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最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第3章 勇者と『カミ』の巫女
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第44話 薬師の頼み



「おうい、キオ」


 空の散歩から戻り、ジェニーを送り届ける道すがら。坂の向こうから、ひょこひょこと軽快そうに歩いてくる人影があった。


「あれ、村長?」

「おお、ここにおったか。探したぞい」

「おじい様、何かキオに御用ですか?」



 孫娘の問いかけに、老村長は相好を崩す。


「うむうむ。実はな、ボルトの奴がキオに頼みたい事があるそうでな」

「ボルトさんが?」


 それはまた珍しい。彼からキオへの申し出など、五年に一度あるかないかのレア事案である。

 

「もしも急ぐ用事が無ければ、会いに行ってやってくれんかの?」

「はい、分かりました」


 もちろん、断る理由などない。

 この村の人たちは皆、キオの家族も同然なのだ。

 むしろ喜んで馳せ参じたいとそう思う。

 

「……ボルトさんが、キオに」

「うん、珍しいよね」

「ええ。厄介な事じゃなければいいけど」


 別に厄介な事であってもキオとしては構わないのだが、彼女はそうでもないらしい。

 とはいえ、余計な口は挟まない。この愛らしい幼馴染は、食欲とキオの事に関しては決して譲らないのだ。

 たとえ神とか魔王が相手でも、この子は敢然と立ち向かっていくだろう。そうと思わせるような、凄みがあった。


「頼もしいなあ」

「ほんにのう、誰に似たのかのう……少し強すぎやしないかのう……」


 もう見慣れた光景であるからか、村長は達観気味に呟く。どことなく哀愁が漂うその背を、キオは労るようにそっと撫でるのだった。






    ☆    ☆    ☆    ☆





「すまんが、少し用事を頼まれてはくれないか」


 薬師小屋に着くなり、ボルトは単刀直入にそう切り出してきた。

 いつものむっつり顔のように思えるが、表情は前よりも幾分か柔らかくなっている。

 

 きっとそれは、彼の隣に居る『その子』のお陰なのかもしれない。

 少しばかり愉快な気持ちになりながら、キオは頷いた。

 

「はい、もちろん。僕にできる事でしたら、なんでも言ってください」

「ああ……」


 少しばかり決まりが悪そうに、ボルトは目をつむる。

 彼にしては、いささか珍しい仕草だ。思わずキオは、ジェニーと顔を見合わせてしまう。

 

「……その、なんだ。もうすぐ妻の命日でな」

「奥様の?」

「そうだ、今年で二十年目になる。だから、その……花を手向けてやりたくてな」


 不思議な物の言い方だった。

 彼の亡くなった妻は確か、この村の墓地に葬られているはずである。

 なにか、特別な花が必要なのだろうか。そう、キオが首を傾げていると――

 

「――確か、奥様は他所からいらっしゃったんですよね?」


 その疑問を読み取ったように、ジェニーが口を開く。

 

「もしかして、奥様のご生家へ?」

「ああ、そうだ。その通り、だ」


 ふう、っと。ボルトが息を吐き出す。

 

「あいつの故郷は、ここから遠く離れた孤島でな。中々、行く機会も……いや」


 微かに苦笑を漏らしながら、薬師は首を振る。

 

「合わす、顔が無くてな。二の足を踏んでいた」

「ボルトさん……」

「だが、ヒューズの奴も立派になった。だから……報告を、してやりたくてな」


 ボルトが東の空を見上げる。

 もしかしたら、その先に亡き妻のふるさとがあるのかもしれない。

 なんと声を掛けて良いか分からず、キオは頷く事しか出来なかった。

 

「けれど、俺はこの場所から動けない。その日はちょうど、隣村の祭りの日だ。毎年、酔っぱらった輩が騒いで怪我をしがちでな」


 ああ、と。キオは納得する。川をひとつ越えた先にある村は、トスカナ村以上に祭り好きだ。

 血の気が多い若者たちが騒動を起こしがちで、ボルトもまた薬師仲間の手伝いを良く頼まれていたのを思いだす。


「そこで、代わりにジュールを連れていって欲しい」

「ジュール君を……?」


 そういえば、先ほどからジュールは一言も声を発していない。

 妙に緊張しているように見えたのは、もしかしたらこのせいか。

 

「……ああ、良い機会だ。その目で見聞を広げてくるといい。これも修行のうちだ」

「は、はい! 先生……っ!」

 

 重大な使命を授かった騎士の如く、少年はしっかりと頷く。


 迷宮にまつわる一連の騒動の後、彼はボルトの内弟子となった。必死に、一生懸命に。それは良く働いていたのをキオは知っている。

 敬愛する姉と『兄』の背を追うように、ジュールもまた日々成長を重ねているのだ。


 そんな愛弟子に、休暇の意味も込めて旅行をプレゼントしたいのかもしれない。

 様々な物が見えるようになった瞳で、広い世界を見せてやりたい、と。

 

 相変わらず不器用な人である。キオは思わず笑ってしまった。

 

「……なんだ」

「いえ、別に。じゃあ、ジェニーも連れて行っていいでしょうか」

「村長の許可が出ればな」


 出さないはずがあるまい。相手は孫馬鹿極まる、あの村長なのだ。

 けれどもそれを口には出さず、キオはただ頷いてジェニーを見る。

 

「孤島……海……お魚料理……」


 どうやら既に、彼女の意識はまだ見ぬ美食へと向かって羽ばたいているようだ。

 餓狼モードに突入するのも、間近であろう。

 幼馴染の理性が飛ぶその前にと、キオはボルトに向き直った。

 

「それで、その島の名前は?」

「……ああ。モーストロという。東の海に浮かぶ、小さな島だ」


 その名称と、記憶していた地図を照らし合わせ――キオは微かに眉を動かした。

 まさか、こんな偶然があるものなのか。

 

「……キオ?」

「うん、後で話すよ」


 不審げに見上げる幼馴染に苦笑を返し、キオは頬を掻いた。

 

 モーストロ。それは、その島のある位置は。

 魔神が漏らし、キオが脈動を感じ取った――古き『何か』が眠る場所であったのだから。

 

本作の投稿について、他の作業などの関係もあり今後は週3回の投稿という形で進めていく予定です。

基本は月・水・金ですね。今回だけは土日に投稿しましたので、次回は7/8(水)に続きを投稿いたします。


特にこの3章は無理なく丁寧に、じっくりと書き進めていきたいと考えておりますので、引き続きお付き合い頂けましたら幸いです。

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