三監の乱
召奭伝 第15話 私が周の朝廷から手を引き、全軍を引き連れて本拠地へと撤退してからも、あの愚か者――周公旦殿の暴走は止まらなかった。摂政として独裁を強める旦殿は、東方の武庚殿や三人の兄弟(管叔鮮たち)に対して、嫌がらせのような無理難題を押し付け、あからさまな挑発を加速させていた。かつて味方ごと矢を射かけた最高軍師・姜子牙を追放し、我が召国の協力をも失ったというのに、もし彼ら旧商勢力が反乱を起こしたとして、一体どのような自信があって抑え込めると思っているのか。(……ふは、せいぜい高見の見物と行こうではないか)私は自邸の執務室で冷たいお茶を啜りながら、冷ややかに戦雲の行き先を眺めていた。このまま戦になり、商王朝が復活するのか、あるいは管叔鮮殿たちが新たな周王朝の主となるのかは知らぬ。だが、どちらが勝とうが、周のすぐ横に圧倒的な軍事力を持って静観している我が召国を、無下には扱えまい。どちらに転んでも、我が国の優位は揺るがないのだ。そして、私の読み通り、ついに事態は破滅へと動き出した。限界を迎えた三監の兄弟たちと、武庚殿が手を結び、天下を真っ二つに割る大内戦『三監の乱』が勃発したのだ。武庚殿を盟主に担ぎ上げた反乱軍の進撃は、凄まじいの一言に尽きた。数だけで見れば、新王朝の税や朝貢で急遽かき集めた周軍の本隊は総勢十二万。対する反乱軍は商の旧領の富が失われたため、半減以下の総勢十万人。「十二万対十万」で、本来ならば数で勝る周軍が圧倒すべき盤面であった。それなのに、蓋を開けてみれば、周軍は防衛線を食い破られてボロ雑巾のように押されに押されていた。理由は明白だ。反乱軍の主力は、牧野の戦いを生き延びた、戦うことだけを生業とする商の最強の『正規軍(常備軍)』。対する周の十二万は、数だけは多いがまともな戦い方も知らぬ徴兵の諸侯軍、すなわち烏合の衆。戦術の天才たちを自ら追い出しておいて、勝てるわけがなかろう。敗色濃厚となった都からは、ひっきりなしに我が召国へ向けて使者が派遣されてくるようになった。「太保殿、成王様のため、どうか軍を出してくだされ!」と涙ながらに助力を願われるが、私はそのすべてに対し、もっともらしい言い訳を並べ立てて、ただひたすらに無視し続けた。当然、勢いに乗る武庚殿の側からも「共に周公旦を討ち、天下を正そう」と誘いの使者がやってきたが、こちらも同様に冷淡に無視した。勝敗が完全に決するその瞬間まで、我が召国の精鋭六万(本隊四万、傘下諸侯二万)の絶対的な牙は、誰のためにも動かさない。真っ青な顔をして竹簡の山に埋もれ、混乱しかけているであろう周公旦殿の姿を思い浮かべ、私は心の底から冷徹な嘲笑を浮かべた。さあ、周公旦よ。これがお前の望んだ『正義』の結末だ。お前が独裁のために始めた物語だろう。誰も信じられぬ孤独な摂政の座で、せいぜい一人でそのケツを拭いてみせるがいい。たとえ我らを出し抜こうとした周の都が、このまま商の精鋭によって木っ端微塵に滅びようと、我が召国には知ったことではないのだから。私は冷酷に己の心を研ぎ澄まし、東方の空を赤々と染める大内戦の火柱を、ただ静かに見下ろしているのだった。




