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忌子物語  作者: あむ
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【43話】社交辞令

食堂。

ハルバートはティアラの前で片膝を地についた。

背負っていた弓は外して、右側に置いてある。


「勇者候補様、初めてお目にかかります。お会いできて光栄でございます。

今回、伝令および、勇者候補様の王宮への護衛を務めさせていただきますハルバート子爵と申します。爵位をいただきましたが、冒険者をやっております。」

ティアラの手をそっと取り、口づけをした。


「ええ、私はティアラ。よろしくお願いいたします。」

手をそっと外し、ワンピースの裾を両手でそっとつまみ、片足を引いて膝を軽く曲げながら挨拶するティアラ。

その仕草を見たローバは、満足そうに笑っている。

練習通り優雅な姿だ。

ちなみにラークは腕を組み、食堂の壁にもたれかかっている。


「では、社交辞令はこれくらいにして、そろそろ本題に入りましょうか?」

ティアラは凛とした表情で言う。


「はい、でもその前にお茶をご用意いたします。」

「あっ、そうでした。お願いします。」

本題に入るためのティータイムを用意しようとするローバ。

普段とは違うローバの口調と仕草に少し戸惑ってしまうが、表情と態度では出さないティアラ。


──しばらくして。

ティータイムの用意が終わり、四人はテーブルを囲み話す。


「──では、本題に入らせていただきます。

王宮から今現在、騎士団が派遣され、こちらに向かっております。

規模は一中隊。

そうですね、200人くらいだと思ってください。」


「そんなに来るの!?」

ティアラは驚く。

それを見たハルバートはくすりと笑う。


「はい、勇者候補様ということもありまして、実はティアラ様とローバ様、私、そしてあのバカ...ゴホン、失礼しました。ラークがいれば問題はないと思われますが、民へのお披露目もありますので、それなりの規模になってしまいました。

ただ、ティアレン森にこの規模の騎士団自体が入るのは危険ですので、町までは私が護衛する形となります。」


「護衛の件は承りました。

ですが、気になることがございます。

騎士団の派遣ということは、勇者候補様が公になるってことでしょうか?

しかし原則的には成人されてない勇者候補は非公開なのでは?」

ローバが懸念する。

本来、大衆に公にされるのは「勇者」のみだ。

勇者候補は公開されないものであり、もし公開されても特殊なケースである。

例えば、戦時や国家の厄災などである。

そして未成年の勇者候補が公になる事例は今までなかった。


「本来ならそうですが、陛下がお決めになりましたことですので、致しかたないかと。」

「もしかして何か、国に異変とかが起きたのですか?」

「あ、いえ。そういうことは全くございません。今も泰平です。ただ、歴代最強の勇者候補ということもあり、成人になる前に見ておきたいという理由でしょう。」

お茶をすするハルバート。

そしてティーカップを置く。

チャカッと軽く音がした。


「ですが、ここだけの話で、正直に申しますと、イベントに近いものかと思われます。

長い安泰のおかげか、貴族たちが何らかの面白いものを所望しておりましたので。」

「はあ...やはりそういうことですか。」

成人になる前の子供は精神的に脆い。

しかも勇者という重責は、歴代勇者の中でも耐えられずに壊れた前例がいくつもあった。

なのに貴族たちは、成人にもなってない勇者候補を娯楽として消費しようとする。


「私も爵位があるので、王宮の中では精一杯支援させていただきますが、王宮には疎い端くれの者でございますので...。」

語尾を曇らせるハルバート。


「状況は理解いたしました。しょうがないですね。では出発日はいつになるのでしょうか?」

「1ヶ月後くらいになると思われます。騎士団は早ければ2週後くらいに到着すると思いますが、彼らも貴賓をもてなす用意と休憩が必要ですので。」

「思ったより早いですね。わかりました。こちらもその用意をします。」

想定よりも早い。


「あと、私は彼らが来る前まではこちらの隠居地で滞在をさせていただきたいと思います。もしよろしかっ──」

「いや、町へ帰れ。騎士団が2週間後に来て、その時またゴタゴタして、用意不足とかで延期とか話にならん。騎士団だ。恐れられるぞ。そんな町の人たちにも事前の案内や準備する時間が必要じゃないか?」

ラークが遮る。


「そちらは冒険者ギルドで用意をしてくださると、了承を得ております。故に問題はないかと。」

「ざけんな。話を聞いたところ、お前は伝令ではあるが責任者の一端を担いでんだろ?

ならその責任を全うしろ。万一のためにいるのが責任者だ。」

「...そうですね。これは私の不覚です。わかりました。では、明日出発してティアレン町で指揮を取ります。

では、町での件が落ち着いたら、ティアラ様の護衛のためにまたこちらに来ます。」

「いや、俺がお前の代わりに行ってやるよ。だから町での仕事に集中しろ。俺のパーティーだ。ヘマするんじゃねえぞ。完璧にやり遂げろ。」

ハルバートの代わりに護衛をすると言い出す。


「あと、冒険者ギルドに行ってブロンというやつを探せ。あいつがこっちとの連絡手段を持っている。それを使え。」

「──やはり、まだ私はあなたに敵わないようだ。」

「だろう?」

「はあ...そういう図々しいところ含めてです。」


参ったように話すハルバートである。


──

一方、ティアラの部屋。

ルナはベッドの上で仰向けになっていた。


静かだ。

食堂からは人の声が聞こえるが、内容は聞き取れない。

おそらく王宮の人と話しているのだろう。


ティアラとローバはいつ王宮に行くのだろうか。

その日が遠くないことを実感したルナは何故か気分が黒くなるような気がした。


「...?」

初めて感じる感情に戸惑う。

胸の奥に何か穴が空いた感じがする。


──寂しい。


「...寂しい。」

その初めて感じる感情が自然と口に出たルナ。

最初は戸惑ったものの、寂しいということが理解できたルナは納得をする。


ティアラとローバが行かないでほしいと思う。

ずっと一緒にいてほしいと思った。

だが、現実はそう容易くないことを知るルナ。


しょうがないことと納得し、その気持ちを切り替えようとする。


普段なら訓練をしている時間だ。

だが、今は訓練場ではない。

持て余してしまった時間の乖離感に堪えられないのだろう。

結局ベッドの上で恨の抑制を始めた。


この日は、ローバが間を見て食事を持ってきたり、ティアラのトイレを言い訳とした様子見くらいで、ほぼ一日中一人で部屋の中で恨の訓練に励んだ。


──夜。

ティアラはとても疲れた顔で部屋に戻って来る。


初めての社交辞令、そして勇者候補としての生活であった。

相当のプレッシャーがあったのだろう。


服も着替えず、ベッドで恨の訓練をしていたルナにそのまま抱きつき、眠ってしまう。

そんなティアラに、身動きができないルナだった。


──


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