【53話】兆し
──現在。
久しぶりにブロンとヨヨが訪れてきた。
今日は補給が来る日だったのだ。
「よう!元気してたか?」
「はい。ブロンさん、久しぶりです。」
「おう、じゃあいつものやるか!」
補給をチェックする。
ブロンがチェックし、ヨヨとルナが運ぶ。
──ちなみにこの補給は、ティアラがいた頃の余りに余った支援金でやっていた。
横領ではあるが、気付いた関係者はいない。
ローバの頼みであった。
補給の整理が終わり、食堂に一緒に入る。
一緒に昼食を取りながら、世間話、他愛もない話をする。
食事が終わる頃、ブロンが真剣な顔でルナを呼んだ。
「ルナ。」
「はい?」
「これが最後の補給だ。」
ブロンらしく単刀直入に本題に入る。
「まだ一回分は残っているけど、すまない。私の事情で今回が最後になる。」
今まで補給はおおよそ2ヶ月から3ヶ月に一回入ってきていた。
「冒険者ギルドから国家級の依頼が来てな。
冒険者ギルドから代表が選り抜かれて、派遣するという形の依頼。
災厄級の何かの討伐とか解決のために、時折こういう依頼が来るんだ。
で、これはめんどくさいことに義務なんだよ。
だから、今日が最後の補給になる。」
ルナへの補給は正式の依頼ではない。
ローバの私的な頼みである。
つまりブロンの私用だ。
それにブロンはティアレン町を代表する若手冒険者だ。
断れる立場でもない。
断る名分もない。
「...そう、ですか。」
ルナはブロンの立場はよくわからなかったが、理解はした。
慈善活動に近いものだと薄々感じてはいたのだ。
「だから、ルナに一つだけ提案しようと思う。」
「...?」
「私と一緒に来ないか?うちらの町に。」
「えっと、それは...。」
「いや、今すぐ来いってわけじゃない。
だけど、ローバとティアラが王宮に行ってもう一年も経っている。
何か便りなり何なりで連絡があるのならとっくに届いているんだ。
だが、それすらもない。」
間を置くブロン。
「ぶっちゃけちゃうと、あの二人からも、ラークからも連絡は何一つなかった。
君とは短い付き合いだけど、君は相当頭が良い。
だから私が言う事が何を意味するかわかるだろ?」
「...。」
視線を逸らし沈黙するルナ。
「...あの、ブロンさん。」
「おう。」
「ありがとうございます。
ブロンさんの思うところはもっともだと思います。」
言葉を整理しつつ話すルナ。
はっきりと自分の意思を告げた。
「──ごめんなさい。
僕はここを離れるわけにはいきません。
みんなと約束をしたんです。
ちゃんと留守番をするって。」
ブロンを見上げる。
いや、睨んでいた。
あまり感情を見せないルナだ。
だが、今の感情を隠そうとしない。
「...っ!」
ブロンはルナのことが気に入っていた。
律儀で真面目で、礼儀正しい。
ヨヨもよく懐いてくれる。
ルナはブロンの目からしたらまだ子供だ。
そんな子が一人で生活していること自体があまり気に入らなかった。
ルナに、またこの隠居地にどんな事情があるか知らない。
子供は大人と共に暮らすべきだと思う。
そして大人であるローバとラークはもういない。
そう思って提案をした。
──断られた。
はっきりと拒否意志を示していた。
それどころか敵視しようとしている。
「...そう。わかった。
とりあえず、普段なら3ヶ月分の補給だけど、今回は私のお金も少々足して半年分の補給で荷造りしたつもりだ。
もちろん保存できる期限を優先したから、食料は味とかそういうのは保証できないけど。
要はほぼ缶詰とか、漬物類だ。」
「はい、わかりました。ありがとうございます。」
一旦退いて、補給の内容を説明するブロン。
「──ルナ。」
「はい?」
「今すぐにとは言わない。でも、約束をしてほしい。」
「...何をですか?」
「この依頼を終えて、半年後にはここに来る。
その時まで、あの三人からの連絡がないのなら、私と町に行こう。」
「...。」
「返事も今すぐに求めているわけじゃない。半年後、私たちが再会した日に、だ。
その返事の約束をしたい。」
「...わかりました。」
「うん、ありがとうな。」
「いえ、僕の方こそ、本当にありがとうございます。こんなに思ってくれるなんて...。」
「そう思うなら、半年後にはいい返事をくれよ。ティアレン町はいいとこだからな。」
「真剣に悩んでみます。」
笑いながら言うブロン。
ルナは笑っていない。
──翌日の早朝。
ブロンは国家依頼のこともあり、朝日が昇るとすぐに出ていった。
最後までルナへの心配をしながら。
ヨヨはルナをギュッと抱き締めている。
そんなルナはデジャヴを感じつつ見送る。
そしていつもの日常に戻った。
──二ヶ月後。
──ザアアア...
外は嵐で荒れている。
もう昼なのにも関わらず、厚い雲で空は覆われていて、暗い。
時折鳴る雷の音や隠居地にぶつかってくる風や雨水の音が大きい。
ルナは午前中の訓練を終え、食堂で昼食を食べていた。
唯一窓がある食堂は暗い。
灯りも付けてないのだ。
その時だった。
──ドンドン
大門の方から大きく門を叩く音がする。
荒い。
ブロンではないと判断する。
そもそもブロンは今この近くにいない。
──ドンドン
再び荒い音がする。
ルナは警戒した。
大門の方に静かに近づく。
耳を澄ませた。
──ドンドン
「おい!ラークだ!開けろ!」
久しぶりに聞く、聞き慣れた声がした。




