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最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第2章 迷宮都市と終焉の巨人
31/44

第30話 相棒

今回は少し文量が多めのため、お時間のある時にでもご覧くださいませ。



 ――ヒューズは、目の前で繰り広げられる光景に息を呑んだ。

 

 いったい、何が起こっているのか。理解が追い付かない。


「結晶花は俺のモンだ!!」

「渡すかっ! てめえ、独り占めするつもりだろっ!?」


 互いに互いを罵り合う声と共に、刃が閃き炎や雷が踊る。

 それは、目を覆わんばかりの凄惨な殺し合いであった。


 結晶花など、何処にも見当たらないのに。そんなことすら、彼らは気が付いていないのか。

 砂埃を巻き上げながら血しぶきが吹き出し、辺りを赤々と染め上げてゆく。


 異様だ。それは、あまりにも異常な光景であった。

 哄笑さえしながら得物を振るう冒険者たち。その血煙が霧のごとく舞い、熱狂が渦を巻いて迸る。


「ん、ぐ……っ!?」


 それを見ているうちに、先ほどの衝動がまた、ヒューズの中で脈打ち始めた。

 異常なほどの、目に見えるほどの焔の影。それが周囲から立ち昇って肌から沁み込んでゆく。



 ――猛ろ、吠えろ、燃え上がれ!



 抗い難きそれを、しかしヒューズは歯を食いしばって押し留める。

 これはダメだ、これに身を任せてはダメだ! その一心が、境界を踏み越えることを躊躇させる。


「コ、レット……! 神術を……っ! 『静心』を、掛けて――」


 神の奇跡の中には、狂乱した精神を鎮めるものも在る。

 敬虔な神官である彼女は、当然のごとくその術を授かっていた。


「――コレッ、ト?」


 返事が無い。応答が無い。打てば返ってくる、あの涼やかな声が聞こえてこない。

 常に無い事態に、ヒューズが恐る恐ると振り返る。


「結晶、花……ジュールを、治せる……」


 背筋が、一気にゾッと冷えあがった。

 

 ヒューズの相棒の顔に浮かんでいたのは、先ほどまでの怯えや戸惑いでは無かったのだ。

 ぶつぶつと、弟の名を呟きながら聖具を握りしめ、コレットはただ前を睨みつけていた。


「あの花があれば、ジュールが……ジュールが幸せに……」


 そうして、その瞳の中に揺らめく炎の赤が映り込み――


「――コレットっ!!」


 瞬間、ヒューズの頭から何もかもが消え失せた。

 自身を包む熱も、狂おしい程の殺戮への誘いも。そして殺し合う同輩たちの事すら、気に掛ける余裕も無い。


 ただただ、彼女を失いたくなくて――涙さえ零しながら、ヒューズは相棒へと駆け寄った。


「ダメだ、戻ってきてくれ! コレット!」


 彼女の両肩を掴み取りながら抱き寄せ、目と目を合わせる。

 深紅の彩りに侵されつつあった瞳孔が、微かな戸惑いに揺れた。揺れてくれた!


(……まだ、間に合うっ!)


 むしり取るようにして、お守りを懐から取り出し、コレットの手に握らせた。

 何の確証があったわけでもない。ヒューズの中の直感めいた本能が、それへと縋ったに過ぎない。


 

 ――だが、結果としてそれは最善の行動であった。


 

 小さな布袋が仄かに煌めいたかと思った瞬間、コレットの瞳に翠の光が瞬いた。


「――槍よ、頼むっ!」


 それが好機であると、ヒューズは確信する。愛槍に魔力を込め、力任せに大地に突き立てた。

 穂先から冷気が呼び覚まされて立ち昇り、周囲を包み込んでゆく。

 毛先が凍てつき、霜が瞼にこびりつくのを感じる。荒い吐息が白く零れ出し、それがコレットの呼吸と重なった。


「ヒューズ……?」


 声に、震えが戻る。瞬く瞳に、柔らかな輝きが宿る。

 ヒューズの大好きな、コレットの瞳に――戻ってゆく。


「あ、私……なにを……?」


 愕然と、コレットが慄き出す。先ほど、自分が何に囚われていたか、思い出したのだろう。

 

「よかった……よかったぁ……」


 情けなくも、涙が後から後から零れだす。

 まるで子供のようだと、恥じる気持ちさえもしかし、安堵の吐息に流されてゆく。

 呆然とするコレットを前に、ヒューズもまた体を震わせた。そのまま彼女を強く抱きしめたい衝動に襲われる。


 けれど、今はダメだ。これで終わったわけではない。

 あの異常事態を一刻も早く、収束させねばならない!


「コレット、奇跡を願えるか? あの連中を落ち着かせてくれ……!」

「は、はいっ!」


 怯えと恐怖の表情は、すぐさまに凛とした神官のものへと移り変わる。

 そう、彼女もまた冒険者なのだ。一瞬の迷いが死に繋がると、体で覚えているのだ。


 コレットは、すぐさまに短刀の柄を額へと押し当て、必死に祈りの言葉を紡いでゆく。


「主よ、大いなる運命の神よ。信徒の願いにお応えください。安らぎの風を吹かせたまえ…彼の者たちの炎を、その猛々しき心を鎮めたまえ――!」


 叫びと共に、短刀が振りかざされる。聖句は正しく唱えられ、神の奇跡が顕現する!

 

 ――吹く、風が吹く。心をそっと包みこむ、柔らかく温もりに満ちた風が吹く。

 

 敬虔な運命神の信徒たる、コレットの神術。それはまさしく劇的な効果を発揮した。

 

「あ……お……?」


 殺し合いを繰り広げていた冒険者たちが、その身を瞬時に固まらせる。


「こいつは、おまけだっ!」


 槍を地面から引き抜き、ヒューズは得物を一閃させる。

 風に乗って冷気が飛び、殺意の熱に浮かされたその頭に沁みとおってゆく。

 

「お、う……?」


 からん、と。音を立てて武器が転がる。

 次いで鈍い衝撃音と共に、冒険者たちが膝や足を屈してうずくまっていった。

 

 戦意の消失。『静心スティル』が成功したのだ。

 数を大きく減らしたとはいえ、十数名の人間の心を一気に鎮めるその力。コレットがいかに信仰篤い神官なのか、良く分かるというものだ。

 そしてそれはすなわち、一つの事実を示している。

 

(彼女にどんな罪があろうと、運命の神は見放していない……!)


 肩で息を吐き出す相棒。その背をねぎらうように撫で、ヒューズは目の前で崩れ落ちた『彼ら』を見やる。

 無傷のものなど一人も居ない。体中を朱に染め上げているのも少なく、それは見るに堪えない光景であった。

 座り込むもの、横たわるもの。身動きする力も残っていないのか、誰もがただただ呆然として、息を吐く事しか出来ていない。

 

 しかし、既に倒れて息を絶えているであろう連中は、更に多い。いったい、どれほどの冒険者たちがここへ集ってきたのか。

 これでは、無事に迷宮を脱出できたとしても、協会からの依頼が滞る。今すぐにどうこうとはならないかもしれないが、これは大ごとだ。

 都市の財政にも欠かせない、迷宮産業にも大きな打撃が生じるだろう。

 

「……ふう」


 ともあれ、同胞には変わらない。持ちつ持たれつが冒険者のルールだ。

 それがたとえ、正気を失い武器を向けて来た連中であろうとも――いや、だからこそ同じところにまで堕ちたくはないと、ヒューズはそう思った。


 介抱でもしてやろうと、そう思って足を踏み出そうとした、その時だった。


「……ん?」


 彼らの居る、その向こう側。湖のほとりに、何かが見えた。


(あれは……さっき見た光、か?)


 殺し合いが始まるその直前、目撃した輝きだ。しかし、気のせいだろうか? 先ほどよりも、大きく広がっているように思えた。

 一歩、二歩と踏み出し目をこらす。魔力を込めれば、それだけ身体能力も向上する。強化された視力が、それを捉えた。

 

「――つぼみ?」


 青白い輝きに包まれた、『それ』。項垂れるように身をよじり、その先端は両の手を合わせたみたいにぴたりと閉じられている。

 薬師の息子として、あらゆる植物を目にしてきたヒューズが、間違えるはずもない。

 それはそう、花のつぼみであった。

 

 眩く光るそれは美しく、今にも花弁を開きそうに揺れ動いていた。

 その形状はまるで、透き通った結晶のような――

 

「――おっと、鎮めちまったのか。もったいねえな、もう少しで咲くところだったのによ」


 花の正体へと気を取られていたヒューズの頭に、その声は瞬時に響き渡った。

 

「お前は……っ!?」


 槍を構え、気配の動いた方へと差し向ける。青白い燐光が放たれるその先で、のっそりと蠢く人影があった。

 

「ネ、ネスト……さん……」


 背後から、呆然としたようなコレットの呟きが漏れる。

 その声に反応したかのように男――ネストが物陰の向こうから姿を現した。

 

「やっぱり、まだか。あと、ほんのちょっぴりの後押しが足んねえなあ」


 大男はそのまま悠々と歩き出し、湖のほとりにしゃがみ込む。

 その視線の先に在るのは、あのつぼみだ。結晶の如くに光り輝く、あの――


「それは、まさか……」

「ああ、そうだ。お前らが――コレットがずうっと欲しがってたモノさ」


 男はつぼみに触れはしない。ただ指先を広げて掲げ、撫でるように宙へと動かした。

 

「ようく見るんだな、これがシリウスの結晶花だ」


 あまりの衝撃に、ヒューズは槍を取り落としそうになる。

 

(シリウスの結晶花? あれが? 本当に……っ!?)

 

 柄を握る指先が震え、心臓が痛いくらいにがなり立て始めた。

 コレットの弟、ジュールを癒すために必要な万能薬。その原料となる、幻の花。

 ヒューズが夢に見るほどに焦がれた伝説のアイテムが、今。目の前で花開こうとしている……!?

 

(――落ち着けっ! 冷静になれっ!)


 今すぐに飛びつきたい気持ちを必死に堪え、空いた左手でコレットの肩を掴む。

 

「あ、あれが……あれ、が……っ」


 相棒の声は震えていた。無理もない。長年の夢が今、本当に叶うかもしれないのだ。

 

「この花が欲しいか? 欲しいよな? だったら――」


 ネストは背に手を回して、流れるような動作で斧を取り出す。そして、その刃を花へと向けた。

 

「もういちど、俺と手を組もうぜ。顧客は仕入れた。それはもう、上客をな」

「ひ……っ!」


 ヒューズが掴んだ肩の先から、全身へと震えが伝わってゆく。

 横目で見たコレットの顔は、はっきりと青ざめて血の気が失せていた。

 

「いや、言わないで……! ヒューズにだけは、ヒューズにだけは……っ!」

「へへ、だったらよぉ。こっちに来て、俺とまたやろうぜ。報酬もたっぷり渡す。光と色を取り戻した弟と、何不自由ない暮らしを送れるぜ?」


 強面をいやらしく歪め、ネストが嗤う。

 手招きする指先に、コレットの目が吸い寄せられそうになり――



「――ふざけるな」


 

 その視線を背で塞ぎ、ヒューズが男を睨みつける。

 ああ、そうだ。全くもって、何を言っていやがるのか。大切な相棒を惑わせるのも、いい加減にしろ!

 灼熱の怒りが、胸の奥から湧き上がってくる。それはグツグツと煮えたぎるような炎だ。

 

 先ほど抑えきった激情が、タガが外れたように漏れ出してしまう。

 アイツを許すなと。何を言い出すか分からない、その薄汚い口を塞いでしまえ――と。

 

「ヒューズ……っ!」


 二の腕が掴まれる。その叫びと温もりが、最後の一線を踏みとどまらせた。

 振り返ると、そこには泣きそうな顔のコレットの顔がある。目の端に涙をいっぱいに溜め、必死に首を振っている。

 

 ――そうだ、落ち着け。挑発に乗るなと誓ったろ。

 

「……お熱いねえ。若いってのはいいモンだ。どんな過ちも愛ってヤツで受け流せる。いやあ、本当に見ているだけで微笑ましくて、愉しくて」


 肩を震わせながら、ネストが立ち上がる。

 

「ぐちゃぐっちゃにしてやりたくなるんだよなあ」


 世にもおぞましい顔つきで、男は蛇のように舌を伸ばす。

 目を爛々と輝かせ、涎すら垂れ流しているようにも見える。

 まるで、美食を前に舌なめずりをするかの如き仕草。だが、昔馴染ジェニーのように可愛らしいものでは決してない。

 

 この世の悪意を詰め込んだような、それは醜悪極まりない笑顔だ。

 

 だが、今度こそ激昂はしない。それが相手の狙いであると、ヒューズは薄々と気が付いていた。

 理由は分からない。だが、この男は自分を怒らせて、炎のような狂乱に心身を落とそうとしている。

 

 ヒューズは段々と荒くなる息を、密かに整えた。

 気は張っていても、体は正直だ。疲労の色は濃い。休み無く進んだ探索行に加えて、魔物の群れとやり合ったのだ。精神的にも体力的にも、限界は近づいていた。

 

 そんな状況だからこそ、頭を冷やさねばならない。

 何故なら、敵は目の前の男一人では無いからだ。

 

 ヒューズの視線の在り処を悟ったのだろう。ネストは楽しそうに口元を歪めると、おもむろに顎をしゃくった。

 

「――おい」


 その声に促され、薄闇の中から複数の人影が姿を現した。

 虎の顔にサイの顔、そしてトカゲに酷似したその姿――


「……テメエ等」

「少し前に知り合ってな。少しばかり贈り物をして、そうしてお友達になったのさ。どうもな、ヒューズくんに借りを返したいんだとよ」


 以前、ジュールに絡んでいた獣人たちだ。

 キオにあしらわれた後、ヒューズが『お話』をして言い聞かせたのだが、どうやらそれを逆恨みしていたらしい。

 彼らの瞳には理性の色が無く、荒々しい炎が灯っていた。


「あーあ、大分持ったんだが……ここまでが限界かね。獣人どもはちと相性が良すぎるな」


 飄々と肩を竦めると、ネストは獣人たちの背を足で押しやった。


「そら、好きなようにしな。ただし、殺すなよ。コレットに手を出すのもダメだ。こいつらにはまだ、聞かせたい事があるからな」


 その言葉を聞いてか聞かずか、獣人たちの口から低いうなり声が漏れる。


「さて、ヒューズお坊ちゃん。この花は繊細なんだ。俺がちょいと力を込めて蹴ったら、それで終わりだ」


 ひどくゆっくりと近づいてくる獣人たちの向こうで、ネストが嗤う。

 

「言っている意味が分かるよな?」

「無抵抗でなぶりものになれってか」

「話が早い奴は嫌いじゃないぜ。まあ、お前だってこいつ等に痛い目を見せたんだろ? これが因果応報ってやつさ」


 芝居がかった仕草で、ネストがまた肩を竦める。


「安心しな。死にそうになったら止めてやるよ。発散が必要なのさ。最後の一押しが――」

「ダメ」


 ネストのいやらしい声を遮ったのは、コレットの短い叫びだった。

 翠の髪をなびかせ、迫りくる獣人たちの前へと立ちはだかる。

 

「ヒューズには、手を出させません……!」

「おいおい、良いのかよ? 弟を見捨てるのか? この千載一遇の機会を」

「そんなことでこの人を見殺しにしたら、あの子は私を一生許しません」


 震える背から迸る、凛とした気迫。目を血走らせた獣人たちも、躊躇うように二の足を踏んでいるようだ。

 恐れはある、今もまだ彼女はヒューズの知らない罪に怯えている。

 それでも、彼女は。ヒューズの相棒は。

 

「あなたが、お金にうるさい事は知っています。その花が本物なら、絶対に散らすような真似は出来ないはず……」

「……へえ、そうかい。やっぱり付き合いが深かっただけあって、良く知ってるよなあ?」


 言外にほのめかせる、確かな悪意。

 けれどもそれすら、今のコレットは跳ね除けてしまう。


「な、なんとでも言ってください……! わ、私が穢れた神官なのは分かっています! 本当なら、彼に相応しいなんて思えない、けど……けど……っ!」

「コレット……」

「か、彼は言ってくれたんです! こ、こんなバカな私に、言ってくれたんです! 私が抱えるものを一緒に背負わせて欲しいって!」


 それは、一度は拒絶された言葉だ。

 月明りの下で怯えて泣き叫んだ彼女を、ヒューズは思い出す。

 けれどもコレットは激しく頭を振って、昨夜の自分自身を否定する。


「だから、だから……! ヒュ、ヒューズは、私の大切なパートナーなんです……! た、たとえ何を知られ、知られても……っ」


 宙へと零れ落ちる涙。それをヒューズは美しいと思った。

 きっと、あそこで輝く結晶花よりも、なによりも。

 今の彼女こそが、この世で一番光り輝いていると――そう確信する。

 

「絶対に、彼を裏切るもんかっ!!」


 その叫びに、全身の血が湧きたつ。

 先ほどから感じる、狂乱に満ちた炎の誘いとは全く違う。

 これは、この感情は。抑える必要は無い!

 

「あっ!?」


 ついにしびれを切らしたか。一斉に飛び掛かってこようとする獣人たちの前へと、風と化したヒューズが突き進む。

 

「――おぉぉぉぉ!」


 唸り声と共に、ヒューズは溜め込んだ力を一気に解き放つ。

 虎獣人の顎を打ち抜き、サイ獣人の横っ面を弾き飛ばし、トカゲ獣人の頭を叩き伏せる。 


 回転する槍の柄が、生き物のように舞い踊り、瞬時に荒くれ者たちをなぎ倒した。


「……お?」


 間の抜けた声が、ネストの口から零れ落ちる。

 獣人たちは完全に白目を剥いて、気絶しているようだった。

 打撃の瞬間、放たれた氷の魔力が連中の意識を刈り取ったのである。


 してやったりと笑いながら、ヒューズは槍を構えなおす。 


「んだ、使えねえな……! どうせなら斬り飛ばされて死ねっつうんだよ」


 禿げ頭をガシガシと搔きながら。ネストがぼやいた。

 

「これじゃあ、()()()()だろうが。仕方がねえなア、ったくよお」


 その様子に、ヒューズは違和感を抱く。

 

 ――こいつは、さっきから何を言っているんだ?

 

 行動の意図が、まるで掴めない。

 眉をひそめるヒューズに、ネストは胡乱気な眼差しを向けた。

 

「シリウスの結晶花ってえのはな、人の命を吸って咲くのさ」

「なんだと……!?」

「正確には、すこうし違うんだが……そこまで説明してやる義理もないわな」


 ネストが斧を構え、その切っ先をゆらりと巡らせる。

 

「ま、これだけは教えてやるか。俺もなあ、コレット。カミサマの声を聞いたのさ」

「え……!?」

「お嬢ちゃんが信じているモノとは、ちっとばかり違う『ヤツ』だがね」


 人を喰ったような言い回しは止まらない。

 どこまでが真実で虚偽なのか、やはりヒューズ達に判別は付かないのだろう。

 楽し気な笑みさえ浮かべ、ネストはヒューズを手招いた。

 

「最後に聞いてやるぜ、お坊ちゃんよ。俺と手を組むつもりはないか? そこのお嬢ちゃんごと、甘い汁を吸わせてやるぜ?」


 恐らくは返ってくる答えを知りつつ、ネストがうそぶく。

 

「お前は中々に見どころのある野郎だ。結晶花の秘密も話してやるし、それもくれてやる。俺の仕事をちょいと手伝ってくれれば、それで――」

「いい加減、その口を閉じろ。聞くだけ無駄だって、アンタは知ってるだろ?」

「まあ、そうだな」


 またもや肩を竦め、ネストが嗤う。

 

「お前の体力がそろそろ限界なことも、コレットが手助けを出来るような状態じゃねえってこともな」

「……っ!」


 息を呑んだのは、コレットだ。

 強行軍に加え、先ほどの大規模な神術の行使。彼女もまた、精神力の限界が来ている。

 一定の時間を置かなければ、神の奇跡を願うことは難しいだろう。

 

「それでもやるかい? 行きつく先は死だぜ、お坊ちゃま」


 分かっている。それでも引くことは出来ない。


(キオが見たらなんて言うかな? ジェニーには……張っ倒されるかな)


 二人の姿を心に留め、ヒューズはお返しとばかりに肩を竦めてやる。

 

「ぴいぴいぴいぴい、ヒヨコみたいにやかましいんだよ、オッサン」

「……クク、強がるねえ」


 この男に同意をするのは癪ではある。

 だが、それでもヒューズは意地を張り通す。

 

 大切な相棒と、その弟。兄と慕った師匠に、生意気な妹分。

 そして、見るのも忌々しいと思った、あの父親。

 置いてきた過去と、ここに在る今。そして、掴み取るべき未来。

 

「――惚れた女が後ろに居るんだ、んなもん当然だろ?」


 それら全てを呑みこんで、ヒューズは不敵な笑みを浮かべた。



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