【51話】留守番
──食堂。
「僕、朝食前ですが、ブロンさんはどうされますか?」
「おー、じゃあもらっとくわ。私も夜通し来たからお腹空いてんだ。」
「はい。」
簡単なスープを作り、パン、ハムや果物などいつも通りの物を出す。
一緒にテーブルに座る。
ヨヨにはサンドイッチを作り、果物と一緒に渡した。
あっという間に平らげる。
「お、うまい。」
スープを一口して、感嘆するブロン。
「ローバさんに習いました。」
返事するルナ。
「さて、食べながらでも構わないか?」
「はい、お願いします。」
パンにハムと野菜を挟みながら言うブロン。
「さっきの伝書はラークが私に頼んで、ここに送ったものだ。
だが、うちの伝書鳥が戻ってくる頃なのに来なくてよ。
どうしたものかと思った時に帰ってきたんだ。
その伝書をつけたままな。」
ブロンは今までの経緯を説明する。
「あ、ちなみに町は祭状態で、盛大に三人を迎えたよ。
いや、正確にはティアラを、だけど。
要は無事ってことだから、安心していい。」
「そうですか。」
そのまましばらく町での出来事を話す。
「──それで、伝書がそのままってことは、もしかして何かあったのではないかと思ってね。
だからわざわざこっちに向かったって訳よ。
でも、伝書鳥の扱い方自体を知らなかったとはな。
これ食ったら、教えてやるよ。
あ、あと、明日出発するから。
今日はこっちで泊めてくれ。」
「はい、わかりました。それとえっと...」
語尾を濁すルナ。
「ん?どうした?」
「...ラークさんはどうしたのですか?」
「あー、騎士団に連れていかれたぞ。」
「へ?」
「あ、悪い悪い。言い方が悪かったな。そう、あの人は思ったよりずっと凄い人ってこと。」
食べながら話すブロン。
「派遣された騎士団長もアタフタしながら連れて行ったんだ。」
「えっとそれは?」
「わからない。
確かなのは、その後、ティアラとローバと共に一緒に王宮へ向かったよ。
その前の深夜にこっそりと私の所に来て、さっきの伝書を頼んだってわけ。」
「...。」
──ラークが来ない。
遅れるとは思ったが、来ないということは考えもしなかった。
「じゃあ、いつ戻って来るとかは知っていますか?」
「いや、そういうのはなかった。
そうだな...王宮まで大体3ヶ月くらいだから、王宮に向かったとするのなら最短でも半年だ。」
「...半年ですか。」
「おう、たぶんな。」
首都に行ってすぐに戻って来るわけがない。
おそらくそれ以上かかるだろう。
だが、あえて言わなかった。
「お前は何か理由があって隠居地からは出られない、だろう?
だからここを度々見に来てくれと。
一応それも頼まれたよ。
だから、今日はわざわざこっちに向いたってわけだ。」
「...。」
ルナの反応を見る。
何かを考えているみたいだ。
だが、何を思っているのか、どんな感情か読めない。
「...おーい。」
テーブルをコンコンと鳴らしながら呼ぶ。
「あっ、はい。ありがとうございます。」
「よし、話はここまでだ。ってか、いつも通り洗ってもいいか?
しばらく洗ってなくてな。」
バツが悪そうに頭をクシャクシャするブロン。
「あっ!はい、どうぞ。タオルとか入れておきますね。」
「おう、頼んだ。服は持ってきたものあるから、タオルだけ頼む。」
「はい。わかりました。ブロンさん。」
食堂から出ようとするルナ。
「おい。」
呼び止めるブロン。
さっきよりもバツが悪そうにしている。
「すまない、実は...君の名前忘れちまってよ...。」
それを聞きボケッとするルナ。
「えっと...ルナです。」
「ルナ、そう、ルナだった!」
思い出したように叫ぶブロン。
「──とりあえず、たぶん長い付き合いになるんだ。」
気を取り直し話すブロン。
「私はここにいることはできねえ。
だが、今まで定期的な補給以外にも、度々見に来るし、この近くでの依頼がありゃあ、拠点として利用することもあると思う。」
椅子から立ち上がり、ルナに近寄る。
「よろしくな、ルナ。」
そして右手を差し伸べた。
「はい、よろしくです。ブロンさん。」
ブロンの手を取ろうとするルナ。
「違う違う。」
ブロンは手を引いて避ける。
「こうするんだよ。」
と、ルナの右手を取り、自分の右手でルナの右手の前腕を掴む。
それを見てブロンを見上げるルナ。
「ほら。」
顎で促すブロン。
ルナも同じくブロンの前腕を掴んだ。
「そう、冒険者式の握手だ。覚えておきな。」
「あっ、はい。」
「──どうだ?かっこいいだろ?」
「えっと、でも僕は冒険者じゃ...。」
「いいって、いいって。」
ニヤリ笑うブロン。
冒険者はみんなああいう風に笑うのだろうか。
笑顔がラークとどこか似ている。
そのまま握手を解く。
「じゃあ、本当に洗ってくるわ。タオルよろしくな!」
「はい。」
ちょっとだけ気分が晴れるルナであった。
──翌日。
ルナ、ブロン、ヨヨは大門の前にいる。
「じゃあ、私はそろそろ行くよ。少なくとも烏の鳴き声がしたら、一応確認してくれ。」
「はい。わかりました。」
「うん、じゃあな。」
「あの、ブロンさん。」
「お?」
「ありがとうございます。わざわざこっちまで直接来てくださって。その挨拶をしていなかった気がします。」
深々とお辞儀をするルナ。
「いや、別にそう大層なことじゃねえよ。当たり前のことをしただけだ。」
ワシャワシャと頭を掻く。
「えっと、あれだよ。今までの報酬が分に余りすぎたんだ。その余りの分の仕事だと思ってくれ。」
確実に照れているブロン。
慣れていないんだろうか?
「はい。そういうことにしておきます。」
その反応に、どこか苦笑しているように見えるルナ。
「んじゃあ、行くわ。またな!」
「はい!」
見送るルナ。
そして隠居地の中に入った。
──ルナの顔には表情がない。
当てのない一人生活が始まった。
──




