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後悔と謎

誤字脱字報告ありがとうございます。

イヴェットが倒れてから二週間が経っていた。



「殿下。まだ日記は見つからないそうです。」



エトワール卿が執務室に座るアドリアンへ向けて報告をする。


アドリアンは手を止めて、エトワール卿を見た。

今回の日記の捜索は彼の指揮の元、行っていた。

もう何日も探しているからか、エトワール卿の目に疲れが溜まっているのがわかる。


これだけ探しているのに無いのはおかしな話だ。

やはり直接イヴェットに聞くしか方法は無いのだろうかとアドリアンは思っていた。


しかし…。


アドリアンは席を立ってある方向を見つめた。

執務室からも様子が見えるその先はイヴェットの部屋がある場所だ。



「妃殿下は今日も目覚められないのですね…。」



いきなり黙った主君の視線の先に気づいたエトワール卿は悩まし気に呟く。



実の所、日記が見つからない事よりもアドリアンはイヴェットが目覚めない事の方が気になっていた。

怪我はもう治療してある。

これ以上、容体が悪くなる事も無い筈なのに。


イヴェットは目覚めなかった。

まるで起きるのを拒否してるかのように彼女は眠り続けている。



「はあ。」



アドリアンはここ最近の騒動で疲れていた。

元はと言えば自分が悪いので、自業自得ではあるのだが。


貴族達からどうなっているのかと事実を明らかにしろと抗議されている。

今回の皇族の行いは彼らも看過出来ないと判断しているようだ。


だが、アドリアンは誰に何を思われようがどうでも良かった。

帝国の英雄なんて呼ばれているが、それは勝手に周りが持ち上げただけのお飾りの呼び名だ。


実際の自分はちっぽけで、一人の女性すらも守れない軟弱もの。

寧ろ罵ってくれた方がせいせいする。


ただ、貴族達と顔を合わせる度に聞かれると流石に疲れてくるものがある。


頭を悩ませる原因は他にもあると言うのに…。



「殿下、タシェ嬢の件ですがいかがなさいますか。」


「…。」



エトワール卿はアドリアンの思考を読んだかのように、彼の悩みの種の一つであるカレンの話を持ち出した。


騒動の中心の一人であるカレン・タシェ。

彼女もまた今回の件で相当な痛手を負っている。


優秀な人物として補佐官にまで上り詰めた実績のある彼女。

その功績を称えられ、実家であるタシェ子爵家の事業も上手くいっていたらしいが今回の件でイメージダウンして、今や軒並み貴族達から契約を破棄されているらしい。

財政難にまで陥っていると言う噂が流れていた。


元々子爵自身も事業の才能が無かったので、時間の問題でもあったのだが。

今回の件がトリガーになったのは事実だろう。



「引き続き、監視を付け謹慎と言う形に。その間に子爵家が今回どこまで関与していたのか調べてください。」


「承知いたしました。」



こんな時でさえ、まだどこかで幼馴染を信じていたい気持ちがあるのをアドリアンは誤魔化せなかった。

母親を失くして一番近くで支えてくれた大事な親友。


誰かを気遣う優しさも、穏やかに笑うその姿も。

風に靡く綺麗な黒髪でさえ母親を彷彿とさせる彼女。


アドリアンにとって、カレンはそんな簡単に割り切れるような相手ではない。


なぜこんな事をしたのか。

イヴェットを虐めたのは事実か。


アドリアンは理由を聞いて真実を明らかにしたい。

そしてそれが事実ならば、カレンを罰しなければいけない。


それが皇族としての務めだとアドリアンは思う。



(それを放置していた私も同罪ですがね…。)



アドリアンは自分の不甲斐なさを悔いていた。

イヴェットの事を思って、接しない様にしていたのに結果こんな事態を招いてしまうとは。


イヴェットは毎日日記を付けていたと言っていた。

子爵家のメイドの嫌がらせも恐らくそこに記されているだろう。

アドリアンはそう踏んでいた。


日記に書いてある事が全て事実なら。

自分も責任を取るべきだとアドリアンは考える。



「そろそろ時間ですから行きましょうか。」



やる事はまだ山積みだ。

これからの事はまた後で考えよう。


アドリアンはそう自分に言い聞かせ、次の予定へ向かう為、席を立ったのだった。



――



「お待たせいたしました。リック・コルベール卿。」



応接室へ着き、アドリアンを待ち構えていたのはコルベール家の長男。

リック・コルベールだった。


イヴェットとは4つ年が離れており、今年24歳になる。

アドリアンの一つ年上だ。



「いえ、お久しぶりです殿下。」



背筋をピンと伸ばし、にこりとも笑わない。

相変わらず愛想が無く、真面目な男だなとアドリアンは思った。


白金色の髪に瞳は父親譲りのスカイブルー。

よく見るとイヴェットと似てなくもないが、性格が違いすぎて兄妹とは思えない。



「本日はどういった御用で?」



普段は家の経営をしていて、コルベール領から出ることが滅多にない。

そんな彼が今日アドリアンに会えないかと手紙を送って来た。

実に珍しい事である。



「父から妹の事情は聞きました。」



リックは真っ直ぐにアドリアンを見て告げる。

その瞳が怒りで揺れている様に見えた。


アドリアンはその言葉を聞いて、やはりなと思った。

リック・コルベールは一見冷たそうに見えるが、妹を溺愛している。

皇家との結婚にも最後まで反対していたと聞いたことがあったので、彼が今回の件を黙っている筈がない。



「その件については申し訳なく…。」



思っております。

そう続けようとしたアドリアンだったが、リックは謝罪を途中で止めさせた。


てっきり怒っていると思ったのだが違うのだろうか。

そう思い、下げていた顔を上げるとリックは寂しそうな後悔している様な顔をしていた。



「確かに妹が傷ついたのは許せません。ですが、私も妹の異変に気づけなかった。手紙がいきなり途絶えたのをわかっていたのに。」



リックは結婚して暫くは手紙のやり取りをしていた事をアドリアンへ話した。

仲の良いコルベール兄妹ならおかしくない話だったので納得だ。


しかし、数か月後にいきなり連絡が途絶えたのだと言う。

忙しいから返せないのだろうか、結婚をした妹に構いすぎるのもどうなのかと特に気にしないようしていたが、本当はこの時にイヴェットの事をもっと気にしてあげれば良かったとリックは後悔していた。


アドリアンはリックの後悔が痛いほどわかる。

自分も気づけなかった人間の一人だからリックを責める気持ちにはなれない。


だが、リックの本題はそこではないようだった。



「パーティーの3日前。一通の手紙がコルベール家へ届きました。」


「手紙ですか?」


「ええ。宛名は違いますが、イヴェットからです。昔よく二人で内緒の手紙を書く時に使っていた偽名で手紙を私に送って来たようです。」



リックが机に出した手紙は簡素なピンクの封筒だった。

言われなければイヴェットが書いたものだとはわからない。


一体どういう手段で皇宮からコルベール家へ送ったのか謎である。



「内容はある三人のメイドに注意しろと言った内容でした。」


「メイド…。まさか子爵家出身のメイドだったんですか。」



イヴェットは自分の周りのメイドはほとんど子爵家のメイドであると言っていた。

その事から、まさか、実家であるコルベール家にもメイド達が侵入していたのかとアドリアンは危惧する。



「いえ。寧ろ妹と昔から仲の良いメイドです。長く仕えているので姉妹のように育ってきた者達です。」


「?ならばなぜ…。」


「私もそこが引っ掛かりました。妹は結婚をする直前まで彼女達との別れを惜しんでいました。あれが演技とは到底思えない。あんなに仲の良かった彼女達を疑う理由は何なのだろうと思いました。」


「確かに不思議ですね。皇宮にずっといたのでその者達と接する機会はなかった筈。」



イヴェットがなぜそんな手紙を寄越したのか。

アドリアンとリックは考えたが、答えを導き出せそうにはなかった。



「殿下。私は妹が何かを隠している様に思えます。果たして今回の件は日記を見つけ出すだけで終わるでしょうか。」


「確かに、本人に聞くのが一番早いですね。しかし…。」



イヴェットは未だに目覚めない。

リックもその事を知っているからか、言葉に詰まる。



霧が晴れず、モヤモヤと不快な感情が渦巻いていた。

その時の事だ。



「殿下!イヴェット様が目覚められました!」

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