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微子の憂鬱外伝、召奭伝  作者: 日和見


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出征

召奭伝 第8話 その後、周国は西方諸侯を率い、商への大規模な「朝貢」を敢行した。大量の穀物を積んだ馬車が列をなし、商の防衛線の喉元へと進んでゆく。表向きは、東方遠征を続ける商王朝への、臣下の礼を尽くした物資支援。だが、その真の狙いを知る者は、この連合の中でも極めて限られていた。(……恐るべき男よ、姜子牙)商の国境沿いで物資の受け渡しを見届けながら、私は背筋に冷たいものを感じていた。この朝貢は、忠誠の証などではない。有事の際、西方の軍勢がどれほどの速度で商の防衛線を突破し、王都へと迫ることができるか。そして商の防衛体制がどう反応するかを正確に測るための、完璧な『威力偵察』なのだ。何も知らずに物資を受け取り、周の忠誠を疑わぬ商の面々。特に、大功績だと喜んでいる微子や、それを必死に抑え込もうとした宰相・比干の姿を思い浮かべ、私は思わず彼らを哀れにすら思った。同時に、姜子牙という怪物への警戒は、もはや恐怖に近いものへと変貌していた。味方のうちはこれほど頼もしい男はいない。だが、もし一度でも道を違えれば、我が召国もどうなるか。――そうして、張り詰めた糸のような均衡を保ったまま、着々と時は流れた。商の防衛能力を完全に把握し、牙を研ぎ澄ませていた我が軍に、ついに歴史を動かす激震が走る。王都・朝歌にて、未曾有の異変が起こったのだ。「――何だと!?」前線から届いた密報を読み上げさせた瞬間、私は思わず総毛立った。商の守護神であり、最後の良心でもあった宰相・比干、死亡。同じく王族の賢臣である箕子は幽閉され、推挙されていた微子は追放。商の宮廷が、完全に自壊した。これこそが、あの化け物軍師が仕掛けた「内側からの崩壊」の結実か。諸侯を侵食していたあの巨大な超大国が、今、完全に首を失って狂乱している。勝機は今、この瞬間を置いて他にない。「……これ以上の静観は不要だ。いま動かねば、すべての好機を失う!」私は即座に立ち上がり、執務室の全将兵に向けて、地を揺るがすような怒号を放った。「全軍に告ぐ! 明日には、我が国が派遣する軍団のすべてを出征させる! 躊躇うな、掛かれ――っ!!」命令は瞬く間に国中を駆け巡った。この大業の発起人であり、亡き姫昌殿や新王・姫発殿が率いる周国へも、即座にこちらの動きを伝える連絡員を走らせる。対等な同盟関係とはいえ、あちらからの急報を待っていては機を逸する。こちらの迅速な決断を伝え、歩調を合わせるのだ。同時に、召の傘下にある西方の諸侯たちへ向けても、一斉に動員令の檄文を飛ばす。国中が、にわかに鉄と血の臭いに包めてゆく。馬のいななき、鎧の擦れる音、兵たちの怒号が、召の夜空を震わせていた。だが、全軍の指揮を執りながら、私の脳裏には拭いきれない疑問が過っていた。(……一体、朝歌で何が起こったのだ? 比干の排除までは奴の計算通りだとしても、微子の追放まで起こるとは……)まさか、これもすべて奴(姜子牙)の描いた絵図の通りなのか。底の知れない怪物の影が、激動の戦雲の向こうで不敵に笑っているような気がしてならなかった。「……いや、今は考えるな。進軍を急げ!」我が軍の進軍速度から逆算すれば、決戦の地へ至るまで、あと二ヶ月と経たない。天下の覇権をかけた賽は、ついに、私たちの手によって振られたのだ。

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