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最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第2章 迷宮都市と終焉の巨人
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第25話 もう一人の神官

――その日、アリシアはいつになく上機嫌であった。

 『不屈の炎』の一員として、先の冒険を終え古巣へと戻ったあと、次から次へと幸運が舞い込んできたのである。


「うふふ……なんて素晴らしいのでしょうか」


 思わず声が零れてしまう。

 例えば、探し人。しばらく姿を見せず、心配していた冒険者仲間が、ひょっこりと顔を見せた。

 そして例えば、探し物。ずっと探していた文献が協会経由で出品され、破格の値段で買い求めることができた。


「これも、運命神様のお導き――いえ」


 アリシアは懐へと手を忍ばせ、『それ』を取り出した。


「もしかしたら、テンシ様のご加護かしら?」


 手のひらに収まる、真っ白で美しい小さな羽。

 旅立ちの際、あのトスカナ村でもらった工芸品だ。


 逸話といい、非常に興味をそそられたため、ゲイルにねだってアリシアが持ち歩いていた。

 

 九死に一生を得た冒険と引き換えがコレでは、割に合わない――などと、皮肉屋の仲間がそう言っていたのを思い出す。


(思えば、私たちも良くぞ生きていたものですね。何の準備も無く、上位魔神と戦って生き残るだなんて)


 アリシアが所属する『不屈の炎』は、熟練した冒険者パーティーである。謙遜せずとも、一流と自負できる。

 しかし、相手が相手であった。千の軍勢すら滅ぼす怪物を敵に回して、死者どころか五体満足に帰れたことは奇跡と言っていいだろう。


(もしもアレが活動限界に達していなかったら……ゾッとしますわ)


 魔神の出現は、最優先の報告事項である。

 強行軍めいた早足で街へと戻ると、アリシア達はすぐさまに協会へ駆け込んだ。

 

 そして、そこからが大変であった。

 聞き取り調査に、報告・報告・とにかくひたすらに報告の嵐。息つく間もなく、様々な部署へとたらい回しにされてゆく。

 アリシアも神殿と協会を何度となく往復し、お偉いさん方を相手に喋りっぱなしであった。

 

(――けれど、終わりよければ全てよし。その後の幸運だけでお釣りがきますわ)


 頬が緩む。気分が高揚する。はしたなく、鼻歌なんぞを口ずさんでしまいそうだ。

大変なのはこれからだと、アリシアも理解している。

 それなりに高位の神官である自分は、協会と神殿の橋渡しを期待されているのだ。

 

 けれど、息抜きは必要だ。絶対に不可欠である。


「うふふ、うふふふふ……! さあ、やることも終わりましたし、ゆっくりと文献を読み解きましょう!」


 そうして、次なる冒険への糧とする。

 この果て無き探求心こそが、アリシアの『運命』なのであった。

 逸る気持ちを抑えようともせず、さあ宿へと戻ろうと踵を返し――


「――あら?」


 アリシアの目が、その少女を捉えた。

 通りを行き交う人々の中で、ひときわ目立つ空色の髪。風に揺られてたなびくそれに、見覚えがあった。

 

 ――どうして、彼女がここに?


 こちらの視線に気付いたのだろうか。少女は器用に人と人の間をすり抜け、驚き戸惑うアリシアの前に立つ。


「こんにちは、冒険者様。またお会いできて嬉しいですわ」

「貴女は……」


 青空のように輝く長い髪と、美しく整った顔立ち。

 間違いない、彼女はトスカナ村の村長の孫娘だ。


(名前は、確か……)


「ジェニーですわ。お久しぶり――というには、少しお早いでしょうか」


 アリシアがそれを思い起こすよりも先に、少女が答える。


「所用がありまして、『不屈の炎』の皆さまが旅立ったのち、後を追う形で私たちもここへ」

「私たち……あっ」


 そこで、アリシアは気付いた。ジェニーの少し後ろに、少年が立っている。

 トスカナ村で見送りをしてくれた、あの少年だ。素敵な羽をくれた人であるのに、なんて失礼な。

 あろうことか、こんな間近で気配を読み落としたことに、アリシアは自身の不明を恥じてしまう。


 そんな女性神官の内心を他所に、少年は前へと出ると、ペコリと頭を下げた。


「こんにちは、冒険者様。今日はとても良いお天気ですね」 


 毒気の全くない、朗らかな笑顔。まるでお日様のようだと、アリシアはそう感じた。

 ほのぼの、という言葉は彼の為にこそあるのかもしれない。

 見ているだけで気が抜けて、心が安らいでゆく。


「申し訳ありません、冒険者様。少しだけお時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」


 畏まった喋り方で、ジェニーが深々と頭を下げる。

 その節々には迷いがなく、見惚れるような綺麗な所作だ。


「頭をお上げください、ジェニーさん。私などに、何も遠慮することはありませんよ」


 それは強がりでも虚栄でもなく、本心であった。


 運命神に仕える者はみな、人と人の縁を何よりも重視する。

 多くの人間とふれあい、言葉を交わして知己を広げてゆく。

 定めを行くものは、己のみと思うなかれ。他者との関わり合いの中にこそ、数多の道が生まれるのだ。


 ゆえにアリシアは微笑みを浮かべながら、ジェニーたちへと手を差し伸べる。


「さあ、お話しください。これも何かの()()ですので――」

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