目覚め
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気づいた時には暗闇だった。
右を向いても左を向いても変わらない景色。
私以外誰もいない空間。
一人ぼっちで取り残されたかのよう。
怖い筈なのに、ここから抜ける方がもっと恐ろしい気がした。
ここに居れば安全だ。
誰も私を傷付ける人はいない。
だからもう少しこのままで―。
――
「…。」
夢から目覚めるようにしてうっすらと目を開けようとする。
起きてすぐだからか、中々視界ははっきりとしない。
「う~ん…。っ!痛った!」
試しに体も伸ばしてみた。
すると痛みで体中に悲鳴が走る。
寝すぎたせいだろうか。
とにかく尋常じゃなく体が痛く、とてもじゃないが体を起こす事すら出来なそうだ。
「だ、誰か…。」
メイドを呼ぼうと出した声は思いの外ガラガラで、一体どれだけ寝てしまっていたのだろうか。
近くに置いてあるベルでメイドを呼ぼうと手を伸ばす。
するとタイミング良く誰かが入って来た。
「!ひ、妃殿下!!」
メイドの格好をしたある女性が私を見つけて驚いた声を上げた。
彼女は私の姿を口を押えて見ており、私はそれをオーバーリアクションの様に思えた。
(一体何をそんなに驚いているの?)
メイドの尋常ではない様子を不思議に思う。
それでも、起こして欲しくて私は彼女へと手を伸ばす。
「ね、ねえ。起こし…。」
「お待ちください!今すぐ殿下を呼んで参ります!!」
私の訴えは最後まで届かなかったようで、メイドは一目散に部屋を出て行った。
残された私はと言うと、何が何だかわからず呆気に取られる。
伸ばした手は空しく空中を彷徨った。
「せ、せめて起こしてから行って欲しかった…。」
メイドの勢いに押され、力が抜けた私は伸ばしかけていた手をベッドへと投げ出したのだった。
――
「イヴェット!!!」
それから暫くして。
慌ただしく誰かが部屋に入って来た。
男性の声だったので、先程のメイドではないようだ。
顔だけ動かし、声のする方を見る。
「イヴェット…。良かった、目覚めたんだな。」
目に涙を浮かべ私を見つめる男の人。
髪はぼさぼさで、安心したように微笑んでいる。
「…?」
なぜそんな顔で私を見つめているのか。
私には理解できず、無言で男の人を見つめる。
「どうした。体が痛むのか?」
「…う、ん。」
「喉もガラガラじゃないか。おい、誰か水を頼む。」
「はい、かしこまりました。」
先程のメイドはこの男の人の後ろに控えていたようだ。
指示を聞いて、すぐに用意すると言って出て行った。
「こんなに痩せてしまって…。可哀想に。食事はちゃんと摂っていたのか?」
「え、ええと。」
「どうした?遠慮なく何でも言ってごらん。」
「あの。その…。」
男の人は慈愛に満ちた顔で優しく私に問いかける。
私はと言うと、何も答えられなかった。
それどころか、反対に混乱している。
なぜなら…。
「…あなた誰ですか?どうして私の名前知ってるの?」
私はこの人の事を知らないから。
心配するような顔も。
悲し気にほほ笑むその顔も。
愛しむようなその顔も。
全部知らない。
なぜ赤の他人である私にそんな顔が出来るのか。
「え…。」
男の人は私の発言に驚いているようだ。
先程までの勢いは無くなり、途端に固まる。
「イ、イヴェット。どうしたんだ、一体。」
余程ショックを受けているのか男の人は顔を青褪めさせている。
不思議に思い、見続けているとその顔にある人物の面影を感じた。
この人。
「あれ、お兄様そっくり…。もしかしてコルベール家の親戚とかですか?」
白金色の髪とスカイブルーの瞳はリックお兄様と同じだ。
顔つきもお兄様に似ていたので私はてっきりこの人は親戚のお兄さんか誰かなのかと思った。
今まで会った事も無かったから知らなかった。
私の予想は合っていると思ったのだが、未だに男の人は微妙な顔つきだ。
間違っているのだろうか。
「本気で言っているのか、イヴェット。俺の事、覚えていないのか?」
「?どこかで会った事あるんですか?」
「会った事あるも何も…。」
なぜか気まずそうにしている男の人。
口籠っていて、話しづらそうだ。
「コルベール卿。どうされたのですか。」
頭を抱えてショックを受けている男の人。
そんな彼とは別でまた違う男の人の声が聞こえて来た。
次から次へと部屋に知らない人が入って来て怖い筈なのに。
私はなぜか恐怖感は無かった。
それどころか、聞こえる耳馴染みの良い優しい声に落ち着きすら感じる。
初めて聞いたはずなのに。
なぜか落ち着きとは別で、緊張したみたいに鼓動が少し速まった感覚もした。
自分のその変化に不思議に思っていると、声の主がこちらへどんどん近づいて来る。
「コルベール卿。イヴェットの様子はどうですか。」
ベッドへと恐る恐る来て顔を見せた男の人。
ようやくどんな人か認知できたその瞬間。
私の目の前が途端にキラキラでいっぱいになった。
さらりと揺れる眩しいほどの金髪。
キラキラ輝くエメラルドグリーンの瞳。
綺麗な姿勢で歩くその姿。
(なんて綺麗なの…。)
完全に無意識だった。
そのキラキラを掴んでみたくて。
私は体が痛いことも忘れて、手を伸ばす。
「っ、危ない!」
片手を伸ばすと体が前に乗り出したみたいになった。
そのせいで、バランスが取れず転びそうになってしまう。
しかし、その寸前でキラキラの人に抱き溜められたので大事にならずに済んだ。
「まだ、完治していないのですから安静にしていないと駄目ですよ。」
眉を頼り無さげに下げ、心配そうにこちらを見る。
受け止めてくれた手付きは優しく、怪我をしている部分を触らない様にしてくれているみたいだ。
体を元の位置に戻してくれ、乱れてしまった服を丁寧に直してくれた。
私の事を気遣ってくれている。
彼の行動から一瞬でそれが感じ取れた。
同時にその素振りから、私は確信を得る。
(すごい。本当にいたんだ。)
絵本の中でしか見たことない存在。
憧れは日に日に募り、現実ではもういないものだと諦めていたけれども。
「大丈夫ですか?起き上がりたかったのならそう言ってくれれば…。」
「…様。」
「イヴェット?」
背中に手を添えて、ゆっくりと介抱してくれるその手を私は力強く掴んだ。
勢いが良すぎたからか、少し驚いていたけれど気にしない。
私はこの手をもう離したくはなかった。
だって…。
「皇子様!!」
私の理想の王子様が目の前に現れたのだから。
「「…へ?」」
キラキラとした目で王子様を見上げる私。
だからか周りがどんな目で私を見ていたかなんて気づかなかった。
だって私にはもう皇子様しか目に入っていなかったのだから。




