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3-13「残る、と言った」

 水曜日。


 残り二日。


 登校しながら、今日のことを考えていた。


 答えを、言葉にする日だ。


 心の中では決まっている。


 でも——言葉にすることで、それは確定する。


 取り消せなくなる。


 それが——怖いか?


 俺は、自分に聞いた。


 怖くない、とは言えない。


 でも——前の#001から受け取ったバトンを、ちゃんと持っている感じがした。


 怖くても、やるべきことがある。


 そういう日が、来た。


――


 陽菜が、校門のところで待っていた。


「おはよ!」


「おはよう」


「今日、言うんでしょ」


「……どうしてわかる」


「顔を見ればわかる! 昨日の『決まった顔』が、今日はもっとはっきりしてる!」


 俺は、陽菜の観察眼に苦笑した。


「……今日、言う」


「やった!!」


「まだ言っていない」


「でも言うってわかったからやった!!」


 陽菜は、跳ねるような足取りで校舎に向かった。


 俺は、その背中を見ながら——少し、力が抜けた。


 緊張が、陽菜の明るさで少し溶けた。


――


 昼休み。


 四人で、旧校舎の非常階段に集まった。


 いつもの踊り場。


 夕日じゃなく、昼の光が差し込んでいた。


 俺は、三人を見た。


 ちひろが、少し緊張した顔をしていた。


 一ノ瀬が、静かに待っていた。


 陽菜が、そわそわしていた。


「……言う」


 俺は、言った。


「残る」


 三人が、静かになった。


 一秒。


 二秒。


「……やったーーー!!!!」


 陽菜が叫んだ。


 声が、廊下に響いた。


「声が大きい」


「だって!!! やったじゃん!!! 残るって言った!!!」


「言った」


「やっと言った!!!」


 陽菜の目が、赤くなっていた。


 泣きながら叫んでいた。


「泣いているのか」


「泣いてない!! 目から汗が出てるだけ!!」


「……そういう言い方は、一ノ瀬にしてくれ」


「一ノ瀬くん、聞いた!? 剛さん残るって言った!!」


「……聞いた」


 一ノ瀬が、静かに言った。


「……よかった」


「一ノ瀬くんも泣いてる!?」


「泣いていない」


「目が赤い!」


「……気のせいだ」


 ちひろが、俺を見た。


 目が、潤んでいた。


「……本当に?」


「本当だ」


「後悔しない?」


「後悔はしない。今は、そう思っている」


「今は、か」


「先のことは、わからない。でも——今この瞬間の答えは、残ることだ」


 ちひろは、しばらく俺を見ていた。


 それから——微笑んだ。


「……ありがとう」


「礼はいい。お前に呼ばれたから来た。前の#001が繋いでくれた。俺の番が来た。それだけだ」


「それだけじゃない」


「……そうかもしれない」


 陽菜が、俺の腕を掴んだ。


「剛さん、よかったよ! 本当によかった!」


「……ありがとう」


「どういたしまして!!」


 一ノ瀬が、踊り場の窓の外を見た。


「……では、次のステップを考える必要がある」


「そうだな」


「答えが出た。三人が同じ方向を向いた。第三の出口が開く条件が、整いつつあるかもしれない」


「どうやって確認する」


「……記録者に、もう一度接触してみる」


「今日の放課後か」


「ああ。残り二日。今日が最後のチャンスかもしれない」


「わかった」


 俺は、三人を見た。


「さっきの答えは——ここで言えてよかった。四人の前で言えて、よかった」


「なんで?」


「一人で決めたことを、みんなに聞いてもらえた。それが——確認になった気がした」


 陽菜が「わかる! 言葉にすると確かになるんだよね!」と言った。


「そういうことだ」


「剛さん、最近私の言ってること理解するのうまくなったよね」


「……慣れてきた」


「何に?」


「お前の論理に」


「それ褒めてる?」


「……褒めている」


「やった!!」


――


 放課後。


 旧校舎の非常階段で、俺はコードを起動した。


 夢のルートと同じ周波数帯。


 記録者へのアクセスを試みる。


 しばらくして——テキストが届いた。


```

……また来た。

```


「条件の確認をしたい。#001が答えを出した。三人が同じ方向を向いている。第三の出口の条件は整ったか」


 長い沈黙があった。


```

……確認する。

```


 さらに長い沈黙。


```

条件は、整いつつある。

ただし——完全ではない。

```


「何が足りない」


```

#001の答えが、まだ「言葉」だけだ。

「行動」が必要だ。

```


「行動?」


```

答えを言葉にした。

次は——その答えを、行動で示せ。

```


「どういう行動だ」


```

それは、自分で見つけるものだ。

記録者には言えない。

ただ——残り二日の中で、見つかるはずだ。

```


 テキストが途切れた。


 俺は、スマホを握りしめた。


「……言葉じゃなく、行動で示す」


 一ノ瀬が、静かに言った。


「お前が残ると決めた。その決断を、行動で証明する必要がある」


「どういう行動だ」


「……記録者は言えないと言った。でも——残ると決めた人間がすべきことは、何だと思う?」


 俺は、考えた。


 残ると決めた人間がすべきこと。


 この世界で生きていくと決めた人間が——最初にすべきこと。


「……わからない。でも」


「でも?」


「……何かが、思い当たる気がする」


「なんだ」


「今夜、考える。明日——やる」


 一ノ瀬は頷いた。


「残り一日になる。それで間に合うか」


「……間に合わせる」


 陽菜が、拳を握った。


「やろう! 剛さんならできる!」


「根拠はあるのか」


「根拠のない確信が一番強いんでしょ!」


 俺は、また小さく笑った。


 ちひろが、俺を見た。


「……何をするか、なんとなくわかる気がする」


「なんだ」


「剛さんが、この世界で最初にすべきこと」


「何だ」


「……私にも言えない。でも——きっと、あなたならわかる」


 俺は、ちひろを見た。


 ちひろの目が、静かだった。


 答えを知っている目だった。


「……明日、わかるかもしれない」


「うん」


「残り一日だ」


「うん。でも——大丈夫だと思う」


「なぜ」


「だって——もう、一番難しいことは終わった。答えを出すことが、一番難しかったから」


 俺は、その言葉を受け取った。


 一番難しいことは、終わった。


 答えを出すことが。


「……そうかもしれない」


「うん。きっとそう」


 踊り場に、昼の光がまだ残っていた。


 四人で、しばらくそこにいた。


 残り一日。


 最後の行動が、まだ見えていない。


 でも——答えは、出た。


 それで、今日は十分だった。


お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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