第二十八話 静かな夜
夕方、隊員たちは烏帽子岳での訓練を終え、仮拠点の倉庫へ戻った。
「お疲れ。荷物の整理は済んだか?」
イシカワが声をかけると、隊員たちはそれぞれ自分の装備を整えたり、簡易寝床を片付けたりしながら頷いた。
全員の準備が整うと、ナカムラが地図を広げ、作戦会議が始まる。
「次の作戦は福岡市での中国軍本部の偵察だ」
イシカワが地図の上を指でなぞりながら続ける。
「佐世保から福岡まで、移動は3日間を予定する。途中、伊万里、唐津、糸島は中国軍に制圧されている。直接通るのは危険だから、迂回ルートを使って発見されないよう進む」
ナカムラが距離や地形、隠密移動の注意点を補足する。
「今回も長丁場だ。無理は禁物だ。昼間は山間を通り、夜間は街道沿いの物陰を利用して進む。街道沿いには中国軍の監視カメラや巡回ドローンが飛んでいる。細心の注意を払いながら、決して不用意に露出するな」
アイカはノートに書き込みながら、イノウエとサカイは地図を覗き込み、隊員同士で小声でルートや補給地点の確認を始める。
マツモトとハヤシは、互いに先行順序や行動タイミングについて相談し、自然と連携を確認する形になる。
会議が終わると、倉庫内で夕食の準備が始まる。アイカや他の女性隊員数名が鍋を火にかけ、簡易の食事を作る。イノウエ、サカイ、マツモト、ハヤシらは配膳や盛り付けを担当し、手際よく食事が整えられる。
夕食後、隊員達はそれぞれ明日の準備に取り掛かる。
イシカワはアイカの横に歩み寄り、荷物を確認するアイカに声をかけた。
「アイカ、明日からの移動は長丁場だ。荷物も多いし、山越えもある。大変だけど、無理せずに頑張ろうな」
アイカは軽くうなずき、少し緊張した表情を見せながらも、力強く答える。
「はい、イシカワさん。気をつけながら頑張ります」
その様子を見て、イノウエやサカイも笑みを浮かべ、各自が隊員たちに声をかけつつ最終チェックを行う。
マツモトやハヤシも冗談交じりに軽口を叩き、倉庫内には緊張感と共に、わずかな和やかさも漂った。
夜が更け、倉庫の外は虫の声さえ途絶えていた。
遠くの街にあるはずの車の音もここには届かない。
ただ、時折風に乗って、低い唸りのような音が聞こえる──それが本当にドローンの羽音なのか、耳の中で鳴る幻なのかは判然としなかった。
不思議なほど静かな夜だった。
白虎隊の隊員たちはそれぞれの寝床に身を横たえ、迫り来る福岡での任務を思い浮かべながら、心を整えていった。




