【42話】伝令
あの日以降。
ルナの訓練は続く。
変わらない日々。
いつも通りの基礎訓練だ。
理由としては次の段階に進むための訓練の準備が整っていないためである。
ルナの予想より早い成長により、意図せずにラークの準備も遅れた。
次の段階に進むには特別に用意しなければならないものがある。
だが、その準備ができていない。
その準備のためにラークはティアレン町に行ってくる必要があった。
だが、それも叶わない。
ハルバートが向かってきているからだ。
いつ訪問するかわからない。
別の訓練も考えたが、焦りは禁物だ。
余計な癖がつく可能性が高い。
だから、基礎訓練を怠らず反復させる。
仁王立ちして腕を組んでルナの訓練を見ているラークはそう思った。
──
2ヶ月後のある日。
朝。
──ドンドン!
「伝令です!」
大きな音で叩かれる大門。
そして聞き慣れない男の声が聞こえた。
その男の身長はかなり高い。
巨躯のラークよりも頭一つ分大きい。
無駄な肉はなく高い身長にも関わらず、やせ細っている。
長いシルバーの髪は束ねている。
丸いメガネをかけている顔はどこかスマートに見えた。
その横に狼のような犬を連れており、背中には大きな弓を背負っている。
──狩人だ。
荷物は最小限にまとめている。
ティアレン森をほぼ用意もなく歩き回るということは二部類だ。
よほどの間抜けか、もしくはよほどの実力者か。
でもこの者は隠居地までたどり着いた。
きっと後者だろう。
──キイイ...
大門が開く。
ローバが出てきた。
「はじめまして。お待ちしておりました。」
ハルバートを迎えるローバ。
「ごきげんよう。王宮からの勅書です。」
「はい、承りました。」
勅書を受け取るローバ。
勅書を受け取るためには、色々な礼儀がいるが、ここでは省略している。
「お?ハルバート?」
奥から男の声がした。
ラークが出てくる。
「わはは、久しぶりじゃねーか!元気してたか?」
「ええ、誰かさんが不在でしたから、あっちこっちにすがりついて、ほぼ傭兵みたいな日々を送っていましたよ。ええ、それはまるで乞食のような、とても良い生活でしたね。」
口は笑っているが目は笑っていないハルバート。
「あ、そ...そうか。よかったな。俺がいなくてもちゃんとやってて安心した!」
とぼけるように逃れようとするラーク。
とぼけられてない。
ジト目で見るハルバート。
「...すまない。」
謝った。
「はあ...もういいです。ところで、どうしてこんなところにいるんですか?」
「何となく、な」
気まずく笑うラーク。
そんなラークを見て、ハルバートはふとローバを見た。
人として見る目ではない。
まるで観察しているようだ。
ローバの顔を見て、豊満なバストに視線が向く。
徐々に下に視線を降ろし、細い腰ラインを見て、ヒップを見る。
そしてラークに視線が戻る。
「──な・る・ほ・ど。」
「てめえっ、今変なこと考えただろ?」
ラークが慌てて突っ込む。
「また女ですか。ほどほどにしてください。しかもここはあなたがいたら危ないんですよ?」
「そんなんじゃねえ!」
ラークは必死に否定する。
「じゃあ、何でここにいるんですか?天下のラーク様がパーティを投げ出して、メンバーを捨て、一年以上も連絡もなく、こんな何もないところにいる理由の説明を切実に所望します。」
区切りが着く度に冷や汗が増え、「うっ!」とか「げっ!」とか変な声を発するラーク。
慌てて返事する。
「た、たまたまなんだよ!ティアレン森で依頼していたら迷ってしまって、たどり着いたとこがここ!んで、ここが案外住み心地がよかったら居座っただけだ!」
「なるほど、女ですか。」
「くわーっ!だーかーら、何でそうなる!?」
と喧嘩を始める二人。
ローバは瞳を輝かせて二人を見ている。
「──おもしろい。」
独り言を呟くローバ。
普段のラークとは違う反応が、新鮮なのだろう。
──しばらくして、二人の喧嘩はやっと収まる...どころか、ハルバートの小言の終わりがみえない。
「あの...よろしかったら、中に入って続かれてはどうでしょうか?」
興味津々にしていたローバが、中断させる。
ずっと見ていたかったが、ハルバートは一応王宮から来た大事な客だ。
もてなさなければならない。
「大変失礼しました。初対面なのにも関わらず、お見苦しいところを見せてしまった。申し訳ない。」
「おうおう、ずっと詫びてろ。」
謝るハルバート。
煽るラーク。
ハルバートはスルーして、ローバの案内通りに隠居地に入る。
──
一方、ルナとティアラ。
二人は朝食を終え、ティアラの部屋で各々の訓練の用意をしていた。
隠居地の入口から聞き慣れない男の声がする。
二人は目を合わせる。
「シーッ、王宮の人が来たみたいよ!」
「うん、そうだね。」
外まで聞こえるはずもない声を更に小さくして、話をする。
「バレたら大変なんだよね?」
ティアラがボソッと言う。
「そうだね。僕はここにいたらいけない人だから。だから静かにしなきゃいけないって。」
「大丈夫?」
ティアラはルナを見る。
心配なのだろう。
「今日からしばらくはご飯とかはローバさんが持ってくるって言ってたし、大丈夫だよ。
たった数日だから。」
意外と平気なルナだ。
「──それに慣れているし。」
小声で独り言をボソッという。
「うん?なんて言ったの?」
聞き取れなかったティアラ。
「いや、なんでもないよ。
それよりも、ティアラって思っていること、顔に丸出ししているよ?
そんなんではすぐバレてしまうかも。」
「えっ?気をつける!ルナのために頑張って隠す!」
拳を握り態度を改めるティアラ。
「そんなに力んだら逆にあやしいよ。
力抜いて、もっと気楽にしてて。
僕は本当に大丈夫だから。」
ティアラの頭を撫でながら言うルナ。
──余談ではあるが、最近ルナはティアラの頭をよく撫でる。
おそらくローバやラークに撫でられた時の良い記憶のせいかもしれない。
「うん、やるって決めたらやる子だから。私は!」
「ありがとうね。そろそろ出ないと疑われるかも。」
「うん、じゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい。」
ニッコリと笑いながら、ティアラを部屋の外に送り出すルナ。
ドアが閉じきる前に見えるルナの表情は無表情だった。
──




