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最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第3章 勇者と『カミ』の巫女
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第55話 秘密兵器の御披露目


「さあ、どうだい!? 豊かな自然に囲まれた、()()トスカナ仕込みの香草包みだ! 喰わなきゃ損だぜ!」


 太陽が中天にかかり、日差しが強く輝く頃。

 楽しげなその声が、風にのって葉を揺らしていた。


「あのって、どのトスカナなんでしょうか?そんなに有名な村でしたっけ」


 威勢の良い声を尻目に、ジュールが首をかしげる。


「温泉はあるわね。薬草もそこそこ採れるわ」

「それと森に最近、上位魔神が出たね。冒険者さん達には知名度が高いかも」

「そんな名物品みたいに言われても――っと」


 さらっと言ってのけるキオに、ジュールが顔を強張らせる。ついでに指が滑ったのか、あわあわと手を揺らしている。


「ほら、気を付けなさい。薬草が勿体無いわ」

「ご、ごめんなさい」


 その言葉に気を引き締めたか、ジュールが真剣な顔で手を動かす。その小さな指に握られているのは、若緑に彩られた葉だ。焼かれた肉を、その上へ包んで丁寧に巻き、木皿の上へと置いてゆく。


 今、キオ達3人は林道の手前に並んで陣取り、簡素な屋台を組み立てて焼き物を売り捌いていた。

 少し離れた位置にはトルクが立ち、積極的に客の呼び込みも行っている。すわ本職か、と見紛うばかりにその声かけは堂に入っている。


「キオ、もう少し火を強くして」

「うん」


 ジェニーの催促を受け、キオは鉄板の下へ手を入れた。誰にも見られぬように指先から光熱を飛ばし、温度を引き上げる。ついでに風を吹かせて、匂いを拡散するのも忘れない。


 その匂いに惹かれたか、畑仕事を終えた人びとや観光をしていた旅人たちが、なんだなんだと寄ってくる。


「おお、お目が高いね皆さん! どうだい、ひとつ! ウマイよ!」


 客引きと同時に料理皿を持ち上げ、次から次へと注文を受けていく。その表情は晴れやかで、生き生きとしていて、とても数日前まで死にそうな顔でパーティー追放を嘆いていた男と同一とは思えなかった。


「はい、どうぞ。持ち合わせが無い方は野菜や果物でも結構ですよ。はい、こちらもどうぞ」


 会計と受け渡しは、キオの仕事だ。

 当たり前だが機械のごとき正確さと、柔軟な支払い手段を織り混ぜてゆく。


「上がったわ、次」


 そして、肝心要の焼き方はジェニー。

 彼女は食べるばかりでなく、作る方も得意なのだ。

 絶妙の火加減を見定め、次から次と食材を鉄板の上に転がしてゆく。


 魚や肉、そしてキノコなどがじゅうじゅうと音を立て、ふっくらと汁を垂らした――瞬間、ジェニーが特製のソースを振り掛けた。魚と塩を原料とした魚醤の一種だ。

 キオが材料に手を加え、熟成を早めて作り出した逸品である。特に焼き物との相性は抜群だ。


 たちまちに煙がじゅわっと吹き上がり、芳醇な香りが人びとの鼻先をくすぐった。

 ごくり、と。誰かが唾を飲み込む。


「ひ、ひとつくれ!」

「俺もだ!」

「あたしにもちょうだい!」


 殺到する人びとを、慌てながらもトルクが捌き、キオが支払いを済ませてゆく。そうしてジェニーとジュールが料理を拵え、木皿へ盛り付ける。息の合ったコンビネーションを前に、香草包みは飛ぶように売れてゆく。


「トルクさん、あれもそろそろ」

「ふう、ふう……だ、だなっ! 皆さん、喉も渇いちゃいませんか!?」


 なんだ?とざわめく人々の前に、キオが満を持したがごとく、背後にある『それ』――秘密兵器を持ち上げた。


 キオの身長よりやや高く、横幅もある真っ白な箱。それがでん、と地面に置かれると、誰もが戸惑ったように目を瞬かせてしまう。用途も分からず見当もつかない。彼らの表情からは、それがありありと見て取れた。


「さあーーどうだ!」


 トルクが前部にある取っ手を掴み、一気に開く。

 とたんに、ひんやりとした冷気が迸り、最前列にいた青年が驚いたように飛び退いた。


「冷たっ!? なんだこれ、魔導具か!?」


 その言葉を皮切りに、ざわめく声が広がってゆく。


「はい、これぞ伝説の魔導具! 古代に作られた一級品ですぜ!」


 中に入っていたのは、縦横にぎっしりと詰められた樽だ。そのひとつを、トルクはよろめきながら取り出すと、蓋を割って中の液体を小筒にすくう。


「さあさ、手に取ってみてくださいよ」

「うわ、冷てえ!?すっげえ、冷えてるぞこれ!?」


 呆然としたように、その青年が筒をまじまじと見つめている。


「果実の濃縮液に砂糖で味付けして、更に炭酸水を入れてしゅわっとさせた飲み物ですよ。名付けてキオネードです!」


 得意そうなトルクの声に、おおお!?とどよめく人々。

 それを満足げに眺めているのは、名付け親である張本人(ジェニー)だ。

 後方彼氏面をしながら、腕を組んでふんぞり返っている。そのドヤ顔がまた、絶妙に可愛らしかった。


 そんな少女を背に置いて、トルクがニヤリと笑う。


「エールみたいなスッキリとした喉ごしが特徴なんで、気を付けてゆっくり飲んでくださいよ!」


 最初に手渡された青年が、おっかなびっくりと筒に口を付けーーごぶっとむせた。


「うわっ!?なんだこれ、エールよりずっと、しゅわしゅわ感が強いぞ!?」


 びっくりしながらも、味付けは気に入ったらしい。今度は慎重に慎重に飲み干してゆく。ごくごくと喉が動き、そうしてプハアっと青年が息を吐き出した。


「うっめえ!?冷たくてしゅわっとして……もういっぱいくれよ!」

「へへへ、あいよっ! でも二杯目はお代を頂きますぜ!」


 ――実の所、この世界でも炭酸水はそこまで珍しいものではない。各国の王都や、鉱泉のある地域などでは飲料とされることも少なくない。けれど、かつてキオがいた宇宙のように、広く好まれているかと言われれば、そうではなかった。せいぜいが、発酵させた麦酒(エール)で口当たりを楽しむくらいである。


 そして、そもそも飲料水を適温で保つ、という行為がまた難しい。

 氷の魔術を使えば不可能ではないが、加減がしにくいのだ。

 専属の魔術師と契約し、氷室を持っている店もそこそこに在るらしいが、外への持ち出しや温度管理など、諸問題をまだクリアできてるとは言い難い。


 ――それを可能としたのが、この魔導具だ。


 これこそ、トルクがその財産の殆どを手放して『修復』させたという、古代文明の産物。

 恐らくは真なる『ヒト』がかつて作り出したであろう、冷蔵庫にも似たアイテムなのである。


 そこにキオが()()()()、更に炭酸を生成させて注入すれば、あら不思議。ジェニー命名するところの、新型飲料水の誕生であった。

 


「うそ、美味しいっ!?」

「こ、これはクセになるな……!」

「王都で飲んだやつより、ずっとのど越しが良いぞ!? なんだこれ!」

「それと、この香草包みがまた……合う! 合うぞ! 止まらねえ!」



 殺到する人々を前に、キオ達四人は顔を見合わせ――そして、嬉しそうに破顔した。






 

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あっつあつのうんまい焼き物にキンッキンに冷えた炭酸の暴力が異世界を襲う!!
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