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最終兵器 村人A  作者: 間孝史
第2章 迷宮都市と終焉の巨人
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第13話 再会の宴


 日暮れ前の宿は、ひっそりとした静けさに包まれていた。


 この都市ではどうやら、一階部分は酒場を兼ねた食事場所として開放している宿屋が多いらしい。外から目につきやすく、客引きにも有用であるから、だろうか。


 とはいえ今はもう、昼時をとうに過ぎていた。食事をする者も少ないうえに、一日の仕事を終えて酒を飲むには早すぎる。実に中途半端な時間帯であった。

 

 それはここ『虹の盃亭』においても同じであった。

 

「弟を助けてくださったこと、心から感謝いたします。本当に、ありがとうございました……!」


 年季の入った木製のテーブル、その端に腰かけて翠髪の女性が深々と頭を下げる。

 その所作は丁寧で、どこか気品すら感じられた。相応の教育を受けたであろうことは明らかだ。

 

 キオはさりげなく女性の全身を目で追った。

 簡素な白い法衣の上に、肩や胸部・膝部分を革の防具が覆っている。動きやすさを最優先した形だろうか。『不屈の炎』の女性神官と似たような恰好をしている。もしかしたら、彼女も運命神に仕える聖職者なのかもしれない。

 

 コレットと名乗ったその女性は、こちらの視線に気づいたか、柔らかく微笑んだ。

 

「しかし、驚きました。まさか弟の恩人がヒューズの幼馴染さんだなんて。こんな偶然があるものなんですね」


 これも運命神様の思し召しでしょうか、と。コレットは嬉しそうに目を細めている。


「全くだぜ。まあ、キオなら何があってもおかしくはないけどさ」


 そう言って、彼女の隣に居る赤髪の青年が肩を竦めた。ずいぶんと気心が知れているように見える。やはり親しい仲なのだろうか。

 そっと目配せし合う姿が何だか新鮮で、キオは驚いてしまった。村に居た頃の彼は、同年代の少女たちと語らうのが苦手だったはずなのに。

 

(変わったなあ……)

 

 久しぶりに見た昔馴染みは、ずいぶんと背が伸びたようだ。顔つきも凛々しくなり、良い意味で子供らしさが抜けている。

 成長した、という事なのだろう。それがキオには少しだけ寂しくて、けれどその何倍も嬉しかった。

 

「コレットさんは、ヒューズとどういうご関係なのですか?」


 ジェニーもまた、それが気になっていたのだろう。珍しく前のめりに体を傾けながら、口を開く。

 ヒューズと彼女はそれなりに仲が良かった。兄妹のように過ごしてきたのを、キオもこの目で見てきたのだ。

 口ではドライな事を言っていても、やはり心配だったのだろう。

 

「ヒューズ――彼とは、二年前にこの都市で知り合ったんです。迷宮の探索の途中で、罠にはまった私を助けてくれて」

「いや、アレは俺の方が助けられたんだよ。深手も負っちまってたし、他の仲間は全滅してたし……」


 右腕をさすりながらヒューズが苦笑する。どうやら二人は互いに支え合い、ともに窮地を乗り越えたのだろう。

 

「そうやって死に物狂いで地上に戻る途中、なんとなくウマも合ってさ。相性が良かったんだろうな。俺は槍使いで、彼女は後衛向きの神官だ」


 コンビとしちゃ申し分ない。そう言ってヒューズは相棒と視線を交わす。目に見えぬ絆のようなものが、そこに結ばれているように思えた。

 

「それから一緒に冒険者として活動して、今に至る――ってところかな!」


 少し気恥ずかしそうに、頬を掻きながら青年は笑う。

 それを見て、キオは懐かしさを覚えた。何かを誤魔化すときに、彼はこんな仕草を良くしていた。

 傍らの女性に向けられた視線に、相棒以上の好意が溢れているのを察する。

 

(あのヒューズが、かあ)


 これが感慨深いという感情なのだろうか。経験したことの無い体験だった。

 

「ふうん……へえ……?」


 それらの一連の会話が、琴線に触れたのだろうか。ジェニーがしきりにウムウムと頷いている。

 これもまた、珍しい動作だ。さらには何故だかチラチラとキオの方を見てくるではないか。どんな意図が含まれているのか、全くもって不明である。

 

 彼女との間には、それこそ目の前のヒューズたち以上の絆があると自負している。なのに、それが理解できないことがキオは悔しかった。

 

(何かの暗号か……? いや、身振り手振りに謎が秘められているのかもしれない)


 ダメだ、分からない。これでは幼馴染失格ではなかろうか。

 ギブアップして答えを尋ねるべきかとキオは迷うが、行動を起こすその前に救いの声が響いた。

 

「さあさ、出来上がったよ! たーんと召し上がれ!」


 現れたのは、獣人に詰め寄っていたあの中年女性だ。この宿の女将であったらしい。

 ふくよかなお腹を弾ませながら、その両腕いっぱいにお皿を抱えている。

 

「おぉ……!」


 感嘆とした声をあげたのは、もちろんジェニーである。目を爛々と輝かせ、テーブルの上に並べられる料理に見入っているようだ。

 先ほどの謎めいた視線は、すっかりと食欲に塗りつぶされて消えていた。それはまさに、獲物を狙う狩人の眼差しである。


「――いただきます」


 ジェニーが告げる厳かな宣言と共に、そうして楽しい食事会が始まった。

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