【44話】準備
翌日の早朝、隠居地の大門の前。
「では、私は町に戻りますので、よろしくおねがいします。」
昨日と変わらない服装と装備のハルバート。
その前に、ローバとラークがいた。
すごい寝癖のラークの頭に何故かコブのようなものが見える。
「朝食も召し上がらずに、申し訳ないです。」
「いえいえ、私は朝ご飯は基本食べませんので、気にしないでください。」
「でも...」
「ふあぁ、...いいからガリバー早く帰れよ。」
ガリバー。
ラーク曰くガリガリハルバートを略してガリバーらしい。
呼ばれる本人はとても嫌っているが、ラークはその反応が楽しいらしく、たまに呼ぶ。
──
少し前のこと。
出る支度が終わったハルバートはラークの部屋のドアをノックする。
反応がなかったので、そのままそっと入る。
いびきをかきながら大の字で寝ているラークが見える。
「私、そろそろ町に戻ります。」
とラークを起こす。
「...おう、何だ、今日帰るのか。」
「あんたが帰れって昨日言ったじゃないですか。」
おでこに筋が見える。
「ああ、そうだっけ。待てよ。」
起き上がるラーク。
そのまま廊下に出て、自然に隣の部屋のドアを開く。
──ガバッ
「ローバ、お客さんのお帰──」
「キャー!!!」
色んな物が飛んでくる。
その中で、アイロンが見事にラークの頭に的中した。
ローバは、すでに起きていて着替えていたのである。
その最中に入ったのだ。
──
ハルバートが隠居地を出てしばらくして。
ローバはティアラの部屋に入る。
まだ二人とも起きる時間ではない。
ティアラは昨日着ていたワンピースの姿そのままベッドで寝ている。
相変わらず寝相が悪い。
身につけていたアクセサリーはベッドの隣のサイドテーブルの上に置かれている。
おそらくルナが解いてくれたんだろう。
ルナは起きていた。
昨日の一日中、ずっとティアラの部屋に閉じこもっていたせいだろう。
普段とは違い、疲労はない。
ドアが開き、ローバが部屋に入ってくるのを見たルナは起き上がる。
「あら、起きてたのね?ルナちゃん。おはよう。」
「おはようございます。」
「昨日は大変だったね。よく頑張ってくれてありがとう。」
「いえ、ただ部屋でいただけです。王宮の方は...?」
「彼はもうお帰りになったわ。安心していいわよ。」
「そうですか。ティアラが昨日部屋に来てすぐ眠ってしまいました。」
「ふふっ、あの子も昨日は本当に大変だったから。らしくない立ち振舞をしたし、緊張もしたんでしょうね。」
と言いながらベッドに座り、顔にかかっていたティアラの髪をそっと整える。
「んぅ...。」
くすぐったいらしく縮こまるティアラ。
それを見ていたルナとローバは優しく微笑む。
「さて、ルナちゃん。もっと寝る?もしよかったら一緒に朝食の用意しない?」
「あ、はい。お手伝いします!」
「ふふっ、じゃあ、行こうか!」
と言いながらルナを見る。
長くて綺麗な黒髪が腰まで伸びている。
「──その前に。ルナちゃん、こっちにおいで。」
サイドテーブルに置いてある櫛を手に取るローバ。
近づいてきたルナの髪を優しく梳く。
ルナも慣れていて、そのまま気持ちよさそうに身を任せる。
そして綺麗にまとめてポニーテールにした。
「よし、出来たわ。」
「はい、ありがとうございます。」
部屋から出たルナはティアラが起きないように、ドアを静かに閉じた。
──
訓練場、訓練前。
「お前はすでに基礎の段階を超えた。」
ルナは傾聴する。
「だが、基礎は大事だ。お前がこれからどんな訓練を、どんな実戦を積んでいっても、これだけは怠るな。」
「はい。」
素直に受け止めるルナ。
そしてラークは続けて話す。
「次の段階に進めたいが、悪い。こればかりはある物がないとできない。だからしばらくは今までどおりの訓練をこなす。」
頭をクシャクシャと掻きながら話す。
「もし俺がいなくなっても、基礎訓練だけはちゃんとやれ。」
「──行くんですか?」
「ああ。そろそろ俺も本職に戻らないとな。」
ルナの瞳が揺れる。
「──だが、今じゃねえ。つっても、まあ、ティアラとローバを町まで護衛はするから少しは席を外すがな。」
「はい、わかりました。」
淡々と返事をするルナ。
だが、目を合わせようとしない。
「ルナ。」
「──はい?」
「ルナ。」
「はい。」
目を合わせないルナ。
「ルナ、俺を見ろ。」
やっと目を合わせる。
ルナの瞳に映るラークは訓練中の厳しい姿ではない。
普段のだらしない表情でもなかった。
「気付いたらまたいつも通り四人で食卓を囲む日が来る。」
「...!」
「だからそう不貞腐れるな。」
「...はい。」
──しばらくルナとラークは沈黙する。
「──ごめんなさい。もう大丈夫です。」
いつも通りに戻ろうとするルナ。
だがまだ拭いきれていない。
「よし、じゃあ、そろそろ始めるか。走ってこい!」
ラークはそのまま訓練を開始する。
何もしないと雑念を生む。
だから雑念が生まれないようにする。
「今日は時間を計るからな!遅いと追加だ!」
訓練場の向こうまで走っているルナにこう叫んだ。
──




