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微子の憂鬱外伝、召奭伝  作者: 日和見


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周公旦

召奭伝 第14話 事は呆気なく運んだ。周公旦殿と結んだ密計の通り、最高軍師・姜子牙は兵も持たされぬまま、東方の敵地へと追放された。天下の盤面を裏から操っていたあの怪物が消えたのだ。これによって、太保たるこの私が新王朝の実権を握り、我が召国の未来を確固たるものにできる――そう確信したのも束の間、政治の現実は甘くはなかった。やはり周の宗族(姫姓)の壁は厚い。武王の逝去という国難を前に、四男の周公旦殿は瞬く間に周の生え抜きの家臣たちをまとめ上げて成り上がり、自らが「摂政」として全権を握ると宣言したのだ。当然、私は猛反発した。周王室による権力の独占など、姞姓の長として断じて容認できるものではない。だが、その私の前に、亡き姫発殿の正室であり、幼き新王の母である邑姜殿が姿を現したのだ。「太保殿……どうか、幼き我が子のため、周公旦を摂政に就かせることをお許しください。今の周には、王室の血を引く強い柱が必要なのです……」母親としての必死の哀願。しかも邑姜殿は、あの追放された姜子牙の娘でもある。その彼女に涙ながらに請われては、大政治家としての立場上、これ以上の拒絶は不可能であった。私は押し黙り、しぶしぶその就任を認めるしかなかった。就任当初の周公旦殿は、まだこちらを立てる度量を見せ、私への根回しを欠かさず、何とか落ち着きを取り戻して政権を運営していた。しかし、それも長くは続かなかった。「すべては幼き成王様のため、周の基盤を磐石にするためだ」その言葉を免罪符(決め台詞)にした瞬間から、旦殿の政治は急速に「独裁」へと傾斜していった。反対する古参の大臣を次々と罷免し、朝廷内に強引な身内の派閥を形成していく。周囲からどれほど非難されようと、「私は正しいことをしている」と頑なになっていくその姿は、かつて私たちが打倒した商の宮廷の自壊劇に、恐ろしいほど酷似し始めていた。周公旦は、決定的な現実が分かっていないのだ。かつて牧野の戦いで味方ごと矢を射かけたあの怪物――姜子牙を中央から追放したことで、現在の周王朝の軍事力が、どれほど致命的に失墜しているかという恐怖の事実を。(……最早、これまで、か)顔を合わせれば激しい口論になるほどギクシャクし始めた朝廷の空気の中で、私は冷徹な決断を下した。先代の姫昌殿や、亡き姫発殿と共に血を流して成し遂げた、商王朝の打倒。そして周王朝の建国。それらに懸けたこれまでの歳月や思い入れは、確かに惜しい。だが、沈みゆく泥舟に、我が召国の民まで道連れにさせるわけにはいかないのだ。私はいつもの懃懃な無表情のまま、朝議の席で周の家臣たち、そして周公旦殿に向けて静かに告げた。「此度、天下の諸侯たちを正しく指導し、新王朝の法をあまねく行き渡らせるため、私自ら諸国を巡察することといたしました。暫くの間、都(鎬京・豊京)を離れますが……摂政殿、宜しくお頼み申します」体裁の整った、完璧な建前の挨拶。引き止める言葉を背中に受けながら、私は一切の躊躇なく、召の全軍勢を引き連れて中央政界から完全に撤退した。周の真下(南側)に陣取り、周よりも広い勢力圏を持つ我が召国が、スッと都の横から姿を消して巨大な「軍事の空白」を作る。これこそが、独裁に溺れる周公旦への、最大の牽制であり仕返しであった。さあ、周公旦よ。軍事の天才たる姜子牙を追い出し、最大の盾であった我が召国をも失ったその貧弱な戦力で、お前の厳格な独裁のせいで関係が最悪にまで悪化した三人の兄弟と、牙を研ぐ武庚の相手を、せいぜい一人で務めてみせるがいい。たとえ我らを出し抜こうとした周が、このまま内乱で木っ端微塵に滅びようと、我が召国には知ったことではない。私は愛馬の綱を引き、懐かしい南西の本拠地へと帰還しながら、東方の空に立ち込め始めた昏い戦雲を、冷ややかな目で見下ろすのだった。

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