第二十七話 一時の休息と訓練
2032年、春。佐世保市郊外、白虎隊の仮拠点――山間の廃倉庫。
朝日が薄く山肌を染める頃、隊員たちは徐々に目を覚ます。倉庫内部は薄暗く、床には毛布や段ボールで作った即席の寝床が並んでいる。外の小鳥の声や風の音が、静かに日常の始まりを告げる。
イシカワは起床と同時に、荷物の整理と武器の点検を始める。黒光りする銃身を指でなぞりながら、昨日の戦闘で付いた小さな傷を確かめる。
「ナカムラ、昨日の弾薬の残量、確認してくれ」
彼の声に、ナカムラは淡々と応じる。
「OK。足りてる。今日の訓練でも使える分は確保済みだ」
倉庫の奥では、アイカが鍋に火をかけ、朝食の準備を進める。煙突もない倉庫内だが、窓の隙間から差し込む光が鍋の湯気に反射し、ほのかな温もりを運ぶ。
「あの、味見、お願いできますか?」
アイカの声に、イノウエとサカイが近づき、スプーンで味を確認する。
「うん、いい感じだな」
イノウエが頷くと、サカイも頷いた。
背後では、若手のマツモトが毛布を畳みながらイシカワに絡む。
「イシカワさん、昨日の狙撃、俺の方が上手かったっすよね」
「……ああ?まさか、ドローン撃墜のことか?」
イシカワは眉をひそめつつも、口元にわずかに笑みを浮かべる。
「おい、俺の方が正確だったぞ!」
背後から同じく若手のハヤシが割り込む。
ナカムラが近くで手を上げ、静かに制す。
「お前ら、落ち着け。競うのはいいが、実戦だということを忘れるなよ」
倉庫内には戦闘の緊張から解放された、小さな賑わいが生まれる。
昼前、イシカワとナカムラは烏帽子岳へ向けて偵察に出る。山道を踏みしめ、岩や尾根、谷の形状を確認しながら進む。鳥のさえずりや風の匂いが、戦場の緊張とは異なる、束の間の平穏を運んでくる。
「ここ、訓練に使えるな」
イシカワが指差すと、ナカムラは頷き、後の訓練計画を頭の中で組み立てていた。
倉庫に残った隊員たちは雑談しながら道具や物資を整理する。
「昨日の戦闘、アイカちゃん、よく頑張ったな」
イノウエが声をかけると、アイカは顔を赤らめ、軽く微笑む。
「皆のおかげです…」
アイカの言葉に、マツモトもハヤシもにやりと笑い、「俺たちも役に立っただろ?」とからかう。
「まあまあ、午後の訓練まで休んでろ」
サカイがまとめると、全員が小さく笑いながら一息つく。
午後、隊員たちは山中訓練に移動する。地面はぬかるみ、倒木や岩が転がる自然の障害物が多い。少しひらけた場所に到着したところで、イシカワが隊員たちを整列させ、今日の課題を説明する。
「今日の訓練は射撃と格闘、両方だ」
「了解!」
若手隊員たちは緊張しつつも目を輝かせる。
射撃の標的は木や石で組まれた簡易的な人型や丸い的。倒木を遮蔽物として使い、射撃の精度や遮蔽利用の練習を行う。
「まずは標的を確認。風向きと距離を見て狙え」
イシカワの声で訓練が始まる。
アイカは慎重に呼吸を整え、集中して的を狙う。
イノウエとサカイは横で微調整のアドバイスを送る。
「左に少しずらせ」
「はい、サカイさん」
「イノウエ、距離の補正頼む」
若手のマツモトとハヤシは互いに腕前を競い合う。標的を撃ち終えると、ナカムラが冷静に指摘する。
「二人とも悪くは無いが、まだまだ精度を上げて貰わんと、だな」
二人は舌打ちしつつも笑いながら修正し、射撃を続ける。
射撃訓練の後は格闘訓練。開けたスペースに土嚢や倒木を置き、組み手や投げ技、防御動作を確認する。
アイカはイノウエと組み、サカイが補助に入る。イノウエがゆっくりと投げ技の動作を示し、アイカが真似をする。サカイは後ろから軽く支え、バランスや姿勢を調整させる。
他の隊員も順番に組み手や防御動作を確認し、イシカワとナカムラが随時指示を出す。全員が互いに絡み、連携を深めながら訓練は進む。
訓練後、隊員たちは倒木や岩に腰を下ろし、持参の水筒と軽食で休憩する。アイカが皆にお茶を配ると、イノウエやサカイもほっとした笑みを浮かべる。
「やっぱり、こういう時間が一番落ち着くな」
イシカワが息をつくと、マツモトが小さくうなずく。
「戦闘中は緊張しかないですからね」
「でも、みんなでいる時間は本当に貴重だ」
ナカムラの言葉に、隊員たちは自然に頷く。
春の陽光が降り注ぐ烏帽子岳。白虎隊の絆は、静かに、しかし確かに深まっていった。




