表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第1章トスカナ村の村人A
8/44

第8話 新たな冒険へ


「もう行ってしまわれるのですか? まだ少しゆるりとご滞在なさってはいかがでしょう」


 村長の申し出をしかし、ゲイルは首を振って断る。

 気持ちは嬉しいが、魔神の出現は最優先の報告事項なのだ。すぐに協会へ知らせなくてはならない。

 

 事実をすこしぼかして伝えると、老人はわずかに肩を落とした。

 見た目通りの好々爺。いかにも人の好さそうな村長の態度に、仲間たちもみな苦笑を漏らす。

 

「また立ち寄らせてください。今度は依頼ではなく、療養という形でこの村の素晴らしさを堪能させて頂きますわ」


 神官らしい慎み深さでアリシアが別れの挨拶を告げ、そうして彼らは村長宅を後にした。

 

「しかし、あれじゃのう。たった数日のこととはいえ、中々に居心地の良い村じゃったな」


 声を掛けてくる村人たちに手を振って応えつつ、ドワーフの戦士は笑う。

 

「温泉、気持ちよかったよね! また来たいなあ」

「ああ、あれは悪くない。景色を眺めながら酒を蒸して飲むのは、風情があった」


 よほどお気に召したのか、リュミエたちが名残を惜しむ。その会話を背で聞き流しながら、ゲイルは息を吐いた。

 すると、その仕草を目ざとく見つけたか、隣を歩くアレンが心配そうに眉根をひそめる

 

「ゲイルさん、大丈夫ですか? まだ体の具合が……」

「いや、少し頭が重くてな。酒の飲みすぎかもしれん」

「そうですか? 昨夜はあまり嗜まず、早々に床に就いたように思えましたが」


 相変わらずの観察力だ。彼はパーティー最年少ではあるが、何かにつけて対応が細やかで良く気が利く男である。

 そのぶん、心配性が過ぎるのが玉に瑕だが――と、ゲイルは口元を緩めた。


「疲れが出ているのかもな。報告を済ませたら、少し休ませてもらうさ」

「そうしてください。なにせ上位魔神を相手取ったんですからね。活動限界が来ていなかったらと思うと、ゾッとしますよ」


 アレンの言う通りだった。

 グレーターデーモンと遭遇するなんぞ、運が悪いなんてものじゃない。なにせ手練れの冒険者を総動員し、国宝級の魔道具を持ち出して、ようやく打ち取れるかどうか……という難敵なのだ。

 

「僕も遭遇したのは初めてでしたが、本当に恐ろしい敵でした。死人が出なかったどころか、五体満足でいられたのが未だに信じられません」


 レリックが出合い頭の一撃を喰らった以外、損害は無し。しかも魔導具の触媒となる三本角も入手出来た。まさに、奇跡的ともいえる戦果であった。

 

「ねえねえ、そしたら今度はさ、もっと大勢で探索隊が組まれるのかな」


 会話をする二人の間に割り込むようにして、リュミエが口をはさむ。

 

「どうだろうな。あの森はほれ、俺たちが探索しつくしただろ?」

「あ……そうか、そうだったよね。魔傷痕も処理したし、魔素が湧く原因も無くなったんだっけ」


 こつんと、ハーフエルフの少女は自身の頭を小突く。

 

「なに言ってんだろ、あたし。おかしいなあ」


 首を捻るリュミエをしかし、ゲイルも笑い飛ばせない。

 奇妙な違和感が、微かに胸の奥にくすぶっている。しかしそれがなんなのか、見当もつかない。不思議な感覚であった。

 

 そうだ、魔神はもう居ない。

 自分たちの目の前で活動限界に達し、消滅した。

 そのはず――なのに。


「だが、これからが忙しくなるぞい。協会の懸念が的中しちまったからのう。普段、目の届かないような辺境に至るまで、調査は入るじゃろうな」

「そうだねえ。人手はいくらあっても足りないだろうねえ」

「連携が大事かと存じます。例の預言もありますし、これを機に地方の冒険者協会や神殿とも、きちんと情報を共有すべきかと――」


 仲間たちの会話も、ゲイルの耳を素通りしていく。

 頭の片隅にモヤが掛かり、思考が上手くまとまらない。

 自分は何か、大切なことを忘れているような――


「……あれ、あそこにいる子は」


 アレンの言葉に、ゲイルは顔を上げた。

 彼が指さした先には、村の門がある。特に珍しくも無い、簡素な作りで出来た門構えの前で、一人の少年が掃除をしているのが見えた。

 

「……っ!」


 ゲイルの足が止まる。中肉中背・うす茶色の短髪。なんの変哲もない、何処にでもいるような村人だ。目を引くような特徴は無い――はず、なのに。


 何故か、ゲイルのその目は少年の姿を捉えて離れない。

 

「どうも、冒険者さま。もうお帰りですか?」


 立ち尽くすゲイルをどう思ったか、少年の方から近づいてくる。

 

「あ、ああ……」

「この度は、本当にありがとうございました。これで村の皆も安心して暮らせます」

「そ、うか」


 口の中が乾く。舌が固まり、うまく口が動かせない。

 自分はいったい、どうしてしまったというのか。

 ゲイルのそんな様子に、仲間たちも訝しんでいるようだが、説明を返すことも出来ない。

 

「これ、ほんのお礼ですが……どうぞ、お受け取りください」

「わあ、奇麗! なにこれ、羽?」


 少年が手のひらに載せて差し出したのは、真っ白な美しい羽であった。

 日の光に照らされて煌めくそれを、リュミエはうっとりと見つめている。

 

「はい、天使の羽です」

「テンシ?」


 リュミエが首を傾げる。

 ゲイルもまた、聞いたことの無い名称だ。

 

「天の御使い様のことです。お伽噺――じゃなくて、童話に出てくるんですよ。白い翼をはやした、神様のしもべでして」

「まあ、興味深いお話ですね。運命神さまの眷属が、形を変えて伝わったのかしら」


 少年の説明に、アリシアが反応する。

 彼女は敬虔な聖職者だ。そして、古い文献を好んで集める知識魔でもあった。

 

「もちろん本物ではなく、それを模した作り物です。ただ、皆さまの冒険にご加護があればと思いまして」

「まあ、ありがとうございます。こちらはなにか、特別ないわれがあるのですか?」

「はい、ほんのささやかな願いを叶えてくれるそうですよ」


 そう言って、少年は微笑む。

 

「大金持ちになりたいとか、偉くなりたいとか。そんな凄いお願いではなく、探している人に巡り合えたり、失せ物が見つかったり……そんな程度のものが」


 それはなんとも、ささやかだ。民間伝承に相応しい、こじんまりとしたアイテム。

 だがそれを聞いて、リュミエが目を輝かせた。

 

「いいじゃん、それ。なんだかとっても素敵。やっぱり夢は自分の手で叶えなきゃね! それでこそ冒険者ってもんじゃん!」

 

 どうやら少年の話も、その手に載せられた天使とやらの羽も、彼女は心から気に入ったようだった。

 

「受け取っとくよ。ありがとうな」


 ようやく体が動き、ゲイルは少年の手のひらに指を伸ばす。

 柔らかく、暖かな感触。それが指先から伝わってくる。

 確かな――()()の肌。どうしてそれを、不思議と思うのだろう。

 

「お気をつけて、冒険者さま。またのお越しをお待ちしています」


 嬉しそうな少年の笑顔を背に受け、そうしてゲイルたちは歩き出す。

 

 これからも行く手には困難が待ち受け、窮地に陥ることもあるだろう。今回のような幸運が、また訪れるとは限らない。けれど、それでも歩みは止めない。疲れ果てた体を叱咤して、前へと進んでゆく。

 

 何故なら、ゲイルたちは冒険者なのだから。

 

 手のひらに乗った、薄い羽の小さな重み。

 それを確かめるように撫で、ゲイルは空を見上げた。

 

 新たな冒険へといざなう様に、柔らかな日の光がそこに輝いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ