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最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第3章 勇者と『カミ』の巫女
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第49話 襲撃

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ…… おが、おがあぢゃあああん……!」


 ガタガタと震えながら、トルクがへたり込む。


 水面を突き抜けて、現れた五匹の魔物。その威容は、船上に居る人々を恐怖と混乱へと突き落としていた。

 

「ば、馬鹿な……! シーサーペントが、群れで……!?」


 慄くようにそれを呟いたのは、冒険者の一人だ。

 異変を感じて甲板へと駆け付けたものの、あまりの事態に硬直している。

 

 『こんなにも強大な魔物が』『まずい、守り切れない』

 

 『ありえない、どうして』『死にたくない』

 

 雑多な思念を読み取り、キオは瞬時に状況を理解する。

 トルクがそう言った通り、あれはシーサーペントという魔物の一種らしい。

 水棲生物が魔素により変化したもののようで、厳密にいえば同一個体は存在しない。

 五匹の魔物たちも、よく見れば細部が異なっている。

 ひれが重なるもの、触手のようなものを生やしているもの。実にバリエーションは豊かだが、性質自体はほぼ似通っているらしい。

 

 海上、という限定された空間において、その戦闘能力は下位の魔神にすら匹敵するという。

 

 ――なるほど。これは確かに、皆が怯えるのも無理は無いな。

 

 キオがそう判断する間に、海竜たちがその口をすぼめ、大きく吸い込むような動作をする。

 

「ブ、ブレスが来るぞ!! ぼ、防御の術を――」


 誰かがそう叫ぶも、とてもではないが間に合いそうもない。それでも何人かが矢を放つも、鱗に阻まれ弾かれてしまう。

 間もなく五方向から繰り出されるであろう、必殺の一撃。受ければ船が粉みじんと化すのは必至。


 誰もが絶望の表情を浮かべて、それでも抵抗を試みようとする。詠唱が始まり、盾や魔導具らしきものを構える者も居るが、絶望的に時間が足りない。

 

「あ、ああああ……あぶぶ、あぶねえっ!!」 

 

 床を這うようにして、トルクがジェニーとジュールに飛びつき、その身をもって覆いかぶさろうとする。

 同時に、海竜たちの口から渦巻く水流が解き放たれ――


「ひいっ!?」


 ――顕れた光の壁に衝突し、その全てが弾け飛ぶ。

 

 あらかじめ、キオが船の周囲に展開していた極少機械群を励起。光子エネルギーによる全周囲のフィールドを形成したのである。

 

「な、なんだ!? 何が起こった!?」

「こ、これは……!?」


 激流の衝突により、水しぶきが吹き上がる。それは霧の如く散らばり、周囲を覆いつくして視界を塞いでゆく。

 

「装備、選択――」


 誰に聞かれる事もなく、キオが呟く。

 右腕を引き絞り、この状況に最適の兵装を導き出す。

 

 ――K・P起動

 

 右拳が突き出されると同時に、キオの二の腕から先が()()()()()

 放たれたそれは、恐るべき速度で霧を裂き貫きながら、海竜の頭部へと着弾。それをいともあっさりと粉砕する。

 悲鳴すら上がらない。その暇も与えない。一匹目を仕留めた次の瞬間には二匹目へ、そして三匹目へ。輪を成すように撃ち抜き、あっという間に海竜の群れを滅ぼした。

 

 誰の目にも留まらない。時間にして、一秒にも満たない刹那の一撃。瞬きする間に事を成し遂げ、右腕はキオの元へと戻ってくる。

 

「な、これは……!?」

「み、見ろ! シーサーペントの頭部が無いぞ!?」


 冒険者の一人が魔術を行使したのだろう。激しい風が吹き、霧が晴れてゆく。

 そうして現れたのは、頭部を失った五匹の海竜。ふらふらとよろめきながら、その巨体がゆっくりと崩れ落ちてゆく。


「あ……」


 誰かの呟きと共に、海竜たちは一匹残らず海中に没した。後に残るのは静寂。日の照り返しを受けて揺れる海面のみ。

 

「トルクさん、もう大丈夫ですよ」

 

 ジェニーが身を起こし、自分たちを庇おうとしてくれた男の、その肩を優しく叩く。

 

「……へ? お、おれたち……生きてる、のか?」


 呆然と呟き、トルクが顔を上げた。涙と鼻水でぐしゃぐしゃのまま、周囲をきょろきょろと見回している。

 

「……ありがとうございます、トルクさん。二人を守ってくれたんですね」

「え、いや……え?」


 キオが差し伸べた手を取り、起き上がろうとして――彼はつんのめってしまう。


「はは、ははは……こ、腰が抜けちまった……はは……」


 その声に、船上の人々も皆、安堵したようにへたり込んでしまった。

 

「ブ、ブレスが跳ね返ったのか? まさか同士討ちを……?」

「それ以外には考えにくいな……だが、そんな都合の良い事が、しかし……」

「た、助かったの……あたしたち……?」


 冒険者たちも、目の前の現実が信じられないのだろう。

 互いに声を掛け合いながら、体を震わせている。

 

 そんな彼らを尻目に、キオは船の縁へと近づいて海面を見下ろした。

 

(……消えている。さっきまで高濃度の魔素が澱んでいたのに)


 一瞬のうちに現れ、そして消失した。

 これは、普通にあり得る事なのだろうか。未だ、この世界に精通しているわけではないキオには、判断が付かない。

 

 やがて、追い風を受け船が再び動き出した。

 輝く水面を進む、その先へとキオは視線を向ける。

 

「……さて」


 望遠された視界に、それが映り込む。

 海に浮かぶ、ひとつの大地。目的地であるその島をしかし、キオのセンサーが異常と捉える。

 

 白と黒。目には見えぬ力の奔流が絡みつき、全土を覆いつくそうとしている。


「……今度もやっぱり、無事に済みそうもない、か」


 潮風を身に受けながら、キオはそう呟くのだった。

 

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