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微子の憂鬱外伝、召奭伝  作者: 日和見


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参戦

召奭伝 第16話 ひっきりなしに届く周の都からの救援要請を、もっともらしい言い訳で退け、ただひたすらに静観を決め込んでいた我が召国。周公旦殿が孤独な摂政の座でいよいよ破錠し、絶望の泥を啜るその瞬間を冷徹に見極めていた私の元に、ある日、とある人物が自ら乗り込んできた。亡き姫発殿の正室であり、幼き新王の母――邑姜殿であった。「ああ、召公奭殿! なぜ、なぜこれほどの国難に際し、私たち周を助けてはくださらないのです! 今まさに反乱軍の牙が、都の喉元にまで迫っております! もし、このまま周を見捨てると仰るのならば、どうかその理由を教えてください……! お願いいたします!」私の前に崩れ落ち、涙ながらに縋り付いてくる邑姜殿。その必死の哀願を前に、私はいつもの懃懃な無表情の裏で、激しい舌打ちを噛み殺していた。(……ええい、鬱陶しい。なぜこの女が直接来おるのだ)本音を言えば、参戦など死んでもしたくなかった。かつて周と同盟を結んだ時も、決戦直前までそれを極秘にしていたほど、私にとって何よりも最優先すべきは我が召国の生存であり、民の命なのだ。周が滅びようが商が復活しようが、我が召国が傷つかなければそれでいい。だからこそ使者を無視し続けていたというのに、新王の母親にここまで泣きつかれては、大政治家としての立場上、これ以上の拒絶は不可能であった。「……邑姜殿、どうかお顔をお上げくだされ。どうやら、大いなる誤解があるようですな。我が召国が周を見捨てるなど、あり得ませぬ」私は渋々ながら建前を繕うと、彼女を伴って都へと向かった。馬車に揺られながら、私は冷ややかに政治の天秤を叩く。(さあ、周公旦よ。私を動かすからには、それ相応の覚悟を見せてもらおう。我が国を不必要な戦へ引きずり出すのだ。毟り取れるだけのものは、すべて毟り取ってやる)都に到着し、会談の場で対峙した周公旦殿の姿は悲惨であった。戦況悪化の心労から疲弊した彼は、私を見るなり、皇族としてのプライドを完全にかなぐり捨て、土下座せんばかりの勢いで助力を乞うてきた。「太保(召公奭)殿……! 頼む、軍を出してくれ! この通りだ、すべては成王様のため、周の未来のために……!」私はその哀れな姿を見下ろしながら、極めて冷徹に、我が国が立ち上がるための「条件」を突きつけた。今後の新王朝における、幼き成王の『養育権』。そして、天下の富が注ぎ込まれる『周王朝の財務権』の完全なる掌握――。国政の最高中枢と、国の財布をこちらへ引き渡せという、実質的な主導権の強奪。だが、後ろから微子殿にケツを叩かれていた周公旦殿には、もうこれを呑む以外の道は残されていなかった。「……分かった。太保殿の条件を受け入れよう。だから、頼む……!」「――承知いたしました、摂政殿。ならば、我が召の武をもってお応えいたしましょう」交渉は成立した。だが、私の胸中にあるのは勝利の確信ではなく、君主としての重苦しい覚悟であった。相手は、あの牧野の戦いを生き延びた商の最強の正規軍。数で勝る周軍を蹂躙してきた怪物を相手にするのだ。中途半端な小出しの兵力など、各個撃破されて無駄死にするのが目に見えている。やるからには、北方の燕国へ半数を割いて残された、我が召国の本拠地の全力を投じる他ない。……それどころか、この豊京の真下にある、先祖代々の我が「本貫地(本拠地)」そのものを、戦火によって完全に失う(・・・・・・・)覚悟すら必要であった。(だからこそ……参戦などしたくなかったのだ、私は!)己の選択の重さに歯を食いしばりながら、私は本拠地へと引き返し、全軍に向けて国を挙げた総動員令を宣言した。温存され、装備と練度を極限まで高めていた我が召公軍四万の精鋭が、一斉に牙を剥いて進軍を開始する。「我が召の戦士たちよ、南より怒濤の勢いをもって敵陣を食い破れ! 一度敵対したからには、勝者となる他ないのだ! 掛かれ――っ!!」私の怒号とともに、召国軍の大軍勢が前線へと出撃してゆく。失うものの大きさを血涙とともに飲み込み、新たなる時代の真の覇権を召の地へ、そして我が血統へと手繰り寄せるため、私は自ら軍の先頭に立ち、激動の戦雲の中へと突き進むのだった。

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