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微子の憂鬱外伝、召奭伝  作者: 日和見


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姬昌死す

召奭伝 第7話 姜子牙との密約が結ばれて以降、我が召国と周国の間では、水面下でいくつもの謀略が目まぐるしく動き始めていた。その中に、あの化け物軍師が提案し、私が即座に採択した一つの策があった。――召国と周国による、国境地帯での「大規模な合同軍事演習」である。実戦さながらに鎬を削ることで、両軍の練度が跳ね上がるのは言うまでもない。だが、この演習の真の狙いは別のところにあった。「……見事なものだな、姜子牙殿」激しく砂塵を巻き上げる両軍の模擬戦を遠目に眺めながら、私は密かに感嘆していた。表向き、召と周は激しく反目し、国境を接して一触即発の危機にある――天下に対して、これ以上ない「欺瞞」の舞台を演じてみせたのだ。この一芝居に、最初に乗っかったのは商の宮廷であった。姜子牙が手懐けている商の高官を通じ、「西方の周を牽制するため、召国を支援すべきだ」という上奏がなされたのだ。商からすれば、西方の諸侯同士が互いに牽制し合ってくれるのは好都合でしかない。結果、商の側から我が召国へ向けて、軍事援助という名目の莫大な物資が流れ込み始めた。当然、それ相応の対価は必要であった。だが、その引き換えに商の技術で作られた「高品質な青銅製の武具」が、次々と我が国へ輸出されるようになったのだ。敵であるはずの商の財を貪り、自軍の装備を塗り替えてゆく。偽りの戦を演じながら、我が召国の軍事力は、練度・装備ともに飛躍的な充実を遂げていった。――そうして牙を研ぎ澄ましている最中、ついにその時が訪れる。商による、空前絶後の東方遠征が開始されたのだ。超大国の全神経が東へと向いたこの好機を逃すまいと、私もまた、頻繁に周の都・豊京へと足を運ぶようになった。商の目を盗み、決戦の 日 に向けた軍事打合せを幾度も重ねる。すべては順調。商の滅亡への秒読みは、確かに刻まれているはずだった。だが、歴史の歯車が大きく軋むような悲報が、突如として我が耳に飛び込んできた。「……西伯・姫昌殿が、崩御された……」届いた報せに、私は目の前が暗くなるほどの衝撃を受けた。商の狂気的な宮廷から生還されて、まだ幾年も経っていない。やはり、羑里の地での七年間に及ぶ過酷な幽閉が、その御身体を芯から蝕んでいたのだろう。絶対的なカリスマの喪失。反商連合の精神的支柱を失った今、この同盟が瓦解すればすべてが終わる。私はすぐさま豊京へと走り、新たなる周の君主として立った次男、姫発(のちの武王)と対面した。まだ若き新王の双眸を真っ直ぐに見据え、私は一言、低く力強い声で告げた。「姫発殿。……君主が代わろうとも、我が召国と周国の同盟は微塵も揺らぎませぬ。この奭、これからも周を支え、共に天下の大業を成し遂げましょう」悲しみに暮れる周の宮廷で、私は己の覚悟を新たにした。偉大な指導者を失ってもなお、商王朝打倒の火が消えることはない。むしろ、より激しく、より冷徹に、私たちは次なる一歩を踏み出すのだった。

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