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微子の憂鬱外伝、召奭伝  作者: 日和見


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暗躍

召奭伝 第13話論功行賞の協議を終えた私は、即座に動いた。新王・姫発殿と姜子牙が仕掛けた「北方への放逐」という巧妙な罠を、我が召国の生存戦略へと転換するためだ。周の都・豊京の真下(南側)に我が召国の本拠地ががっしりと構えている。彼らにとって、喉元に巨大な刃を突きつけられているも同然の我が国は、新王朝における最大の潜在的脅威なのだ。だからこそ彼らは、文句の言えぬ北方の大領を押し付け、私を「北の蛮族に対する盾」として中央から放逐し、豊京周辺の我が本拠地を無力化しようとしたのである。だが、彼らの思い通りになると思うなよ。私は新たに封じられた北方の新領地へ、長男の克だけでなく、我が召国の家臣の次男や三男といった「家督を継がぬ若者たち」を募り、召国軍の半数を割いて派遣することに決めた。できるだけ若く、未来ある者たちを中心に組織した先遣隊だ。住み慣れた地から遠く離れ、過酷な北の地へ向かう若き同胞たちの背中を見送りながら、私は胸の内で深く頭を下げた。(……すまぬ。遠く離れた未知の地で苦労をかけるが、我が召の未来のため、どうか許してくれ)彼らに北方の経営を託し――私自身は、豊京の真下にある我が本拠地をガチガチに固めたまま、この新王朝の中央に堂々と居座り続けた。新王朝が本格的に始動すると、亡き姫昌殿の両翼を担った二人の巨頭が、そのまま新たなる王の両脇を固めることとなった。軍権を担う姜子牙が「大師」に就き、そして裁判権や地方の行政を一手に担うこの私が、最高官職である「太保」の要職に就いたのだ。それからは、新国家の基盤を固めるための、目が回るような激務の日々が始まった。西や北の荒野に割拠する姜族、不穏な東の旧商の地や、さらにその南方の動向。天下の版図を睨みながら政務をこなす日々は、文字通り息つく暇もなかった。だが、建国の激務が祟ったのか、初代王・姫発殿が病に倒れ、そのまま呆気なく崩御されたのだ。周王朝の建国から、僅かに二年のことだった。のちに「武王」と呼ばれる覇王のあまりにも早すぎる退場に、朝廷は激しく揺れ動いた。悲しみに暮れ、哀悼のために自邸の屋敷に籠っていた私の元に、ある夜、意外な来客があった。武王の弟であり、国政の重鎮である周公旦殿だ。「人払いを。……太保殿と、二人だけで話したい」旦殿は張り詰めた面持ちでそう告げると、室内の密偵すら全て遠ざけた密室で、静かにその胸の内を打ち明けてきた。二代目となる新王は、未だあまりにも幼い。混迷する朝廷を支えるため、自らが「摂政」の座に就き、全権を握って国を運営する覚悟があること。そして、あの論功行賞の天幕で、兄・姫発と姜子牙が独断で進めた冷徹な地方封建に強い隔意を抱いていた旦殿は、新王朝における最大の懸念材料を、今この瞬間に中央から排除せねばならぬと語った。「……最高軍師・姜子牙を、東方の最前線である『斉』の地へ封じ、都から追放する。太保殿、力を貸していただきたい」旦殿の口から飛び出したその冷酷極まる人事案を耳にした瞬間、私の脳細胞は回転を始めた。旦殿の策略は、姜子牙に対する都の古参家臣たちの不信と嫉妬を煽るというもの。さらに、東方の敵地へ赴かせるにもかかわらず、周の兵力を一切与えず、姜族の兵を動かすことすら禁じるという、体裁を繕った「死刑宣告」に等しい人事であった。乗らない手はなかった。かつてあの天幕で、我が召国を中央から放逐しようとした姫発殿と姜子牙。あの論功行賞で舐めさせられた泥の『借りを返す』ためにも、今こそ怪物の首根っこを掴んで引きずり下ろす時だ。何より、牧野の戦いで味方ごと矢を射かけたあの男をこのまま中央にのさばらせておけば、いつ我が召国が牙を剥かれるか分かったものではない。「分かりました、旦殿。その考え、我が召国も全面的に同意いたしましょう。朝廷内での根回し、太保たる私も裏から手を貸します」私は旦殿の目を真っ直ぐに見据え、固い協力を約束した。だが――旦殿が満足げに笑みを浮かべ、闇へと去っていったその直後、私は冷ややかな嘲笑を自邸の密室に響かせた。(……勘違いするなよ、周公旦。私が手を貸すのは、あくまであの怪物をハメ落とすという一点のみだ)姜子牙が消えれば、中央の権力図は再び真っ白に戻る。幼い新王を盾にして、自らが「摂政」として全権を独占し、新たな覇者になろうという周公旦の野心。それをこの私が、黙って指をくわえて見ているとでも思ったか。あの怪物を中央から排除する。だが、その後に中原の主導権を握るのは、周公旦、貴様ではない。この太保・召公奭だ。共通の敵を追い落とした瞬間から、残された二人の巨頭による、最も醜く冷徹な政治の「主導権争い」が始まる。私は夜闇の向こうの王宮を睨み据え、次なる戦いに向けて、静かに牙を研ぎ澄ますのだった。

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