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最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第3章 勇者と『カミ』の巫女
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第46話 楽しいお食事


港町の酒場は、昼夜関係なく盛況だ。旅人や船乗りたちがひっきりなしに訪れ、喉を潤し胃を満たしてゆく。そんな食事処の一角で、『彼』は旺盛な食欲を見せつけていた。


「んぐっ! んぐっ……! ウマッ!!」


 ガツガツガツと、凄まじい勢いでフォークとスプーンが乱舞する。

 今またひとつ、こってりと煮付けられた魚に三又のフォークが突き刺さり、半身ごと口へ運ばれてゆく。ぷるぷる震える赤身魚を頬張ると、男はそのまま麦酒を一気に飲み干した。

 

「ぷはあああああああああ!! うっはああああ!!」


 至福の表情で息を吐き、木製のジョッキをドカッとテーブルへ叩きつける。


「す、すごい……」

「そうだねえ」


 その向かいで、ジュールがポカンと口を開く。

 彼の食欲に圧倒されているのだろう。

 健啖なのは良いことだと、キオが隣を見る。

 

「オサカナ、オイシイ。ウミノサチ、ステキ」


 そんな食事風景にも我関せず、もう一人の食闘士フードファイターが海鮮料理に舌鼓を打っていた。

 男と比べると、作法は優雅で美しい。けれども量はそれ以上だ。

 次々に空となってゆく皿を見て、ジュールが呟いた。

 

「す、すごい……」

「そうだねえ」


 迷宮都市でも、彼女の旺盛な食欲は遺憾なく発揮されてはいた。ジュールもそれを見ていたはずだが……比較対象が居ると、余計に目立つのだろうか。キオとしてはジェニーが美味しくご飯を食べてくれるなら、それだけで幸せなのだが。

 

「いやあ、メッチャ喰うなア、このお嬢ちゃん」

「ええ、健康的でしょう」

「まあ、ちびちびお上品に食事をするより、こっちのが見てて気持ちがいいわな!」


 そう言って快活に笑うこの男性を、キオは一気に好きになる。

 そうそう、その通り。ジェニーはこれが良いのだ。これが素晴らしいのだ。とてもわかっていらっしゃる。

 

 うんうんと頷くキオに、男はほろ酔い調子で食事を続ける。

 

「いやあ、しかし悪いなあ。奢ってもらっちまってサア」

「いえいえ、お気になさらず。助けて頂いたお礼ですから」


 そうかあ、と照れ笑いしながら男は頭を掻く。

 

「っと、そういやまだ名乗ってなかったな。俺はトルクってんだ」

「トルクさんですね。僕はキオ、この子が」

「ジ、ジュールですっ! はじめましてっ!」


 とても元気が良い。キオは花丸満点をあげたくなる。

 

「そして、こちらの愛らしさ極まる美少女がジェニーです」


 ナプキンで口元を拭いつつ、ジェニーが慎ましく頭を下げる。

 

「お、おう……? びしょ……?」

「美少女です。人が産みだした、この世の奇跡です」

「キオったら、もう」


 素直に思った事を告げると、ジェニーの口角が吊り上がった。ニコニコニコニコ、とてもご満悦である。ご機嫌的なオーラが立ち昇っていた。よほど料理が美味しかったのだろう。

 

「おうおう、お熱いねえ! 今時、そこまでのろける奴は滅多にいねえぜ!」

「そうですか?」

「ああ、でもまあいいじゃんか。変にじれってえより、俺ぁ好きだね。お似合いだぜ、お二人さん」

「トルクさん、この揚げ物もどうぞ。美味しいですよ」


 キオは仰天する。まさかの事態に震えが止まらない。

 

 ――あのジェニーが、食事を差し出した……!?

 

「おう、悪いなあ。いやあ、久しぶりに美味い飯を食えた気がするぜ」

「あの、その。そんなにお腹、空いてたんですか……?」


 慄くキオを尻目に、ジュールがおずおずと問いかけた。

 

「ああ……ここ数日はろくなモンを食べてなくてさあ。酒ばっかり飲んでたから」


 なんともいえない顔で、トルクが頷く。

 

「俺はな、これでも冒険者だったんだぜ! 暁の刃っちゅう、それなりに有名なパーティーの一員でさ」

「冒険者だったんですかっ!」


 ジュールの目が、にわかに輝きだす。

 

「ああ、一級昇格に手が届こうってやつも居るくらい、有望な奴らでさ。そんな連中の面倒を俺が見てやってきたわけよ」

「へえ……! すごいですね!」


 幼い少年からの尊敬を浴びて、トルクが得意そうに鼻を高くする。

 

「おうよ! あいつ等は剣も弓も魔術も、まあ達者だったけどな。朝起きるのは苦手だし、荷物の整理も手間取るし……俺が居なきゃ、ダメな奴らでさあ」

「へえええええ……!」


 ジュールの反応がよほどに気持ち良かったのか、男の調子が段々と弾んでゆく。

 

「火炎山に登った時も、俺が色々と準備を整えてやってさ。だからみんな、俺に感謝して――」

「なのにどうして、たったひとりでお酒ばかりを?」

「キオ」


 キオが首を傾げてみせるのと、ジェニーの制止の声が飛ぶのは同時だった。

 

「う……」

「あっ」


 聞いてはいけない事だったのだろうか。

 目に見えて落ち込むトルクに、ジュールがおろおろと両手をさまよわせている。

 

「あの、トルクさん」

「……たんだよお」

「え?」


 途端に目を潤ませ、ポタポタと。半泣きになりながら、トルクが肩を落とす。

 

「パーティーを、追い出されちまったんだよおお……!」


 

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