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最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第3章 勇者と『カミ』の巫女
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第59話 思わぬ再会



「うっは、これはすげえな……!?」


 トルクが、感嘆としたような声を上げる。見渡す限りに溢れる人・人・人。まさしく大渋滞であった。

 ジュールやジェニーも彼と同じ気持ちを抱いたようで、きょろきょろと周囲へ視線を飛ばしている。

 

 今、キオ達が居るのはきっちりと整地された山道。その中腹だ。広がりのある空間の中に、人が雑多に詰め込まれている。

 彼らの過半数は、革鎧やローブを身に着けた冒険者風の人々だ。聖剣がもし抜けたら、などと楽しげに談笑する者たちも少なくない。

 その手には、串焼きや焼き菓子などが握られている。すでに出店があちらこちらに立ち並び、威勢の良い声が響いている。

 

「出遅れちゃったのかな……?」


 少し不安そうなジュールの頭を、トルクががしがしと撫で回す。

 

「なあに、想定内さ。ちょっくら声を掛けてくらあ」


 トルクが意気揚々と、出店が並ぶスペースへと歩いてゆこうとした――その時だった。

 

「……あ」

「……む」


 ピタリ、と。トルクの足が止まる。その視線は、少し先に立つ鎧姿の男に向けられていた。

 肉体年齢は二十七。短い茶色の髪と、精悍そうな顔立ち。頬には古い傷跡が斜めに走り、その目つきは鋭く――しかし、理知的な輝きを帯びていた。

 

 彼は、広間に並ぶ列の外に居る。よく見れば、他にも同じように参列者たちの周囲には人影があった。

 その誰もが、佇まいに一定の風格が見える。恐らくは、前にトルクが言っていた、祭りの警護をしている冒険者たちなのだろう。

 

 そして、トルクと向かい合うようにして動きを止めたその男に、キオは見覚えがあった。

 この数日、キオネードや焼き料理などを売りさばいているとき、その視線は離れた位置からこちらへ向けられていたのだ。


(……あの人は、やっぱり)


 ひとつの確信を抱くキオの前で、トルクが気まずそうに目を反らした。

 

「……ゼノか。やっぱ、ここに来てたのかよ」

「ああ」


 短く頷き、男――ゼノと呼ばれた彼は、トルクを見つめる。

 

「あいつらも……ああ、居るな。そりゃそうだよな」

「ああ」


 返ってくる言葉は変わらない。揺るぎもしない。男はただ、凪いだ風のようにそこへ立つのみだ。


「……うわさに聞いた。上手くやっているようじゃねえか」

「っ!!」


 ゼノの呟きに、トルクが劇的に反応する。

 

「へ、へへっ! そうだよ! 大成功だ! 仲間のおかげで、商いは連日大盛況だ! 見たか、ゼノ!」


 トルクは偉そうに胸を張る。それが本意かどうかなど、センサーに頼らずとも良く分かる。トルクの頬は引きつり、背中がわなわなと震えていた。

 

「俺を追放したことを後悔させてやるって言ったろ!? 俺は、お前らが居なくてもぜんっぜん平気だからな! ホントだぞ!」

「……ああ、そうだな」

「ざまあみろってんだ! ミリアやリックたちにも言っておけよ! 俺は商人として大躍進中だってな! もう関わってくんじゃねえぞ!」


 その言葉の裏にあるものを感じ取り、キオはジェニーと顔を見合わせる。

 

「……不器用なオジ様ね」

「だねえ」


 その様子をオロオロと見ていたジュールも、キオ達の落ち着き払った様子を見て、何かを悟ったのだろう。口を挟むことも無く、トルクとゼノへ視線を向けている。

 

「じゃあな! せいぜい、頑張れよ!」


 のっしのっしと大股で歩き去ろうとして――ふと、トルクは立ち止まる。

 

「……メシ、ちゃんと食ってんのか?」


 振り向きもせず、背中越しにポツリと。その声が呟かれた。

 

「なんだ、お前。相変わらずの母ちゃん気質だな? 俺らの事よりてめえの事を考えろよ」

「う、うるせえっ! わかってるよ!!」


 皮肉気に返すゼノの言葉はしかし、穏やかで安らいでいた。

 その声音に宿るものに気付いたのだろう。トルクは身を震わせ、腕で顔を擦る仕草をした。

 表情は見えない、分からない。それでもキオは、トルクの背中をじっと見守り続ける。

 

 駆け出すトルクを、ゼノがそうして見送り――不意に、キオらへと視線を移す。

 びくりと震えるジュールの肩を優しく叩き、キオは微笑んだ。


「……え」


 呆然とジュールが呟く。ゼノが、頭を下げたのだ。キオ達三人に向けて、深く……深く。

 

「……大丈夫ですよ」


 その後ろ髪を見つめながら、キオは声を掛ける。ハッとして顔を上げるゼノの前へと歩み出て、そうしてゆっくりと頷いて見せた。

 

「トルクさんは、大丈夫です」


 返ってくる言葉は無い。ただ、握られたゼノの右拳が微かに震えているのが見えただけ。

 

 ――キオは、知っていた。

 

 商売に勤しむトルクを見つめる、その視線の主たち。時には使いをやって、キオネードを購入して持ってこさせていた事も。

 

(……大事な、大事な仲間だったんですね、トルクさん)

 

 そっと視線を巡らすと、こちらへチラチラと目を向ける冒険者たちの姿があった。

 彼らが恐らく、ゼノと同じ『暁の刃』のメンバーなのだろう。

 何人かは、出店の方に消えてゆくトルクへ心配そうな視線を送っている。

 

「……ああ」


 フッと、ゼノが口元を緩めた。そうしてもう一度、頭を深々と下げて警備へと戻ってゆく。

 その堂々とした足取りは、どこか迷いが晴れたようにも見えた。

 

「互いを大切に想っている人たちなのに、どうして……」

「大人ってね、見栄っ張りなのよ」


 どこか、やりきれなさそうに呟くジュールの頭を、ジェニーが撫でる。

 

「どうしてか、大事なものを口に出すのが恥ずかしくなるの。簡単に言葉にすると、安っぽくなるって思うのかしら」

「……よく、わかりません」

「そうね。わからないわよね。今は、それでいいわ」


 いつになく優しい声で、ジェニーがジュールの目元を拭う。


「まあ、素直になれないのを拗らせすぎると、あなたのお師匠様みたいになるから。程度の問題ね」

「……そうですね」


 あの不愛想な薬師の事を思い出したのだろう。ジュールがくすりと笑って見せた。

 

 仲睦まじい二人を見守りながら、キオは前を向く。

 少しずつ、列が動き始めていた。

 

 聖剣祭の本番は、その本命は――その名の通りに聖剣のお披露目だ。

 誰もがそわそわと、熱に浮かされたような顔をしている。もしかして、ひょっとしたら。そんな期待に胸をときめかせているようだ。

 

 キオのセンサーが、雑多な群衆の向こうにある祠を捉える。

 その奥から感じられるのは、渦巻くような力の奔流。それに呼応するように、遠く海辺の方からも微かな鳴動が響く。


 これから何が起こるのか。のんびり悠然と構えながらも、キオは警戒を怠らない。

 

「――みなさま、お待たせいたしました」


 鈴の鳴るような声が響いたのは、その時であった。

 一斉に、人々の視線が『そちら』へと集中する。

 

「これより、聖剣の儀を行わせて頂きます」


 か細く小さな、しかし凜としたその声は、瞬く間に群衆の脳を揺らしてゆく。

 ガヤガヤと煩かった広間が、しんと静まり返った。何処からか、虫の音だけがリンリンと響く。

 

「――今日という日を無事に迎えられたこと。それが、とてもうれしゅうございますわ」


 姫巫女の柔和な笑みと共に、そうして祭りが始まる。

 

 

 波乱に満ちた――聖剣祭が。

次回は8/17(月)に投稿いたします!

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