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3-5「陽菜は、二度目だ」

木曜日の朝。


 目が覚めた瞬間、夢が残っていた。


 今回は——前回より、ずっとはっきりしていた。


 光の場所。653のパターン。


 そして声。


 今回の声は、前より明瞭だった。


 言葉が、ちゃんと聞こえた。


 でも——その言葉の意味が、起きた瞬間から俺を困惑させていた。


「陽菜は、二度目だ」


 それだけだった。


 でも——その言葉が、ずっと耳の奥に残っていた。


 俺はスマホを取り出した。


【俺:今朝の夢、「陽菜は二度目だ」という言葉が聞こえた。他の三人はどうだった?】


 返信が来た。


【ちひろ:私も同じ言葉を聞いた。「陽菜は二度目だ」って】


【一ノ瀬:同じだ】


 しばらく間があってから、陽菜から来た。


【陽菜:私も聞こえた……でも意味がわからなくて怖い】


――


 登校途中、陽菜が俺の隣を歩いた。


 いつもより、少し静かだった。


「陽菜」


「……うん」


「怖いか」


「怖い。二度目って何が二度目なの?」


「まだわからない」


「でも、私に関係することだよね」


「そうだ」


「……なんで私が二度目なの。何が一度目だったの」


俺は、少し考えてから言った。


「PlayerIDのことかもしれない」


「PlayerID?」


「お前は#002だ。#001より後の番号だ。でも——もし『二度目』という言葉が正確なら、お前の前に、別の誰かがいた可能性がある」


「別の誰かって……」


「#002が、一度使われて、また使われた。お前が二人目の#002だという意味かもしれない」


 陽菜は、しばらく黙った。


「……最初の#002は、誰なの?」


「わからない。でも——それが『一度目』だとしたら、お前が『二度目』という言葉の意味が通る」


「私の前に、同じ番号を持つ人がいたってこと?」


「可能性がある」


「その人は……今どこに?」


「……わからない」


 陽菜は、また黙った。


 俺は、陽菜の横顔を見た。


 いつもの明るさが、今日は少し翳っている。


「陽菜」


「なに」


「怖いのはわかる。でも——お前がここにいることは、変わらない」


「……うん」


「二度目だとしても、一度目だとしても——今のお前がここにいることは事実だ」


「一ノ瀬くんみたいなこと言う」


「……そうか」


「でも——ありがとう」


――


 昼休み、図書室。


 四人で議論した。


「『陽菜は二度目だ』という言葉の意味を考える」


 一ノ瀬が、ノートを開いた。


「可能性は三つある」


「聞かせてくれ」


「一つ目——陽菜が、過去に別のPlayerとしてこの世界に関わっていた。記憶は消えているが、二度目の参加者として戻ってきた」


「二つ目は」


「二つ目——#002というIDが、陽菜より前に別の誰かに付与されていた。その誰かが何らかの理由でいなくなり、陽菜が新たに#002として参加した」


「三つ目は」


「三つ目——この世界自体が、今の世界の前に一度存在していた。前の世界での陽菜の記憶が、今の陽菜に引き継がれている」


 静寂が落ちた。


「三つ目は——世界がリセットされていたということか」


「そう解釈できる」


 ちひろが、静かに言った。


「……私、少しだけ心当たりがある」


「なんだ」


「深層にいたとき——世界の記録を、ぼんやりと感じることがあった。記録者が管理している全ての記録を、断片的に感じた」


「断片的に」


「うん。その中に——今の世界の前の記録、みたいなものがあった気がする。でも、はっきりとは見えなかった」


「今の世界の前の記録」


「……世界が、一度終わって、また始まった可能性がある。記録者は『記録は続く』と言った。それは——前の世界の記録も、ちゃんと残っている、という意味だったのかもしれない」


 一ノ瀬が、ノートに書いた。


「……だとすれば、陽菜は前の世界でも、この世界に関わっていた」


「そして、記憶だけが引き継がれないまま、二度目として来た」


「記憶が引き継がれなかった理由は」


「……マスタープロセスが消したのかもしれない。前の世界の記憶が残っていれば、最初からシステムの構造に気づいてしまうから」


 陽菜が、ゆっくり言った。


「……じゃあ私、前の世界でも、ちひろのそばにいたの?」


「可能性がある」


「ちひろも、前の世界にいたの?」


 ちひろが、陽菜を見た。


「……私にはわからない。でも——陽菜が二度目なら、前の世界にも陽菜がいた。そして私が世界を作ったなら——私も、前の世界にいたはずだ」


「じゃあ、私たち——前の世界でも一緒だったの?」


ちひろは、少し間を置いた。


「……そうかもしれない」


 陽菜は、しばらく黙っていた。


 それから——目が、少し赤くなった。


「……じゃあ、私がちひろをずっと探してたのは——前の世界でも一緒だったから、なのかな」


「……そう思う」


「記憶がなくても、感覚が残ってたから」


「うん」


 陽菜が、目を拭った。


「……泣くの変だよね。よかったことじゃん。前の世界でも一緒だったんだから」


「変じゃない」


俺は言った。


「お前は、ずっと知らないまま探し続けてた。それがわかったんだ。泣いていい」


「……うん」


 陽菜は、少し泣いた。


 ちひろが、陽菜の手を握った。


 一ノ瀬が、黙って横にいた。


 しばらく、誰も何も言わなかった。


――


 その静寂の後、俺は一つのことに気づいた。


「……一ノ瀬」


「なんだ」


「もし世界が一度終わって、また始まったなら——#001も、二度目の可能性がある」


 一ノ瀬が、俺を見た。


「……お前が、二度目の#001だという意味か」


「あるいは——最初の#001は、別の誰かだった可能性がある」


「その誰かが——この世界の最初の訪問者だった」


「そして、その記録が——夢を通じて俺たちに届いているのかもしれない」


 一ノ瀬は、ノートに書いた。


「……可能性として、記録しておく」


「ああ。でも——今は、陽菜のことを優先する」


「そうだな」


 陽菜が、目を拭いながら言った。


「……私、大丈夫。びっくりしたけど——前の世界でもちひろと一緒だったなら、それはいいことだから」


「うん」


「ちひろ、前の世界でもありがとうね。覚えてないけど」


 ちひろが、少し笑った。


「私も覚えてないけど——たぶん、よろしくと言っといてあげる、前の私に」


「……なんか変な感じだけど、ありがとう」


 四人で、少し笑った。


 残り五日。


 謎が、一層深くなった。


 でも——四人でいる、この時間が、確かにあった。


 前の世界でも、今の世界でも。


 ずっと、続いていた。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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