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忌子物語  作者: あむ
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【47話】前夜

ルナとティアラは相変わらずの訓練をこなす。

そしてラークとローバは忙しく隠居地の不在を用意した。


──食堂の貯蔵庫、大きな小屋の中。

魔法でもかけられているのだろう。

ひんやりしている。

更に奥に入ると氷や冷凍された食料が入っている。


そこにルナとローバがいた。

ルナは小さな紙切れの束と鉛筆を持っている。


「ルナちゃん、ここの籠にあるものは早く食べないともう食べられないから、早めに食べること。

また、この籠は──」

ローバが貯蔵庫の中の物の説明をしていた。

しばらくルナとラークは二人で暮らさなければならない。

そしてその前にはルナが一人で留守番をしていなければならないのだ。


──長い説明になるローバ。


「はい、わかりました。」

ローバの言う内容のメモを取りながら聞くルナ。

──ルナは隠居地での生活で、文字も書けるようになった。

時折そのメモを一枚ずつ籠に一つずつ入れている。


忘れないようにするためなのだろう。


「いい?ブロンにも話しておくけど、補給が来たら、ちゃんとここに整理しておくんだよ。

いつもお手伝いしてくれているからわかるよね?」

「はい、整理の方法は全部覚えていますので大丈夫ですよ。」

ニッコリと笑いながら返事するルナ。


「──ここは、これくらいでいいかしら?あ、それとこれ本当にすぐ食べてね?」

「はい...。」

同じ説明を繰り返しているローバ。

そんなローバに黙々と従うルナ。


「それとこっちおいで。」

食堂から出る二人。

向かうのは浴場だ。


「お風呂は──」


随分と長くなりそうだ。


──一方、ラークの部屋。


ほとんどの荷物が纏められていて、あちこちに散らばっている。

用意はほぼ終わったのだろう。


そんなラークは今、何かを書いている。


その内容は自分の不在の間、ルナがこなす訓練の内容であった。

しっかり日ごとにチェックできるように印欄もつけている。


だが、微妙にページ数が多い。

訓練は同じであったが、毎日チェックする日にちが半年分もあるのだ。

数ページを横に貼り付けるようになっている。

ルナの性格上からしてサボることはないが、それでも書いたのだ。


戻って来てからは訓練内容は大きく変わる。

それを見込んで、メニューの下記は空欄にしている。

面倒臭い日にちを書く労力を予め費やしておいた。


最後の日にちを書いた後、ペンを置く。

そして横に置いてあった火が付きっぱなしの極東式の煙管を咥えた。

煙を吸いながら、ラークは考えに浸る。

今後の訓練内容を。

そのための町から帰ってくるときに用意するものを。


ラークには別の悩みもあった。


息を大きく吹く。

煙が部屋に散布する。


グラスに入っている酒を一口飲む。


──。


──数日後の夕方。

みんな集まって夕食をとっている。

いつもと変わらない食事。

何か贅沢なものでも作ろうかと思ったローバだった。

だが、ルナはそれを拒む。

理由は明日から大変なのに、前日に苦労をかけたくないとのことだった。


そう、明日はローバとティアラ、ラークが隠居地から出る日だ。

ラークはすぐに戻ってくるが、ローバとティアラは違う。

少なくとも半年後...もしくはもっと長く離れていなければならない。


普段なら何かがあれば美味しいものを作り、小さな宴会じみたことをする。

だが今回、ローバは珍しくも、ルナの意見に同意した。


──送別会になる。

ルナとティアラは送別会という概念を知らない。


一方のローバは、やりたくないと思った。

送別会をやると何故か戻ってこれないかもと考える。

思うところがあるのだ。


ゆえに必ず戻ってきたいと。

そう願いつつ送別会はせず、普段通りの夕食をすることになった。


悲しくて楽しい時間が過ぎていく。


──ティアラの部屋、その夜。

ルナとティアラはベッドで横になっていた。


珍しくもその夜のルナの女装はなかった。

二人とも理解しているのだろう。


ルナは仰向けになっていて、ティアラはルナを見ないよう背を向けている。


「ねえ、ルナ。もう寝た?」

ルナに話しかける。


「...ううん、まだ。」

ルナが返事する。

そのままティアラが話す。


「...留守番ちゃんとしててね。」

「...うん。」

「ちゃんと戻ってくるから。ここでちゃんと待っているんだよ?」

「うん。待ってる。」

「...やっぱりルナも一緒に行っちゃダメ?」

「...それはダメだよ。だって僕が行くと色々と不味いんでしょう?」

「でもっ!私はルナと一緒に行きたい!」

ルナの方に振り向くティアラ。

ティアラの瞳はまっすぐにルナの顔に向けられている。


「うーん、でもダメだよ。」

きっぱり断るルナ。


「──だって、僕は─こだから。」

途中で口ごもってちゃんと言わないルナ。

それを聞いたティアラ。

瞳に怒りが宿りはじめる。


「...今何て言った?」

「いや、何でもない。」

「言って。あんたが今何て言ったか、わかっているから。」

珍しくもあんたと呼ぶ。


「...ごめん。忌子...と言った。」

「それ言わないと約束した。」

「...ごめん。」


「はあ...。もういいわ。寝る。おやすみ。」

そのまま、再び背を向け布団を頭まで被るティアラ。


ティアラも理解をしているのだ。

ルナの体質は、人々に影響を与えてしまう。

それがどれほど危険かは昔、身をもって体験した。


普段お転婆な姿をみせるティアラだが、実は精神年齢は高い方だ。

アンクレットがあれば問題ないと思ったことはあったが、以前、宝石が割れたことを思いだして考えを紡ぐ。

ラークとローバの性格上、彼らが連れていかない理由がはっきりとあるのだ。

わがままだと理解している。


一方、ルナは自分のこの体質について改めて恨んでいた。


自分もできるのなら一緒に行きたい。

けれども、そういう訳にはいかないのだ。


村であったことがフラッシュバックする。


みんな、自分に石を投げ、貶し、暴力をふるう。

力のない自分はどうしようもなくされるがままされる。


──またそういう目に遭いたくない。

それ以上にティアラやみんなにそういうところを見せたくない。


冷汗が出て呼吸が乱れる。

ティアラに背を向けるように、横に向け縮こまる。


「はあっ、はあっ...!」


「ルナ...?」

横で荒い呼吸が聞こえたティアラは起き上がる。

ルナを見た。


酷い形相で苦しむルナ。

そのまま気を失ってしまう。


「──ルナッ!!!」


これが最後に映るティアラの姿だった。


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