↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/71

3-6「前の世界の記憶」

金曜日。


 残り五日。


 朝、俺は登校しながら昨日の議論を整理していた。


 世界のリセット。


 前の世界の陽菜。前の世界の#001。


 それが本当なら——この世界は、一度目ではない。


 ちひろは、一度世界を作り、それが終わり、また作った。


 なぜ、二度作ったのか。


 一度目で何が起きたのか。


 そして——前の#001は、誰だったのか。


 答えが見えない。


 でも——記録者なら、知っているかもしれない。


――


 放課後、一ノ瀬が言った。


「記録者にアクセスしてみたい」


「南公園の出口は閉じた」


「別の方法で試みる。深層との繋がりが夢を通じて残っているなら——記録者へのアクセスも、別のルートがあるかもしれない」


「どうやって」


「コードだ。送信コードを改良して、夢の中で使っているのと同じ周波数帯に合わせる。起きている状態で、夢のルートにアクセスする」


「できるのか」


「わからない。でも、試す価値はある」


 四人で、旧校舎の非常階段に集まった。


 一ノ瀬がコードを起動した。


 俺も並行して解析コードを走らせた。


 しばらく——何も起きなかった。


 一ノ瀬がパラメータを調整した。


 また、しばらく。


 そのとき——スマホに、テキストが届いた。


```

……聞こえる。

```


 記録者だ。


「記録者、聞こえるか」


```

聞こえる。珍しい方法で接触してきた。

```


「南公園の出口が閉じた。別のルートを試した」


```

記録した。

```


「聞きたいことがある。前の世界の記録は、存在するか」


 長い間があった。


```

……存在する。

```


「開示できるか」


```

できない。

```


「なぜだ」


```

前の世界の記録を開示することは、この世界の在り方に影響を与える。

それは干渉に当たる。

```


「前の世界があったことだけは確認できるか」


```

……それは、記録として存在するという事実を述べることだ。

干渉ではない。

前の世界は、存在した。

```


「前の#001は、誰だったか」


```

開示できない。

```


「前の世界のちひろは、今のちひろと同一か」


```

……同一ではない。しかし、繋がっている。

```


「前の陽菜は」


```

存在した。#002として。

```


「前の世界は、なぜ終わったか」


 また、長い間があった。


```

……それも、開示できない。

ただ——一つだけ言える。

前の世界は、「届かなかった」から終わった。

```


「届かなかった」


```

そうだ。今の世界は、届けるために作られた。

前の世界では、届かなかった。

```


「何が届かなかったのか」


```

それが、お前たちが今探している答えだ。

```


 テキストが、途切れた。


 俺たちは、しばらく黙っていた。


「……前の世界は、『届かなかった』から終わった」


 一ノ瀬が、静かに言った。


「今の世界は、届けるために作られた」


「そして今の世界では——届いた」


「剛さんが来た」


 ちひろが、俺を見た。


「……届いた」


「ああ」


「じゃあ——今の世界は、終わらなくていいんじゃないの?」


 陽菜が言った。


「もう届いたんだから。終わる必要ないじゃん」


 俺は、その言葉を受け取った。


「でも——世界の崩壊は、止まっていない」


「なんで?」


「届いたことで、役割は完了した。でも——完了したから終わりに向かっている。それが、この世界の設計だ」


「……おかしくない? 届いたのに終わるなんて」


「お前の感覚は正しい。でも——システムとしては、そういう設計になっている」


「それを変えることはできないの?」


 俺は、一ノ瀬を見た。


「……第三の出口が関係するかもしれない」


 一ノ瀬が言った。


「前の世界は『届かなかった』から終わった。今の世界は『届いた』。それなら——第三の出口は、届いた先にある何かかもしれない」


「届いた先、とは」


「……前の世界では見つからなかった何か。今の世界で初めて見つかる何か」


 ちひろが、静かに言った。


「『誰かのために』の答えが——届いた先にある」


「そうだ」


「そしてそれが——第三の出口の条件に繋がる」


「ああ」


 ちひろは、俺を見た。


「……剛さん、わかってきた気がする?」


「少しずつ」


「私も。でも——まだ全部は見えない」


「残り五日ある」


「うん」


――


 その夜、ちひろからLINEが来た。


【ちひろ:前の私ってどんな子だったんだろう。今の私と同じだったのかな】


 俺は、少し考えてから返した。


【俺:わからない。でも——前の世界でも陽菜と一緒にいたなら、今のお前と似ていたんじゃないか】


【ちひろ:そっか。それならよかった。前の私もちゃんと陽菜と仲良くできてたなら】


【俺:きっとそうだ】


【ちひろ:……ありがとう。なんか、安心した】


【ちひろ:おやすみ、剛さん。今夜も夢を見よう】


【俺:ああ。おやすみ】


 スマホを置いた。


 窓の外を見た。


 夜空。星。


 前の世界では、届かなかった。


 今の世界では、届いた。


 では——今の世界で、届いた先に何がある?


 その答えが、第三の出口を開く。


 俺は目を閉じた。


 今夜の夢で——もう少し、見えるかもしれない。

お読みいただきありがとうございます。

みなさん台風大丈夫でしたか?

僕は台風による物理的な何かがあったわけではないのですが、気圧の影響で頭痛がエグい。


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。