【52話】歯車
──初めて寝坊した。
いつもは早めに起きていたルナだ。
最近深く眠れていない。
夜遅くまで寝返りをする。
眠れないから灯りを点け、本を読む。
だから寝坊をする。
それを自ら叱咤し、夜まで訓練をする。
真夜中の訓練場はとても暗い。
だが、それも構わず訓練に励んだ。
そしてやるべきことを全てやる。
随分と夜遅くになってしまうが、構わずに食事を取り、家事をする。
結局、この日の休憩はなかった。
すぐに寝る時間だったからである。
その次の日、寝坊はしない。
──それ以来寝坊することはなかった。
いつもと変わらない日程を変わらずにこなす。
同じことを繰り返す。
起きる。
ストレッチをする。
洗う。
朝食を取る。
午前訓練をする。
昼食を取る。
昼寝をする。
午後訓練をする。
お風呂に入る。
髪を乾かす。
家事をする。
本を選びベッドに入る。
寝る。
起きる。
まるで感情がないように動く。
起きる。
ストレッチをする。
洗う。
朝食を取る。
午前訓練をする。
昼食を取る。
昼寝をする。
午後訓練をする。
お風呂に入る。
髪を乾かす。
家事をする。
本を選びベッドに入る。
寝る。
起きる。
──それを数十回、数百回こなす。
時間が進むに連れルナは、
より無言になり、どんどん無機質になる。
唯一その繰り返しを止めるのは、ブロンが来る日のみだ。
ルナが色鮮やかになる、唯一の時間。
補給の日は一緒に補給品を片付ける。
ブロンの冒険談を聞き、
ヨヨとじゃれ合い、
一緒に食事をする。
それ以外の日の訪問でも、
ブロンの冒険談を聞き、
ヨヨとじゃれ合い、
一緒に食事をする。
だが、ブロンが帰るとすぐに色褪せてしまう。
それでも
変わらず、
止まらず、
繰り返す。
新緑が生い茂る日は、弁当を作り瞑想をする。
訓練場で昼食を取り、そのまま昼寝をする。
暑い日差しを冷水と裸で訓練を乗り越え、
雨が降る日は雨音を聞きながら瞑想をする。
色鮮やかな紅葉を肴に剣の姿勢を正し、
コオロギの音を聞きながら本を読む。
牡丹雪の積もる日も変わらずに走り、
吹雪が吹く日は身を布団の中に潜らせる。
無機質で、淡白な日々。
地道だが充実する日々。
これらが連なって、濃厚になる。
積み上げはないが、土台を固めていく。
ルナは知らず知らずに進む。
ルナは着々と用意している。
だが、ルナは──。
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