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忌子物語  作者: あむ
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【45話】裏面

「フクロウが見守っております。」


とある組織の誓言だ。

この組織の名は──。


──そしてハルバートはこの組織の信者である。


闇深い知識欲により生まれたこの組織は、宗教ではない。

知る人はごく僅かで、活動すらも秘密裏にする。

だが、この組織の者らは、まるで宗教のように行動する。

信じる人格神はいない。

だが、確固に信じるものはある。


──知識。


そう。

彼らにとっての神は知識であった。

一般的な知識ではない。


禁じられた知識。

明かされてない知識。

世界の秩序が乱れる知識。

人類が知るにはまだ早い知識。


崇拝する。

敬愛し、

崇拝する。


絶望し、

畏怖する。


だが決して忌避はしない。

これに立ち向かおうとする。


太古から人類がまだ受け入れ難い知識による、破壊や壊滅は多々あった。

妬み、恐れ、奪おうとする。


知識が神だとするのなら、善神ではないだろう。

邪神だ。


だが組織は、その知識を頭にいれるために冷たい水で身を清め、朝と夜に何かに祈りを捧げる。

罪悪への容赦を求めるように、──誰のためかは知らないが──儀式を行う。

禁欲を掟とする者もいる。

知識欲を含めた全ての欲望は邪悪だと、節操を守る者もいる。


──禁じられた知識を得るために自らの身に傷を入れ、自虐する者もいる。

これは決して組織の掟ではない。


だが、一部の者は、自ら鞭を打ち、体に消えない傷を入れる。

その傷を癒やすことはせず、その苦痛こそが知識の対価だと信じる。

この過激な者らを、組織内では狂信者とも呼んでいた。


──

隠居地から離れたハルバート。

向かう場所は町ではなかった。


連れの猟犬には周りの見張りをさせた。


ハルバートは服を脱ぐ。


素肌となった上半身は傷だらけだ。

出来て間もない傷がいくつも癒えずに放置されていた。


そして鞄から長いロープのような物を取り出す。


鞭だ。


その前に正座をするハルバート。

短いが力んだ深呼吸を何度もする。

そしてハンカチを取り出して咥えた。

そのまま素肌となった背中に思いっきり振るった。


──パッシーン!


「ゔぅ──ッ!!!グフーフー」

苦痛が背中から流れる。

ハンカチを咥えた口からは悲鳴と苦痛に耐えるための呼吸の音が荒い。

苦痛に、目の血管が張り裂けたのか、赤く染まる。


──パッシーン!!

先より強く打つ。


「ゔゔ──ッ!!!フーッ、フーッ...」


──何度も鞭打つ音と悲鳴が聞こえる。


訂正しよう。

ハルバートは信者ではない。

狂信者だ。


──

しばらくして。

ハルバートは身を整え、遠回りして、隠居地に戻る。


先程の紳士的な姿は見えない。

彼の両目はギラギラと無機質な殺気を帯びている。


時折ペロッと舌で唇を舐める。

その舌は二つに裂けていた。

自然な舌ではない。

人為的に裂けた舌だ。

その二つになった舌を器用に動かしている。

動きは少なく、音もしない。


彼が戻ってきた理由は、一つだけだった。


──勘。


明らかにおかしいラークの様子だった。

これは普段、彼をよく知らない人なら納得し、そのまま何の疑いもしなかっただろう。

だがハルバートは違う。

十数年もの間、共にしてきた仲間である。

そして彼だからこそ気付く違和感だった。


普段なら酒に付き合えとか、あれこれいいつつ引き止める。

狡猾狼と呼ばれているが、戦闘や商談・交渉などにあたっての異名だ。


基本大雑把な人なのだ。

普段の日常くらいで緻密にはならない。

それが今回の己に任された町での役であっても同様だ。

狡猾狼の姿は滅多に見られるものではない。


なのに、今回はそれを名分とし、自分を追い出した。

完璧な名分。

まるで臨戦時や交渉時の狡猾狼だ。


一年以上もここにいて、それでもって追い出す理由は何があるのだろうか?

もし、本当に例のローバやらとの色恋沙汰であっても、追い出すはずはない。


勇者候補のことを最初に疑った。

だが、それは杞憂に過ぎないとすぐ切り捨てる。

ラークが何を望んでいるのか知っているからである。

その点で、ティアラは落第点であった。

そもそもラークも彼女をどうすることもできないはずだ。


ふと、自分のブレスレットを見る。

緑の宝石の色は相変わらず輝いていて、何の変化も見せない。


だが、ここには何かがある。

宝石では感知できない何かが。

そう勘が告げていた。


ここに勇者候補以外にも何かが隠されていると。


──大門からかなり離れた場所。


隠居地の全貌が見える。


決して隠居地とは思えないだろう。

あの誇張したような大門さえなければ。


そこに陣取るハルバート。

うつ伏せになり、身を低くさせる。

腹部や太腿に当たる地面が冷たい。

ブレスレットを外して、隠居地と一目で見える場所に置く。

根拠はないが、何かあるのなら、宝石の色を変えるだろうと判断する。


潜伏に猟犬は邪魔だ。

故に猟犬はとっくに自由行動させていた。

あいつならティアレン森でも死なずに自由にやっているだろう。

合図の笛を吹くと、すぐにやってくるはずだ。


ハルバートはやせ細っている。

数日は食わずとも苦痛にもならない忍耐力がある。

呼吸が緩くなる。

目の瞬きもほぼしなくなった。

体の傷から流れて固まった血液により虫が這い上がってくるが構わない。

顔に大きなムカデが這い上がってくるが気にしない。


ペロッと舌を出し唇を舐める。

だが目は標的を逃そうとせず、しっかりと獲物を待ち伏せている。


紳士的なあの姿はもう見えない。

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