら別に構わない。

その支援も約束しよう。」

とだけを言う。


ルナがゆっくりと口を開ける。


「僕は──」


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