↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
微子の憂鬱外伝、召奭伝  作者: 日和見


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/18

戦後処理

召奭伝 第11話 牧野の激戦の末、私たちは結局、戦場から帝辛を取り逃してしまった。あの凄まじい撤退劇を見せつけた商の親衛隊は、王都・朝歌へと逃げ込み、帝辛は燃え盛る宮殿の中で自ら火を放って自害を遂げた。こうして、六百年続いた偉大なる超大国は、静かにその幕を閉じたのである。朝歌の城内へと入った我々の前に、整然とした佇まいを崩さぬ商の親衛隊五千、そして帝辛の息子である武庚殿が姿を現し、厳かに投降を申し出てきた。「……丁重に、周の新王・姫発殿へ取り次ごう」私は彼らの身柄を確保しつつ、内心で冷ややかな視線を武庚殿へと向けていた。国が敗れ、父親が自害したというのに、よくもまあこれほど平然としていられるものだ。その底の知れぬ落ち着きに、私は不気味なほどの違和感を覚えていた。落城後の混乱の中、姜子牙は即座に動き、商の宮廷に幽閉されていた最高賢者・箕子殿の救出へと向かった。一方の私は、勝利に沸く周軍の兵たちが、朝歌の街で略奪や暴行を働かぬよう、厳しい目を光らせて軍規の取り締まりに奔走していた。新王朝の誕生に際し、民の信頼を失うような真似は断じて許されぬからだ。そんな折、前線からひとつの報告がもたらされた。「何、あの悪来が投降しているだと?」牧野の戦いであれほど凄まじい奮戦を見せ、私が敵ながら深く称賛した商の猛将・悪来。彼が生き残り、微子殿の元へ赴いたというのだ。(……悪来殿を、どうにかして我が召国に招聘できまいか)私の胸中に、一人の軍事家としての欲が湧き上がる。あの比類なき武と統率力があれば、我が召国の軍事力はさらに盤石なものとなる。微子殿を通じて交渉すれば、あるいは……。私はそう策略を巡らせ、悪来をスカウトするための準備を急がせた。――だが、翌朝。私の淡い期待は、最悪の凶報によって木っ端微塵に打ち砕かれることになる。「……微子殿の陣営にて、悪女・妲己が捕らえられ、兵士たちに凌辱された末に殺害された。……悪来もまた、それに抵抗して討ち取られた、だと……?」聞き届けた瞬間、私の胸の奥から、激しい不快感がじわじわと滲み出てきた。如何に贅沢三昧を尽くし、悪逆によって国を傾けた元凶の毒婦であろうとも、凌辱の末に惨殺するなど、一国の王族が許可して良い沙汰ではない。あまりにも野蛮であり、勝者としての品格を汚す愚行だ。「……ふぅ。いや、国を滅ぼされた微子殿の、抑えきれぬ怒りと憎悪の深さゆえ、か……」私はこみ上げる嫌悪感を、必死に頭を振って抑え込んだ。実の弟を狂わせ、一族を崩壊させた毒婦への、賢人ならではの激しい義憤だったのだろうと、無理やり自分に納得させる。まさか、微子殿が結果として私が欲した稀代の猛将までをも無駄死にさせたなど、この時の私は亡国の王兄に責める気持ちは湧かなかった「……終わったことを悔やんでも始まらん。気持ちを切り替えねばな」私は冷たいお茶を啜り、きつく目元を揉みほぐした。悪来という至宝を失ったのは痛恨極まりないが、天下の時計は止まらない。これからは微子殿を除く、反商連合の最高幹部六人(姫発・鮮・旦・申豹・姜子牙・私)が集い、新時代の統治を決めるための過酷な「論功行賞」を取り決めねばならないのだ。商が滅びた今、これからは味方同士の、最も冷徹な政治の探り合いが始まる。私は表情をいつもの冷徹な君主のそれへと戻し、次なる謀略の場へと足を進めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。