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最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第3章 勇者と『カミ』の巫女
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第47話 パーティー追放


「……今まで、世話になったな」


 その言葉と共に、テーブルの上に小袋が置かれた。ドン、という重たい音が響く。中身はおそらく、相応の金が詰まっているのだろう。

 だが、今のトルクにそんな事へ気を配る余裕は無かった。


「んだよ、それ……っ」


 声が震える。

 いつもの宿、いつもの酒場。なのに周囲の喧騒が、なぜか遠くから聞こえてくる。


「トルク、お前も分かってるだろう。もうこの辺りが限界だ」

「そ、そんな事は……」

「ある」


 男の言葉に、周りを囲んでいた『仲間』たちが、ためらうようにうつむいた。


「お、おい……なあおい、みんな何とか言ってくれよっ! お、俺だってまだ役に立てる! 雑用だってなんだって、俺がーー!」

「ーートルク、そういう事じゃねえんだ」


 リーダー格の男が首を振る。


「協会から、一定以上の技能保持者達に知らせが下りた。地方へ、細部に渡っての探索任務だ。俺らも()()()()()が終わったら、ミーステアの樹海に向かうつもりだ」

「だ、だから俺もっ」

「……ある田舎村で、付近の森に上位の魔神が出たらしい。迷宮都市の方でも、一騒動があったようだ。もし、この先に同じような事が起これば」


 男は、トルクの目を正面から見据えて言った。


「……お前の身を守れん」

「あ……」

「最悪の事態に陥った時、俺にその選択をさせないでくれ」


 臓腑にナイフが差し込まれたかのような、冷たい感覚。息が出来ない。言葉が出ない。


「あのさ、やっぱり……せめて島での仕事が終わるまでは一緒に……」

「そうだよ! 今回の件を終わらせてさ、トルクの事はそれから考えても……」


 おずおずと、他のメンバーも口を挟む。


「…………お前も、もう四十近いだろう」


 けれどもそれを手で制し、リーダーが淡々と言葉を吐き出した。


「この辺で足を洗え。冒険者だけが生きる道じゃない」

「それ、お前が言うのかよ……!」


 気が合う仲間たちだった。共に夢を語り、一流の冒険者になろうと励まし合った。年齢が一回りは上のトルクも快く受け入れてくれて、成功も失敗も共に分けあいながらここまで来た、のに。


「……こ、後悔するぞっ! お、俺を見放した事を、絶対にっ」

「ああ」


男が頷く。


「そうだな、お前の言う通りだろうな。けどーーーー仲間を死なせるよりは、悔いがねえ」

「あ……」


その言葉と共に、 仲間達がトルクを見る。先ほどのように口を挟む者はもう、一人もいなかった。

眼差しに宿っているのは、同情に罪悪感。切なさと申し訳なさが入り交じった、憐憫だ。

トルクを見下し、嘲り軽蔑するような感情は何処にも無い。


だからこそ、それがあまりにも辛くて耐えきれなかった。


「ぐ……チクショオオオオオオ!!」


小袋をひったくるように奪い取り、トルクは駆け出した。追い掛けてくる足音も、声も無い。どこにも無い。


  走りながら、涙を流しながらトルクは悟る。

 これが、三年に渡って苦楽を共にした仲間たちとの、別れなのだ、と――

 



☆ ☆ ☆ ☆




「――と、まあそんな感じでな! ふざけるなって、俺の方から見限ってやったわけよ!」


 なはは、とトルクが笑った。

 そうして木製のジョッキをグイッと口へ傾け、一気に飲み干してゆく。


「ぷはあっ! あーうめえ!」

「そ、それじゃあ……さっきのお金は、えっとその時の」

「ああ、そうだよ。使う気になれなかったかんな、あれで清々したぜ」


 ウハハハハ、と彼は笑う。その声にはしかし、言葉とは裏腹に力が無い。

 脈拍、息遣い。そして断片的に浮かびあがる記憶から判断するに、トルクが語ったそれは事実とはいささか異なるのだろう。けれど、キオは指摘をせずに頭を下げた。


「それでも、お礼を言わせてください。ありがとうございました」

「いいって、いいって! 気にすんなってばよ!」


 再び麦酒を飲み、そうしてトルクは赤ら顔で笑う。

 そんな彼を見ながら、ジェニーが首を傾げた。

 

「それで、これからどうなさるおつもりですか?」

「……うっ」


 それは、キオも気になっていた事だ。

 トルクは言葉を詰まらせながら、自嘲気味にうつむいた。

 

「……商人にでも、なるかなあ。向いてるって言われた事もあったし」

「冒険者、やめちゃうんですか?」

「……まあ、な」


 どこか残念そうなジュールの声に、トルクは苦笑で応えた。

 

「俺という器は、きっと冒険者なんかにゃ収まらねえのさ。そう、可能性を試すわけだ!」


 誤魔化すように髪を掻き上げ、そうして彼は胸を張る。

 

「ちょうど聖剣祭の時期だし、モーストロにでも行って一旗あげるかってな!」

「聖剣祭、ですか?」

「なんだ、知らねえのか? 五十年に一度、あの島のご神体が開放されるのさ。んで、それが伝説に残るようなスゲエ剣なんだってよ」


 トルクの説明に、キオ達は顔を見合わせる。

 そんな話は、ボルトから聞いていない。


「なんでもな、その聖剣を手にした奴は――とんでもねえ力を手に入れられるらしいぜ」

「へえ……」

「その剣は岩だかなんだかに刺さってるらしく、それを抜ける奴がいるかどうか、広く勇者を募ってるんだってよ」


 良くある英雄伝説だと、キオはそう思う。

 選定の剣を抜いた者が王となり、栄光を手にする。為政者の箔付けにも良く使われたらしい、伝統的な手法だ。どうやらこの世界にも、似たような逸話があったらしい。

 

「トルクさんも、それを試しに?」

「んなわけねえだろ? 俺は剣どころかナイフだってろくに――ああ、いや」


 慌てて首を振り、トルクはキオに向き直る。

 

「目的はそれじゃなく、その聖剣に集まる連中さ。相当な数がな、あの島へ渡っているらしいぜ」

「ひょっとして、その人たちを相手に商売を?」

「そうだ! 鋭いな、お嬢ちゃん! 人が集まりゃ、そこに必ず何かしかの需要が生まれるのさ」



 こういった話が得意分野なのだろう。

 打って変わってニヤニヤと笑いながら、トルクは人差し指を立てる。

 

「例えば食糧、例えば薬やその原料。包帯とかもそうだな。ただでさえ外界から閉ざされたような孤島だ。物はいくらあっても足りねえだろうしな」

「おお……」


 案外と良く考えている。キオは感心してしまった。

 

「……それで、肝心の品物を手に入れるための資金は?」

「うっ」


 ジェニーからの二度目の質問に、トルクはまたもや言葉を詰まらせた。

 

「日雇いの人夫にでもなるさ。仕事は幾らでもあるんだ。荷物を運ぶのは慣れてるし、そこで金を稼げれば」

「それは、聖剣祭が終わるまでに間に合うのですか?」

「……ううっ!」


 更なる追撃。ジェニーのそれは途切れる事を知らない。

 

「……し、仕方ねえじゃんかよ。とにかく、先立つ物がなきゃどうにもならねえし!」

「本当に、お金がないんですね……?」

「ぐう」


 予期せぬ処から口撃が迸る。

 純粋な子供(ジュール)の疑問を前に、トルクが胸を抑えた。


「えっと、その……少し前にな、ちっと高い買い物をしちまってさあ。んで、残った金も飲み代に使ったから……えっと」

「ご、ごめんなさい……!」

「ああ、いや……別に……」


 なんとも言えない空気が漂う。ジュールも己の失言に気付いたか、気まずそうに俯いてしまう。

 こうして空気を読む事を知り、少年は大人になってゆくのかもしれない。

 妙な感慨深さを覚えながら、キオは一つの考えを導き出そうとしていた。ジェニーの方へちらっと目配せをして、そうして口を開く。

 

「あの、トルクさん。良ければ、なんですが」

「ん、なんだ?」

「そのお金、全て僕が用立てましょうか」


 その言葉を聞いた瞬間、トルクは目を見開いた。

 

「儲けが出たら、利益の一部を上乗せして返して頂きます。目利きもおありのようですし、あなたの将来に投資させてください」


 その言葉は、どうも予想外のものだったらしい。キオの向かいで、男二人が泡を喰ったように慌て出す。


「キ、キオさん!?」

「お、おいおい! 何を言ってんだよ! ガキの小遣いじゃねえんだ。それなりに纏まった金が――」

「これで足りませんか?」


 テーブルの下に虚数領域を呼び起こし、キオはそこから革袋を取り出す。

 開いて見せると、トルクは仰天してのけ反ってしまった。

 

「お、おま……こ、こんな大金……」

「まだもう少しありますよ。お見せしましょうか」

「ばばばば、馬鹿っ! こんな所で見せるなよ!」


 そう叫んでから、ハッとしてトルクは自身の口をふさぐ。次いでキョロキョロと周囲を見渡したのち、キオの耳元へと顔を寄せてきた。

 

「お、お前って金持ちの坊ちゃんか? まさか貴族とかそういう……?」

「いえ、違いますよ。単なる村人です。少し前に、()()()()がありまして。いわゆる、あぶく銭って奴ですね」

「あぶ……?」


 ぽかんとするトルク。やはり、唐突過ぎただろうか。そも、キオは実年齢こそ目の前の彼を超越しているが、見た目は十代半ばの少年だ。

 童顔と相まって子供のようにさえ思える相手に、資金を融資すると言われて喜べはしないのかも――


「ほ、本当かよ……? 本当なのかよ!? いいのか、いいんだな!? 信じるぞ俺!?」


 ――喜んだ。

 

「ぜぜ、是非っ! 頼む! いや、お願いしますよキオの旦那!! うえへへへへ……!」

「うわあ……」


 露骨に態度を変えた中年男性を見て、ジュールが顔を引きつらせる。

 しかし、そんな少年のどん引きな視線を物ともせず、トルクは目を輝かせていた。揉み手をしながら、猫撫で声ですり寄ってくる。

 

「こう見えても、モノを見る目はありますんで……えへへ……」

「じゃあ、商談成立という事で」

「は、はいっ! やった……やったああああああ!!」


 喝采をあげながら、トルクが泣き笑いの表情を浮かべた。

 

「運命神様、感謝しますぜ! これぞまさに、天からの思し召し! おっしゃあああ! 運が向いてきたぞおおおおお!!」


 叫びと共にテーブルの上に身を乗り出し、ジョッキをひったくるようにして喉へと流し込んでゆく。

 

「ぷはああああ! そうだ! うんと金持ちになって、美人の嫁さんももらって! あいつらを見返してやる!! うひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 やはり、よっぽど溜め込んでいたものがあったのだろう。大声で喚きながら、トルクは杯を振り回す。

 

「おーい! 前祝いだ! 麦酒のおかわり!!」


 そんな風にはしゃぐ彼とは対照的に、キオの隣に座る少女の表情は渋い。

 

「怒ってる?」

「……別に? キオがそうと決めたのなら、私は反対しないわ。そもそも、お金を無駄に多く使わせてしまったのはこっちだし」


 理解はしたけど、納得はしていない。少女はそんなお顔をしていらっしゃる。

 

「……信用は、まあ出来そうだけど」

「うん、それは間違いないね」

「はあ……」


 盛大なため息を吐きつつ、ジェニーはキオへと身を寄せた。

 

「契約書は作るわよ。ちゃんと取り分も決めること。無制限に貸し出しも無し」

「うん」

「い、いいんですか? ジェニーさん」


 恐る恐るといった風にジュールが尋ねるも、彼女はそっと首を振った。

 

「言ったでしょう? キオがそうと決めたのなら、反対はしないと」

「けど、初対面の人に大金を」

「あなたは、その辺の感覚がしっかりしてるのね。良い事だと思うわ。大事になさい」


 ぴしゃりと言い放ち、問答は終わりとばかりに煮魚を口へ放り込む。

 そんなジェニーを前に戸惑う少年の頭を撫で、キオは微笑んだ。

 

「ありがとう、ジェニー」

「……どういたしまして」


 ぷいっと顔を背け、キオの幼馴染は食事を続ける。

 空の皿が更に積み重なり、そこへ酒を注文する声が続く。

 

「もっと持ってきてくれよ! うはははは! 人生逆転! ひゃっほう!」


 混沌とした状況でしかし、キオはくすりと笑う。

 なんだかとても、楽しい旅が出来るような――そんな、予感がしたのだった。

 

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― 新着の感想 ―
死なせたくないから追放、いい人たちですね。 >前祝い 野口英世みたいにならないといいですけど、さすがにそこまでアホじゃないか……
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