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最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第1章トスカナ村の村人A
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第7話 破滅の預言


「い、今……なにが起きたんだ?」


 ゲイルは呆然と呟きながら、目をこすった。

 先ほどまで空に浮かんでいたアークデーモンは、その威容を奇麗さっぱりと消失させていた。

 その痕跡は、欠片と残っていない。魔神が滅びた時に落ちる特徴的な角さえも、どこにも見当たらない。

 

 目の前の少年、その背が輝いたかと思った次の瞬間、魔神の体が穴だらけとなり――そして、空に溶けるように消え去ってしまった。

 

「意志体の完全消滅を確認しました。恐らくはもう二度と、魔神と呼ばれる存在が現れることはないでしょう」

「は……?」

 

 あっさりと言ってのけるその言葉に、ゲイルはポカンと口を開けるばかり。

 消滅? 魔神がもうこの世界に現れない? 何を言っているんだこの少年は。

 

 しかし、それを戯言と断じられない。なぜなら今、こうして自分が無事でいること自体が奇跡的なものなのだ。


 眼下の地表は消滅し、深淵と続く大穴が空いている。天変地異かと見紛う現象を、この少年は苦も無く防ぎ切ったのだから。

 

「お、お前はいったい、なにをしたんだ!?」

「はい、思念誘導兵器を使用しました」

「しねん、ゆうど……?」


 聞きなれない言葉に戸惑っていると、少年がこちらを振り向き頷いた。

 

「ええ、あの類の相手は()()()()()ので。最も適切と思われる兵装を選択しました。それが思念誘導兵器『Phantom Lancer』です」

「お、おう?」

「波動重子理論を応用した見敵必殺の武器で、実体と幽体の性質を併せ持ちます。対象が機械ならばその思考回路、生物ならば意志を発する場所を貫く時のみ実体化し、それ以外の全てを透過――」

「キオそこまで」


 ぱん、と。少女の手のひらがキオの口元を抑える。

 

「余計なお話を聞かせたら、あとで負担がかかるんでしょ? やめなさい」

「あ、そうだね。さすがジェニー」


 わけのわからない会話。目の前の二人よりも遙かに人生経験は格段に上のはずなのに、まったく理解が不能であった。

 

「あの、ゲイルさん。最後に少し、お尋ねしたいことがありまして」

「な、なんだ?」

「ヒトモドキ、という単語に心当たりはございますか?」


 なんだそれは。突然の質問にゲイルは目を瞬かせた。

 

「いや、聞いたことがないな……? どういう意味だ?」

「いえ、あの魔神が垂れ流していた思念波の中で、そんな言葉が繰り返し発せられていまして。多分、翻訳はそれで合っていると思うのですが」


 ふうむ、とキオは首を傾げる。

 

「今、この世界に存在する人型種族は総じて『人間』といいますよね? 『獣人』とか『半森人』みたいな種族名はあるにせよ」

「あ、ああ……」

「魔神の思う所を察するに、そもそも大元となる『ヒト』に値するなにかが、かつては存在していたような――」


 大元、ヒト。少年の疑問もその内容も、相変わらずゲイルの理解から外れていたが、その言葉には微かに思い当たる節があった。

 

()()種族……」

「え?」

「アリシア――仲間の一人が古い文献を漁るのが趣味でな、そいつが前にそんな事を言っていた気がする」


 呆けていた頭を叩き起こし、ゲイルは己の記憶を探る。

 古びた書物を手に小躍りしていた女性神官は、あの時に何を言っていた……?

 

「なんでも、まだ神々が数多く存在していたという遥か大昔、すべての人間の祖となった何かがいたらしい、とか」


 現在、神といえばただ一柱。運命神のみを指す。

 だが、神話の時代にはそれ以外にも同等の存在がが居たらしいのだ。

 もはや名すら失われた、古き神々が――


「その神たちがしもべとして作ったのがそれ、だったか? 森人族エルフの祖先に関係しているとかなんとか……まあ、突拍子も無い戯言だろうが」


 いや、本当にそうだろうか。魔神も元をたどればその、古き神々の怨念から発生したという説もある。

 なにより、目の前にいる少年の存在が、ゲイルが今まで信じてきた常識というものを大きく揺るがせていた。

 

(……そうだ、預言も)


 今の話の何かに興味を惹かれたのだろうか。考え込むような仕草をしているキオへ、ゲイルは視線を向けた。


彼には、話しておくべきかもしれない。

 

「それとはまた別の話だが……大陸中央にある、ダリア大神殿。『星詠み』の二つ名を持つ大神官が、運命神から神託を得たらしい」

「神託、ですか」

「ああ……近いうちに、大いなる脅威が訪れる。この世界の四方に封じられた悪意が目覚め、神話の時代の破滅が蘇る――」


 これまでにも、数多くの予言を発して来た『彼女』のそれは、ただちに伝達されていった。

 国も人種も関係なく、一定以上の地位・身分に在るものたちへ。それは冒険者協会も同じである。

 

 ゲイルらのように熟練した、一流を自他ともに認められている者たちへもまた、破滅の預言は聞かされていた。

 今回の一件は、その先ぶれではないか。ゲイルは、そんな気がしてならない。

 

「なるほど……やっぱり村長さんの見立ては正解だったわけだ。僕はその手の経験が少ないからなあ」

「なに?」


感心したように頷くキオを見て、ゲイルが言葉の意味を問いかけようとする――が、しかし。それより早く少年は顔を上げた。


「ゲイルさん、ありがとうございました」

「あ、ああ……?」


 戸惑うゲイルの前で、キオが深々と頭を下げる。

 

「貴重な知識を色々と学ばせて頂きました。おかげさまで、また一つこの世界を知ることが出来ました」

「え、お?」

「そのお礼もろくに出来ず、このような事をするのは、えっと……そう『心苦しい』のですが」


 すうっとキオの手のひらが持ち上がり、ゲイルの額に当てられる。

 なにを、と問う暇すらなかった。

 

「あ――」


 痛みは無い、不快感も無い。

 ただ、意識が空白の波へと流されてゆく。奇妙な心地良さがあった。


「……申し訳ありません」


 頭に染み入るように聞こえた、少年の声。

 それを最後にゲイルの体から力が抜けた。

 

 

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