3-6「前の世界の記憶」
金曜日。
残り五日。
朝、俺は登校しながら昨日の議論を整理していた。
世界のリセット。
前の世界の陽菜。前の世界の#001。
それが本当なら——この世界は、一度目ではない。
ちひろは、一度世界を作り、それが終わり、また作った。
なぜ、二度作ったのか。
一度目で何が起きたのか。
そして——前の#001は、誰だったのか。
答えが見えない。
でも——記録者なら、知っているかもしれない。
――
放課後、一ノ瀬が言った。
「記録者にアクセスしてみたい」
「南公園の出口は閉じた」
「別の方法で試みる。深層との繋がりが夢を通じて残っているなら——記録者へのアクセスも、別のルートがあるかもしれない」
「どうやって」
「コードだ。送信コードを改良して、夢の中で使っているのと同じ周波数帯に合わせる。起きている状態で、夢のルートにアクセスする」
「できるのか」
「わからない。でも、試す価値はある」
四人で、旧校舎の非常階段に集まった。
一ノ瀬がコードを起動した。
俺も並行して解析コードを走らせた。
しばらく——何も起きなかった。
一ノ瀬がパラメータを調整した。
また、しばらく。
そのとき——スマホに、テキストが届いた。
```
……聞こえる。
```
記録者だ。
「記録者、聞こえるか」
```
聞こえる。珍しい方法で接触してきた。
```
「南公園の出口が閉じた。別のルートを試した」
```
記録した。
```
「聞きたいことがある。前の世界の記録は、存在するか」
長い間があった。
```
……存在する。
```
「開示できるか」
```
できない。
```
「なぜだ」
```
前の世界の記録を開示することは、この世界の在り方に影響を与える。
それは干渉に当たる。
```
「前の世界があったことだけは確認できるか」
```
……それは、記録として存在するという事実を述べることだ。
干渉ではない。
前の世界は、存在した。
```
「前の#001は、誰だったか」
```
開示できない。
```
「前の世界のちひろは、今のちひろと同一か」
```
……同一ではない。しかし、繋がっている。
```
「前の陽菜は」
```
存在した。#002として。
```
「前の世界は、なぜ終わったか」
また、長い間があった。
```
……それも、開示できない。
ただ——一つだけ言える。
前の世界は、「届かなかった」から終わった。
```
「届かなかった」
```
そうだ。今の世界は、届けるために作られた。
前の世界では、届かなかった。
```
「何が届かなかったのか」
```
それが、お前たちが今探している答えだ。
```
テキストが、途切れた。
俺たちは、しばらく黙っていた。
「……前の世界は、『届かなかった』から終わった」
一ノ瀬が、静かに言った。
「今の世界は、届けるために作られた」
「そして今の世界では——届いた」
「剛さんが来た」
ちひろが、俺を見た。
「……届いた」
「ああ」
「じゃあ——今の世界は、終わらなくていいんじゃないの?」
陽菜が言った。
「もう届いたんだから。終わる必要ないじゃん」
俺は、その言葉を受け取った。
「でも——世界の崩壊は、止まっていない」
「なんで?」
「届いたことで、役割は完了した。でも——完了したから終わりに向かっている。それが、この世界の設計だ」
「……おかしくない? 届いたのに終わるなんて」
「お前の感覚は正しい。でも——システムとしては、そういう設計になっている」
「それを変えることはできないの?」
俺は、一ノ瀬を見た。
「……第三の出口が関係するかもしれない」
一ノ瀬が言った。
「前の世界は『届かなかった』から終わった。今の世界は『届いた』。それなら——第三の出口は、届いた先にある何かかもしれない」
「届いた先、とは」
「……前の世界では見つからなかった何か。今の世界で初めて見つかる何か」
ちひろが、静かに言った。
「『誰かのために』の答えが——届いた先にある」
「そうだ」
「そしてそれが——第三の出口の条件に繋がる」
「ああ」
ちひろは、俺を見た。
「……剛さん、わかってきた気がする?」
「少しずつ」
「私も。でも——まだ全部は見えない」
「残り五日ある」
「うん」
――
その夜、ちひろからLINEが来た。
【ちひろ:前の私ってどんな子だったんだろう。今の私と同じだったのかな】
俺は、少し考えてから返した。
【俺:わからない。でも——前の世界でも陽菜と一緒にいたなら、今のお前と似ていたんじゃないか】
【ちひろ:そっか。それならよかった。前の私もちゃんと陽菜と仲良くできてたなら】
【俺:きっとそうだ】
【ちひろ:……ありがとう。なんか、安心した】
【ちひろ:おやすみ、剛さん。今夜も夢を見よう】
【俺:ああ。おやすみ】
スマホを置いた。
窓の外を見た。
夜空。星。
前の世界では、届かなかった。
今の世界では、届いた。
では——今の世界で、届いた先に何がある?
その答えが、第三の出口を開く。
俺は目を閉じた。
今夜の夢で——もう少し、見えるかもしれない。
お読みいただきありがとうございます。
みなさん台風大丈夫でしたか?
僕は台風による物理的な何かがあったわけではないのですが、気圧の影響で頭痛がエグい。
次回もお楽しみに。




