【46話】綻び
──ハルバートが去って数日後、隠居地の訓練場。
ルナはティアラと組手をしている。
二週という猶予はあったが、子供二人の準備するものはほとんどなく、結局二人はいつもの日常を送っていた。
ラークはいない。
ローバと共に王宮へ向かうための荷造りや支度をしている。
ラークが不在でも訓練はいつも通りこなす。
最初こそラークが見守っていたが、寸止めができるようになった今は度々席を外していた。
「──ッ!んもう!一回くらいは当たってよ!」
汗をかきながら攻撃するティアラ。
だが、大振りな攻撃が大分なくなった。
「嫌だよ。ティアラの攻撃痛いもん。」
それを精一杯凌ぐルナ。
だが、ティアラの攻撃の隙に付け込めないルナ。
──互角だ。
「──ならこれならどう?えいっ!」
ティアラが急にルナに抱きつく。
そのまま全体重をルナに乗せながら、絶妙にルナの踵に足をかける。
バランスを乱してしまったルナ。
その刹那、ルナは逆にチャンスだと思う。
そのまま体を捻って反転をしようとした。
そうすると組んでいた体勢は逆になりルナがティアラの上になることができる。
だが──
「──ッ!」
ルナの目に地面が見えた。
その選択肢を捨て力を抜く。
そのまま倒れた。
背中に強い衝撃が与えられる。
「──ガハッ!」
息苦しくなるルナ。
その上にティアラが乗っている。
そして不満そうにルナを見下ろしていた。
「ねえ、わざとでしょ?」
「うん?何が?」
「ルナがそのまま力入れていたら地面に叩きつかれていたのは私だった。」
見抜いていた。
「...それは...地面に叩かれるのって痛いから...?」
ティアラの言葉に何故かバツが悪そうに話すルナ。
「違う!そうじゃない!組手だよ?誤ってしくじって痛いのは当然なの!」
怒るティアラ。
「...ラークが言っていたの。ルナには血の代わりに汗を流させるって。」
怒りを抑えつつ淡々と言うティアラ。
ゆっくりとティアラの上体が下がる。
そのまま顔をルナの胸に埋めた。
顔を横に向ける。
──ドクンドクン...
激しかった攻防のせいか、速く動いているルナの心臓の音が聞こえる。
徐々にゆっくり動く心臓の音。
その音を聞きながら目を閉じるティアラ。
「──正直、今のルナの実力は私と五分だと思うの。
最初の頃とは違うわ。
いっぱい強くなって、私に追いついたんだもの。」
素直にルナの成長と実力を褒めるティアラ。
実際にはティアラの方が断然強い。
彼女が最も得意とするのは肉弾戦ではなく、魔法だ。
「だから今は、ラークが言っていたあなたの血を代わりになんとかって、私にも言えることだと思う。
それに、私はこれからいっぱい知らない敵と戦うんだよ?
だからそういうのは無しにしてほしいの。」
「...ごめん。」
素直に謝るルナ。
ティアラの頭を撫でる。
そのまましばらくいる二人。
「──わかった。じゃあ、手加減はしないよ。」
「あら?今まで手を抜いていたってこと?じゃあ、私も手加減はやめようかな?」
ガバッと上体を上げて、手から魔法結晶を作り出すティアラ。
にっこりと笑っている。
「そういう意味じゃなくて!」
「あははっ、そろそろ続けるわよ!」
ルナから離れて改めて姿勢をとるティアラ。
起き上がったルナも姿勢をとる。
──そうしばらく組手は続く。
激しい攻防が行き交う。
ティアラの蹴りがルナのアンクレットを掠めた。
──ピキッ
気づかずに攻防を続ける二人。
──ピキピキッ...
──パリン!
「「!!!」」
急に訓練場の雰囲気が変わる。
──食堂。
「──ッ!ラーク様、これは!」
「まずい!」
ローバは不気味な雰囲気を感じる。
ほぼ同時に、偶然ブレスレットの宝石の色変わりが目に入ったラーク。
これは確実にあれだ。
「ローバ、そのまま食堂で何もするなよ!」
ラークは即座に自分の部屋に走っていく。
荷物をガサツに漁り、何かを取り出す。
ルナに取り付けたアンクレットと同じものだ。
そのまま訓練場に駆けつける。
訓練場の階段から大急ぎで上がってくるティアラと出くわす。
「ラークッ!あのっ!」
「状況はわかった。ルナは?」
訓練場に降りながら状況を聞く。
「組手をしていたら、ルナのアンクレットが割れちゃ──。」
「過程はいい。ルナは?」
「その場で座り込んで瞑想をしているわ。」
「よし!」
訓練場に降りるとルナが体育座りで瞑想をしている。
恨の影響がどれほどか、二人は知らない。
ラークはブレスレットを見る。
紫は見えない。
混濁したような赤が見える。
随分と抑えてはいるが、ローバの影響がないとはいえない。
実際に一瞬でローバは気付いたのだ。
「そのまま集中していろ。」
ルナに近づき話しかけるラーク。
ルナが付けているアンクレットを見る。
鎖は細かい傷や擦れはあったものの、まだしっかりルナの足首に巻かれていた。
問題は宝石。
宝石が取り付けられていた部分が見事に空っぽになっている。
粉々に割れてなくなったのだろう。
そのアンクレットを取り外す。
そして新しいアンクレットを付け直した。
──空気が和らぐ。
ラークがブレスレットの宝石を見る。
元の赤色になるのを確認した。
「ふう、ルナ、よく対処したな。偉い。」
「本当に焦りましたよ。」
瞑想を解きながら返事するルナ。
ゆっくりと目を開けラークを見上げる。
「ティアラもよく駆けつけてくれた。」
「と、当然でしょう?」
二人の頭を撫でるラークだった。
──食堂。
ローバも雰囲気が和らいでいくことを感じる。
荒れた気分が落ち着く。
そして以前より嫌悪感は増さないことに気付く。
「──でも、昔みたいにどうしようもないくらいではなかったわ。
ふふっ、ルナちゃん本当に頑張っているんだね。」
と呟くローバだった。
──隠居地の外。
「み・つ・け・た。」
暗い茂みの中で、両目だけを光らせているハルバート。
二つの舌でペロッと唇を舐める。
一瞬ではあったが、雰囲気がガラッと変わった。
そして自分の目の前においたブレスレットの宝石を見る。
緑色の宝石が明らかに混濁した色になった。
今は元の緑になったが、それを見逃さない。
何があるのかは不明。
だが、何かがあるのは確定。
それだけを確認したハルバートは静かに起き上がる。
今は時ではないと思う。
勇者候補の護衛が今は最優先だ。
──だが、
ここにいるのなら、
ラークと関わりがあるのなら、
いつでもチャンスは来ると思う。
そう判断したハルバートは、そのまま、ゆるりと姿を消した。
──
【2026.03.07(土) 19:00追記】
いつもお世話になっております。
あむです。
『忌子物語』をご愛読いただき、誠にありがとうございます!
本日は投稿スケジュールについて一点お話ししたいことがあります。
実は今現在、別のお仕事をしながら執筆を続けている状況でございます。
その中で、最近は本業の方がなかなか忙しく、『忌子物語』の執筆が難しい状況です。
(約1か月ほど前から、朝7時に家から出て、夜10時~11時に帰宅するという生活をやっております。
ブラック企業死n...なんでもございません。)
言い訳ですが、寝る時間も最大限に削りながら執筆をしている状況でした。
そして正直なところ、自分の中で「クオリティが落ちているな」と感じることが増えてきました。
エピソードごとに自分が納得がいかないというべきでしょうか。
とにかく36話以降から、それを強く実感しておりまして……。
読者の皆様がどう感じていらっしゃるかはわかりませんが、
そのような中でも、相変わらずご愛読くださる読者様がおられるのを確認いたしました。
誠にありがとうございます。
ですが、少なくとも書いている僕本人としては、もっとちゃんと向き合いたいなと。
そのために、設定集の投稿よりも本編に集中したいと思い、
毎週土曜日に投稿しておりました設定集は、今後不定期とさせていただきます。
物語の展開に合わせて、
必要な時にお届けする形になりますので、
ご了承いただけると幸いです。
エピソードの投稿スケジュール(日曜・水曜・金曜 19:00)はこれまで通りです!
急なご案内となってしまい、申し訳ございません。
引き続き、忌子の物語を見届けていただけると嬉しいです。
あむ




