3-2「出口は、場所じゃないかもしれない」
七日以内。
その言葉が、頭の中に刻まれていた。
月曜日の朝。
俺は登校しながら、第三の出口について考えていた。
第一の出口——南公園の廃工場跡地。閉じた。
第二の出口——データが壊れていて位置不明。マスタープロセスが閉じた可能性がある。
第三の出口——「核の近傍にある」と記録者は言った。ちひろを連れ出すために使った出口だ。でも——それは閉じた。一方通行だったから。
待て。
俺は、足を止めた。
第三の出口は、「核の近傍にある」と記録者は言った。
でも——ちひろを連れ出すために使った出口が、第三の出口だったのか?
もしかしたら——俺は思い込んでいたのかもしれない。
「核の近傍の出口」と「第三の出口」が、同じものだと。
別の可能性がある。
「……一ノ瀬」
俺はスマホを取り出した。
【俺:第三の出口について、一つ確認したい。昼休みに話せるか】
すぐに返信が来た。
【一ノ瀬:わかった】
――
昼休み、図書室。
四人が揃った。
「一つ、確認したい」
俺は言った。
「ちひろを連れ出すために使った出口——あれが第三の出口だと、俺たちは思い込んでいた。でも——本当にそうか?」
一ノ瀬が、少し考えた。
「……記録者は『核の近傍に最後の出口がある』と言った。ちひろを連れ出した出口は、核の近傍にあった。だから同一と判断した」
「でも——記録者が言った『三つの出口』と、ちひろを連れ出した出口が、必ずしも同一とは限らない」
「……その可能性は、確かに排除していなかった」
ちひろが、俺と一ノ瀬の会話を聞いていた。
「……一つ、言っていいか」
「なんだ」
「深層にいたとき——第三の出口について、感じたことがある」
全員が、ちひろを見た。
「どういうことだ」
「あそこにいると、いろんなことが……なんとなくわかる感じがあった。この世界の構造が、ぼんやりと見える感じ。それで——第三の出口について、思ったことがあった」
「何を思った」
「第三の出口は——場所じゃないかもしれない、って」
静寂が落ちた。
「場所じゃない、とはどういうことだ」
「第一の出口は、南公園にあった。第二の出口は、どこかにあった。どっちも『場所』だった。でも——第三の出口は、もしかしたら場所じゃなくて、『状態』なんじゃないかって」
「状態?」
「うん。何かが揃ったとき、初めて現れる出口。揃っていない状態では、存在しない出口」
俺は、その言葉を咀嚼した。
「何が揃うんだ」
「……わからない。でも——なんとなく、三つ、っていう数字が浮かんだ」
一ノ瀬が、ゆっくり言った。
「……PlayerIDか」
「え?」
「#000・#001・#002。三つのPlayerIDが揃った状態——それが第三の出口の条件かもしれない」
陽菜が、顔を上げた。
「つまり——私たちが揃えば、出口になるってこと?」
一ノ瀬が、少し考えてから言った。
「……そういう解釈もできる」
「じゃあ、今すでに出口があるじゃん! 四人揃ってるし!」
「揃っているだけでは足りないかもしれない。何か別の条件が必要な可能性がある」
「どんな条件?」
「……わからない」
陽菜が「むずかしいな」と言いながら、グミを食べた。
俺は、ちひろを見た。
「ちひろ、もう少し詳しく教えてくれ。第三の出口が『状態』だという感覚——どんな感じだった」
「うーん」
ちひろは考えた。
「なんか——三人が同じ方向を向いているとき、って感じがした。場所じゃなくて、向いている方向、みたいな」
「方向?」
「うん。バラバラな方向を向いていると、出口は現れない。でも——同じ何かに向かっているとき、出口が生まれる。そういう感じ」
俺は、その言葉を受け取った。
三人が同じ方向を向いているとき。
それは——今も、そうなのではないか。
「ちひろ」
「なに」
「今——俺たちは、同じ方向を向いているか」
ちひろは、少し考えた。
「……向いてると思う。でも、何に向かっているかが、まだはっきりしていない気がする」
「何に向かえばいい」
「……わからない。でも、見つけられると思う」
「なぜ」
「だって——ここまで来られたじゃん。全部、見つけてきた」
陽菜が「そうだよ!」と言った。
「振り子のカクつきも、653も、記録者も、ちひろの声も、全部見つけてきた。第三の出口だって見つけられる」
一ノ瀬が、静かに言った。
「……見つけられると思う」
「一ノ瀬くん、今日も素直!」
「……慣れてきた」
「何に?」
「……素直に言うことに」
陽菜が「成長だ!!」と言った。
ちひろが笑った。
俺も、小さく笑った。
――
放課後、俺は一ノ瀬と二人で話した。
「第三の出口が『状態』だとすれば——何を条件にすれば現れるか、考える必要がある」
「ちひろの言葉が手がかりだ。『三人が同じ方向を向いているとき』。『何かに向かっているとき』」
「それを、どうやって現実の行動に落とし込むか」
「……一つ、思うことがある」
「なんだ」
「この世界の始まりを振り返ると——ちひろが世界を作った理由が、まだ完全にはわかっていない。ちひろは『誰かのためにちゃんと生きられる場所を作りたかった』と言った。でも、誰のためかはわからないと言っていた」
「ああ」
「第三の出口の条件が『同じ方向を向くこと』なら——その方向が、ちひろが最初に向いていた方向と一致したとき、出口が開くのかもしれない」
「ちひろが最初に向いていた方向——それが何かを知る必要がある」
「そうだ。そしてそれは——ちひろ自身が、まだわかっていない」
俺は、その言葉を聞いて、一つのことを思った。
ちひろが「誰かのためにちゃんと生きられる場所を作りたかった」と言ったとき——「その誰かが誰なのかも、まだわかっていない」と続けた。
でも——「あなたが来てくれたから、少しわかってきた気がする」と言った。
ちひろが向いていた方向は——俺に関係している。
そして俺が向いている方向は——元の世界か、この世界か。
その問いが、まだ解けていない。
「……この問いが解けたとき、出口が開くのかもしれない」
俺は、窓の外を見た。
空は、今日は白くなっていない。
でも——いつまた白くなるか、わからない。
七日以内。
答えを、見つけなければならない。
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