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最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第3章 勇者と『カミ』の巫女
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第68話 古の盟約


 ――思えば、おかしな事は幾つもあった。


 例えば、シーサーペントの襲撃である。

 魔物避けの聖水を撒いているはずなのに、海竜の群れは平然と船へと襲い掛かってきた。

 まるで、狙いを定めているかのように――である。


 その後、キオは聖剣祭前後の数日間を調べたが、同じ処置をした船が襲われた事は無かった。

 

 そして、浜辺へ姫巫女が姿を現したのもそうだ。

 エジンの記憶を探ったが、彼女がそんな気まぐれを起こした事は無い。

 

 彼女の体内に巡る血――因子のようなものが呼び合った、とすればそれにも理由が付けられる。


 これすなわち、トルクの血脈は真なるヒトにごく近い性質を持つ、という推測が補強される。

 

「……聖剣は、それの判定器だったのですね」


 淡々と事実を突きつける。

 キオの言葉に、もはやエジンは声も出せずに震えるばかりだ。


「真人種族に近い血を持つ者を探り出し、その代の姫巫女と掛け合わせる。そうすれば、ある程度は純度を保てるわけだ」

「む、村人くん……? アナタ、いったい」


 物も言えなくなった老森人の代わりに、リュミエが一歩前へと踏み出した。


「なんで、そんな事を知ってるの? そこまでは、あたしだって……」

「エジンさんの記憶を読ませて頂きました」

「……へ?」


 目を瞬かせるハーフエルフの少女を他所に、キオは再びエジンへと向き直った。


「とても良く出来たシステムですね。代々、姫巫女を存続させていくため、効率的に特化させている」

「キ、キオさん?」


 感心して頷くキオに、ジュールが唖然としたように声を掛けてきた。


「で、でも……今まで聖剣に選ばれた人は一人も居なかったって」

「記憶を消されたのさ」


 事も無さげにそう言って、キオは足元へと目を向けた。


「この島に来るとき、黒と白の力が全土に絡み合っているように見えた。あれは、一種の魔法陣だったんだと思う」

「……なるほど。島に入り、そして出るときに特定の記憶だけを消去される、と。恐らくは聖剣を少しでも動かせたーー『適格者』に関する事だけを」


 ジェニーが腕を組み、しかし納得がいかないというように首を傾げた。


「なんで、そんな回りくどい事をするのかしら? 聖剣に選ばれた勇者が出た事を隠す、だなんて」

「それはきっと『盟約』とやらに関係があるんだろうね」


 びくり、と。エジンの体が跳ねた。


「もっと言えば、真人の血を引くものを見出すにも条件があるんだろうね。特定の国、特定の場所。そして、あるいは――特定の人種」

「そなた、は」


 目を剥き出し、わなわなと震えるばかりのエジンを前に、キオはゆっくりと首を振った。


「トルクさんがどうして、そこまで純血に近かったのかは分かりません。けれども確か、曾祖父さんが高名な冒険者と言っていたから、その辺りに関係があるのでしょうか」


 真実は不明だ。

 だが、それよりも大事なものは、この先にある。


「そなたの、言うとおりだ……聖剣の勇者とは、次代の姫巫女を産ませるための伴侶。はるか遠い昔には、此度のように聖剣を引き抜いた者も居たそうだ」


 そして、と。エジンは言葉を続ける。


「あの港町を含む国一帯は、かつてこの島から逃れた『ヒト』が祖となり、血を撒いた。そう伝承には継がれておる」

「へえ……?」

「それは、その国ばかりではない。古き世界が焼かれた後、人々はそうして再度の繁栄を遂げていったそうだ」


 興味深い話だった。

 薄々と勘づいていたが、現在の人間種族の大元はやはり、真なるヒトであったらしい。

 キオはそれを深掘りしたい衝動をこらえつつ、先を促した。


「そうして、この地から散らばった『ヒト』は――その血の中に『盟約』の証を潜ませたのだ。儀式に必要な、証をな」

「儀式……ですか」


 キオは、岬の向こうへと目を向けた。

 波間に揺られ、悲痛に蠢く影がそこに在る。


「ではやはり、あちらの方々がその犠牲者なのですね」

「なんだと……!?」


 ハッとして、エジンがキオの視線を辿る。

 だが、いかに古代魔術に通じた老森人といえど、その思念体まで見出すことは出来ないらしい。

 せわしなく動く眼差しは、その末端すら捉えられていなかった。


「そなたは、何が見えておるのだ……!?」


 慄く声が、耳朶を打つ。


「古い古い神様が、海の底に眠っているのですね。それも、とても力の強い神だ。世界創造に関わっていたとしてもおかしくないほどの、大物が」

「う……っ」


 よろめくエジンを、リュミエがサッと支える。


「な、なにを言ってるのさ!? さっきから変だよ! ねえ、村人くん!?」

「すみません、リュミエさん」


 ぺこりと頭を下げると、キオはそっと自身の裾へと手を伸ばす。

 そこには、細くしなやかな指があった。

 強く、強く裾を握りしめている幼馴染の手を、そっと撫でる。


「大丈夫だよ、大丈夫。僕はまだ、大丈夫だ」

「キオ……」


 心配げな声に微笑みを返し、そしてキオは頭を巡らせた。

 向かう視線のその先は、あの小山。

 氷室の中に在る――この世ならざる地。


「隔離世に、行かせてくれませんか?」

「なんだと!?」

「あそこに居る神様を封印し続けるのか、それとも抹殺するか。どちらが良いのか、少し確認したい事が出来ましたので」


 さらりと言ってのけ、キオは微笑んだ。

 その思考の中に浮かぶのは、『彼』の姿。

 お人好しで不器用で、いつだって自分より他の誰かを優先してしまう、愛すべき仲間。


「トルクさんに……会わせてください」




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>古い古い神様 寝ててー! 夢見るまま死ぬまで寝ててー!!
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